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 空に浮かぶ地獄っ!?

 「うーん………、色々と問題点が見つかったね?」


 『はい。生物に有効なトラップも、魔法で作った人形では効果がない場合があるのですね』


 僕らは天空迷宮に発生した爆発を見上げながら、溜め息を吐いた。


 その爆発は一気に天空迷宮の道を駆け抜け、蛇のようにうねり一瞬にして夜の空を赤々と染めた。侵入者が扉を開くと、爆発の余波を外に逃がしてしまうようだ。まぁ、これはこのままでいいか。その外側に、さらにもう1つ扉でも造っておけば大丈夫だろう。


 勿論、デロベの砂人形の動向はダンジョンマスターの能力で確認していた。

 砂人形を作るくらいなら簡単な魔法ででも可能だ。そんな簡単な方法で、天空迷宮のトラップを結構突破されてしまったのは痛恨の極みだった。


 「あーあ、電気トラップ、気圧トラップ、気体トラップは効かなかったなぁ………」


 『そうですね。本来あの水に入ったら、生き物は感電してしまうのですが』


 デロベの入った部屋には、充満した水に電気が流れていたのだ。風神雷神の像から。雷神の像から風神の像に、水を伝って電気が流れる。そこに生き物が入れば………。

 だが、砂で出来た砂人形には効果がなかった。せっかく考えたトラップだったのに………。残念無念。


 まぁ、あの部屋のトラップは電気だけじゃないんだけど。





 『水を爆発させるという発想は、この世界では初の試みでしょうね』


 「水蒸気爆発じゃないけどな」


 まぁ、残っていた水で起きてるかもしれないけどね。水蒸気爆発も。


 ところで、電気分解の実験で、水から水素を取り出した経験はないだろうか?


 これだけで、あの部屋で何が起こっていたのかはお察しいただけるだろう。


 水。つまりH2O。水素と酸素の化合物。

 これを電気分解すれば当然水素と酸素が生まれる。そして、空気中で酸素と水素が混ざり、それに火がつくと水素爆発が起こるのである。


 さて、この部屋の構造について少々面倒くさい話をしよう。


 この部屋は高さが10m程あり、2m半しかない扉が開いたくらいでは水素も拡散しない。電気分解で水から得られる水素と酸素の割合は、水素2に対し酸素1。水素は天井付近へ、比重の重い酸素は扉付近に漂っている筈なのだ。普通はここで酸素酔い等の症状が出るのだが、デロベの砂人形ではそれが起こるわけもなく、あっさりと通過されてしまった。


 順を追って説明しよう。この部屋には普段、水が満載されている。そして、天空迷宮の城門を開けると同時に、この部屋にある装置が作動するのだ。

 陽極である雷神像、陰極である風神像に電気が流れ、満載されていた水は電気分解を開始する。


 ここで2つ注釈をしておこう。


 1つめ、液体より気体の体積は大きいため、余った水の排水装置が必要なこと。これは、転移陣でカバーした。デロベは勘違いしていたかもしれないが、あの部屋にある転移陣は注水のためだけではなく、排水のためにもある。爆発の後には、注水のためにも使うけどね。


 2つめ、水は本来電気を通しにくい性質を持つため、本来は水酸化ナトリウム水溶液を水に混ぜる必要がある。ただ、こんな剣と魔法の世界で水酸化ナトリウムが簡単に手に入るわけがない。イオン交換膜さえあれば、塩水をイオン交換膜法で電気分解して簡単に作れるのだが、残念ながらそんな物を作る知識はないのである。消石灰と炭酸ソーダから作る方法もあったはずなのだが、炭酸ソーダの作り方が思い出せない………。確か重曹を分解すれば出来たはずなんだけど、どうやって分解するんだっけ………。


 とまぁ、理科の実験みたいな事を考えていたのだが、結局ただの水に高電圧を流す事にしたのだ。


 ほ、ほらぁ、電流トラップにもなるしー………。


 そして、陽極である雷神の方からは酸素、陰極である風神の方からは水素が発生し、H型ガラス管など使っていないこの部屋では、酸素と水素が混ざってしまうのである。


 後は知っての通り。


 出口の扉を開けると、空中に初級レベルの火魔法が発生し、それからは形容しがたいほどのすさまじい爆発が発生するのである。


 誤爆を防ぐため、絶縁体である扉もガラスで作ってはいるが、下手に仲間がいてそれに触れたり、金属鎧を着ていたりすると、電流に晒されるこの部屋では静電気も起きやすい。まぁこれはデロベには意味無かったので、ダメ押しのトラップ使う事になったけど。


 もしダンジョンが破壊不可能でなければ、天空迷宮ごと吹き飛ぶような爆発、と言えば分かりやすいだろうか。


 「ガナッシュ辺りまで吹っ飛ぶ」


 『それは無理でしょう。アムハムラにも届きませんよ。多分』


 「うっさい!例えだよ例え!」

 こんな物を対人兵器として使うなんて、ちょっと気は引けるけど、でもやっぱり命は惜しいしね。我が身がかわいいもんね。


 『あと、コションのレイスの実験は出来ませんでしたね?』


 「それは仕方ないさ。ぶっちゃけ、ただ魔力溜まりに放置してたら偶然生まれちゃったレイスだ。一応種族名はレイスキングだけど、ダンジョンの機能でもう一度レイスキングを呼び出したとしても、ちゃんともう一度コションのレイスが生まれるかどうかはわかんないしね。そこは慎重にいこう」


 因みに、レイスキング(コション)は天空迷宮のボスだったコカトリスとバジリスクをあっさりと倒してしまっていたりする。レイスにはこの2体の一番厄介な石化が効かないのも大きいだろうが、それでもやはり強い。


 僕の迷宮って、どうしてもボスが弱く感じちゃうのが欠点だったんだけど、コションのお陰で天空迷宮だけはダンジョンに見劣りしないボスが出来た。

 コションもきっと、あんな立派な城に住めて喜んでるよねっ!理性残ってないけどねっ!元から無かったかもしれないけどねっ!


 因みに、コションにはレベル上げのためにコカトリスとバジリスクを定期的に倒させている。石化が効かないと、経験値的においしい魔物だろう。




 「よっし!魔法デコイ対策!!とっとと考えるぜっ!!」


 『まぁ、魔法で作った人形をこれほど長時間操れるのなんて、魔王や勇者でもそうはいませんけどね。多分フルフルの水人形でも無理です』


 「術者が近くにいたとしたら、術者ごとダメージがいくトラップばかりだからな。そう考えると今のままでもいいかと思うけど………。いやいや!!不安の種は早い内に潰しておくに限るっ!」


 『よっ!さすが人を殺す才能はピカ一ですね』


 「その言い方やめてっ!」





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