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 謎の商人たち

 商業組合。天帝国リシュカ・バルドラ本部。


 私の職場。商業に関する様々な情報が集まるこの本部では、最近は2つの謎が噂されています。


 2つの謎の商会。


 ザチャーミン商会と、パイモン商会。


 ザチャーミン商会は以前からズヴェーリ帝国に存在する商会で、元々業績の良かった商会です。

 しかし、ズヴェーリ帝国は島国なので、そのせいで商圏も狭く、大きな商会ではあっても真大陸トップクラスの商会には一歩及ばない規模の組織でしかありませんでした。


 これまでは。


 しかし、アムハムラ王国の王国空運が活動を始める少し前から、この商会の奇行が始まります。


 まず、商圏ではないアムハムラ王国の王都に支店を出したこと。


 本来、そんな事をしても他の商人の商圏では自由に商売なんてできないはずでした。しかし、直後にアムハムラ王国で王国空運が運行され、そのマイナスは一気に帳消し。急騰する王都の土地を遥かに安く、そして空輸での中継地点を手にいれたのです。


 この手腕には、流石の商会本部も舌を巻きました。何せ彼らが手にいれた土地は、王国空運発足の後、我々商業組合が支部を移転させようとした場所だったのですから。しかも、実際に支部を出したのはザチャーミン商会支店の隣。その土地の価値は、ザチャーミン商会が買った時と比べれば10〜20倍の価値に跳ね上がっているでしょう。彼らの慧眼に畏敬の念を覚えるのも、無理からぬ事です。


 しかし、ザチャーミン商会はさらにこちらの予想を上回ります。


 いつの頃からか、ザチャーミン商会の扱う商品にマジックアイテムが増えてきたのです。その出所不明のマジックアイテムで、ザチャーミン商会は莫大な資金を集め始めたのです。

 どこからか、尽きる事無くマジックアイテムを補給して、それを売る商会。


 同時期に幾つかの商会もまた、マジックアイテムを主力商品にした商いを開始しました。そこでようやく、マジックアイテムの出所がわかったのです。


 第13魔王のダンジョン。


 ザチャーミン商会やその他の商会は、魔王の居城から商品を手に入れていたのです。

 しかも魔王公認で。


 今、魔王のダンジョンは商人の間で最大の注目を集めています。無尽蔵にマジックアイテムを吐き出す金の成る木。と、浅はかな商人は思い、少し知恵のある商人は初期に参入した商人達のシェアに臍を噛み、優秀な商人はマジックアイテムの値崩れを恐れて、必要の無いマジックアイテムの処分に奔走しています。


 今、マジックアイテムは高騰傾向にありますが、このまま卸すマジックアイテムが増加の一途を辿るなら、確実に値崩れするでしょう。魔王のダンジョンに居座る商人達は、どうやらその値崩れを起こしたいみたいです。値崩れすれば売値が下がる一方で、それを手に入れてくる冒険者からも買い叩けます。そしてどうやら、いくら捌いても絶対に値崩れし得ない商品の確保も行っているようです。


 ザチャーミン商会は、こうして真大陸で有数の商会に成り上がりました。これら全てを、ただの偶然、運が良かっただけと断じる風潮もありますが、私はそうは思いません。

 然るべき情報を手に入れ、それを活用しての大胆不敵な躍進劇。あの商会の情報網が気になります。




 さて、では2つめの謎、パイモン商会です。


 これは一言で事足ります。文字通り、




 謎。




 真大陸各国に現れては大口の取引を繰り返し、北の王室や皇室にまで販路をもち、前述のマジックアイテムから、『しゃんぷー』と『りんす』なる強い商材を抱える商会。


 しかし、商業組合には件のパイモン商会なる商会は登録されておらず、どうやらこれも魔王のダンジョンに本店が存在する事がわかっております。

 在籍する商人は、キアス、マルバス、ハーゲンティー、そして最近アムハムラ王国で確認されたウァプラ。


 はっきり言って少数精鋭もいいとこの少人数でありながら、彼の商会に流入する資金は大商会と言って何の過言もない額です。


 この組織の一番恐ろしい面は、そのフットワークの軽さです。

 第13魔王誕生のおり、世界中で食料の買い占めが起こりかけた時、どうやってかアドルヴェルド聖教国からズヴェーリ帝国へ食料を輸送し利ざやを稼いだかと思えば、ドワーフの山脈国家、ノーム連邦を無視して独自の武具を売り歩き、アムハムラ王国でアムハムラ王との商談をし、その最中襲撃騒ぎに巻き込まれたと思えば、次は値の落ち着いた食料を買い込んでどこかへ消え、再び現れると『しゃんぷー』と『りんす』を商材に真大陸中を飛び回り、次は新種の酒、そして良質な材木の産地、パロビリム大帝国が災害級の魔物バハムートに襲われるのとアムハムラ王国の建設ラッシュが同時期に重なり起きた木材の高騰では、先物買いで荒稼ぎをしつつ、アムハムラ王国へは定価でそれを卸した。


 この商会の動きは、全くもって謎です。王国空運も無い時期から世界を転々と駆け回り、必要なものを必要な場所に運ぶ。


 商会内では『転移を使える魔法使い集団』だとか、『魔王のダンジョンの攻略者』だとか、『アムハムラ王国の秘密商人』だとか言う噂が飛び交っております。







 さて、本題です。


 なぜ私がこんな噂話程度の『謎の商会』について考えていたのかというと、その件の2つの商会に手紙を届ける使命を賜ったからです。


 天帝天下直々に。


 ………正直、気が重いです………。


 一通はパイモン商会の会頭宛、二通目はザチャーミン商会のダンジョンの街支店へ、と、もう一通。




 魔王宛。




 はぁ………。帰りたい………。


 そんな事を思いながら、アムハムラ王国がこの度一新した巨大な飛行船へと乗り込みます。





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