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 ソドムとゴモラの人々

 ソドム。


 そこは商人と冒険者の街。冒険者は普段より実入りのいい仕事にありつけ、商人達も活き活きと商売し、人々は平穏を享受していた。まるで普通の人間の街だ。


 だから忘れていた。


 この街が、魔王の支配する街だということを。







 初めに気付いたのは、通りすがりの冒険者だった。あるいは、俺の近くでなければ他にも気付いた者はいただろう。


 「おい!何だあれはっ!?」


 その冒険者は唐突に叫び、通路の窓に張り付いた。

 つられてそちらに顔を向けた俺は、驚きに目を見開いた。


 真っ黒な何かが、天空迷宮より遥か遠くへと放たれたのである。すぐに見えなくなってしまったが、あれは天空迷宮のトラップではないだろうか?だとすれば、その餌食になっているのは―――


 俺はすぐに踵を返し、迷宮レコードへと向かう。


 いや、そんなわけはない。あの人達がこんな簡単に―――


 時計棟の前には、俺と同じ事を考えた奴等がごった返していた。その人波を掻き分けて、目的の物へと向かう。いくつものむさ苦しい筋肉の壁に揉まれて、俺はようやくそれの前へ。




 あった………。




 ホッと胸を撫で下ろす。あの人はまだ地下迷宮だ。天空迷宮にはいない。


 安心すると同時に、後ろからは次々と新手が来る。

実はこの時、2発目の砲撃があったらしいのだが、俺は過酷な筋肉ジャングルを抜けるのに必死だった………。汗臭い………。


 勇者が敗れるというのは、真大陸を揺るがしかねない大ニュースなのだ。魔王に対抗する為の力は、真大陸には勇者しかいない。その一角が落ちるというのは、ただでさえ劣勢の真大陸の戦力に大打撃なのだ。


 良かった………。もしここで本当にあの人が殺されたりしたら、俺はこれ以上この街にはいられなかっただろう。


 間違いなく、このダンジョンには真大陸の全軍が押し寄せる筈だ。

 そして心情的にも………。




 などと思っていた俺たちは、まだまだ第13魔王を舐めていたと言わざるを得ない。


 その夜から次の日の夕方まで、天空迷宮の砲撃は続いた。


 冒険者は天空迷宮立ち入り禁止って………、




 誰も行かねぇよ!!




 ○○




 第13魔王様。

 俺達は彼の魔王様には恩恵ばかりを授かり、恐ろしさを忘れていた。


 そりゃあ、コション様やその軍勢を全滅させたと聞いた時は、なんて恐ろしい魔王様だと思ったもんだ。戦々恐々として、いつ俺たちの住む場所に支配者として君臨するのかと震えて過ごした。


 でも、


 アムドゥスキアス様はそれからしばらく、俺たちの住んでいた場所、コション様の支配していた地域に手を出さなかった。

 コション様の部下が勝手をして、いろんな町が困窮して初めてその地域を治めた。しかも、その地域を完全に一滴の血も流さず征服してみせた。

 住民どころか、敵兵士すら傷付けずにだぜ?信じられるか?


 そして第13魔王様は俺達に、住み処と安全な環境を用意してくれた。コション様の支配地域で暮らしていた俺達には、アムドゥスキアス様の治世はまさに天国のようだった。


 働かない者には容赦がなかったが、強い魔族に暴力を振るわれることがない街。脅し取られたり、強奪されることがなくなった商品。何より、力だけが支配していた魔大陸で非力な魔族にも成り上がる術を提供してくれるお金。


 だから忘れていたのだ。あのお方が、敵には容赦のない、虐殺王様であることを。




 まず街の中で騒ぎがあった。

 どうやら第6魔王様が放った間者をアムドゥスキアス様が見つけたようで、直属の部下である証の黒服の者らがそれらを捕らえたようなのだ。


 俺はその現場に居合わせたわけではないので、詳しくは知らない。だが、逃げる間者を誰1人として逃がさなかったアムドゥスキアス様の配下の方達の実力はまざまざと見せつけられたそうだ。


 話がここで終わっていれば、事は単なる武勇伝だった。


 直後に起こった処刑の儀式。これにはこの街にいる全員が肝を潰した。


 考えてもみてくれ。


 あの天空迷宮からの砲撃が、真っ直ぐこのゴモラの街に向かってくるんだぜ?


 多くの者が動揺し、街は一時パニックになった。実際の所は、あの魔法の砲撃はこの街の遥か上空で霧散したらしいのだが、それにしても生きた心地がしなかったのも事実だ。


 そしてどうやら、あれが侵入者の処刑に使われたらしいという事に気付いた俺達は、改めて恐怖した。だって、あの砲撃の恐怖をこの街にいた皆は疑似体験してしまったのだ。


 魔王様は力の権化。魔大陸における、力の掟の頂点に君臨する方とはいえ、アムドゥスキアス様のお力は、コション様のような直接的な力ではない、別の、もっと凄い力を秘めておいでなのではなかろうか?


 そんな力で処刑された間者に、ほんの少し同情してしま―――




 心中を見抜くように、2度目の砲撃。今度は炎の怒涛。




 ―――同情なんてするわけがない!!

 ああ!するわけがねぇ!!


 この街は秩序の街だ!!無法を働いた第6魔王様と間者が悪い!!アムドゥスキアス様万歳!!

 え、えっと………、ば、バンザーイ!


 ………………ホントに聞いてるわけじゃないよね?




 それまでダンジョンに潜る者には2通りの傾向があった。1つは単純に金が欲しい者。もう1つは、ダンジョンを踏破し、アムドゥスキアス様に直接お目にかかり、仕官を申し出ようとする者。


 後者が、この以後消えたのは言うまでもない。




 夜から始まった砲撃の乱舞に、街の者は怯え、




 朝には慣れた。





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