天空迷宮
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!
あいつ絶対頭おかしいっ!!絶対おかしい!!
生身だったら100回死んでる!!いや、1000回死んでるッ!!
あのアムドゥスキアスにここに飛ばされて、もうどれくらいの時間が経ったかわからねぇ。辺りが明るいから、夜は明けたみたいだ。
つーかどうなってんだコレ?
砂粒一つ一つが拳大の鉄球並みに重くなって、おまけに少しでも道から外れると最早コントロールも効かねえ。本来、落ちても大して支障は無いが、ここの場合砂粒が落ちたらもう俺にそれを操るなんて無理だ。そっちに割く魔力なんてありゃしねぇ。
言ってる傍からもう一発来やがった!
大出力の火魔法。俺はこれを、砂を分散させる事で避ける。いや、避けきれてはいねえ。いくらかの砂はその魔法に呑まれて消える。それからもう一度砂を集め、スライムのように流動しながら這って進む。この状態で人型をとり続ける意味なんて無いし、できるだけ広範囲に体を伸ばしていた方が回避も楽だ。
唯一の救いは、この砂人形は生き物じゃねぇから、魔物が寄ってこねぇってことだ。ぶっちゃけ、あんな雑魚でも今は戦闘に割く余力なんかねぇ。ははッ!魔王だ勇者だ言われてた俺が、スピリットだのウィル・オー・ウィスプとの戦闘に臆してるなんてな。
だが、必ずここを突破してアムドゥスキアスの度肝を抜いてやんぜ!!
俺は文字通り這う這うの体で進む。
ってなんじゃこりゃぁぁぁあ!?
………勘弁してくれ………。なんだこの粘着床………。
気付かずに乗って、かなりの砂を絡め取られちまった。仕方がないので、その分の魔力は残った砂のコントロールにあてた。
空中を浮遊させ、粘着性のある床を飛び越える。くそッ、ここでは浮遊させるだけでもかなりの魔力を使うってのに!
あぁもう!!もう一発来やがった!!今度は風かっ!クソッ!
「やっと着いた………」
空中の回廊を抜け、ようやく透明な城に辿り着いた頃には、空は再び薄暗くなりだしていた。
そろそろ丸1日ここにいた事になんのか………。砂人形に蓄えていた魔力も砂も大量に消費しちまって、まともな形には戻れない。だがなんとかアムドゥスキアスくらいの背丈の人型をとる。この城の内部は体が重くならないようだ。正直助かった………。
しかし、『アレ』はどうすりゃ良いんだろうな?
ガラスの向こう、そのまた向こうの向こうの向こうの透明な城の最奥には、ここの番人らしき魔物が静かに佇んでいる。
半透明な体、物々しい鎧兜、獲物の大斧。
「おいおい、魔王のレイスとか勘弁してくれよ………」
そこには懐かしき、
コション・カンゼィール・グルニの姿をした魔物がいた。
なんつーモンを門番にしてんだあのガキはっ!?魔王倒す前に、魔王との戦闘させる気かよっ!?
つーか、個体を狙ってレイスにするとか、どうやったら出来るのか皆目見当がつかねー。あいつ、マジで謎が多すぎるぜ。
とりあえずコションはほっとこう。まずはこの城を突破しないことには、コションもアムドゥスキアスもねぇ。
俺は、城門に手をかける。
ゾンッ!
………………。
ふざっけんなっ!!
生身だったら死んでたぞっ!?クソッ、透明な城の透明な城門だから油断してたっ!!
トラップまで透明かよっ!?
いきなり扉の隙間から伸びた透明な板は、あっさりと俺の体を両断してもう一度扉の奥に戻る。つーか、対刃物には絶対の威力を誇る俺の砂人形が何の意味も持たねぇ。少しは欠けろよ、刃物としてっ!!
刃物に八つ当たりしても仕方がないので、門の正面には立たずにそっと扉を開ける。ご丁寧にもう一度飛び出す刃を見てから、中に足を踏み入れる。
はぁ………、超進みたくねー。
大体わかってきた。この透明な城のトラップは『見えない』事に特化してるのか。
透明な仕掛けと、透明な凶器。見えない糸、見えない刃、見えない落とし穴。
落とし穴って………。ここから落ちたら地面までまっ逆さまだっつの。
ただ、それ以外はあまり大した物はねーな。たまに、何もない廊下とかあって拍子抜けするくらいだ。
ん?
ここは水があるな。
広間のような場所、その床には水が充満していた。入り口から一段低い場所にある床には、転移陣と思われる光る円陣があり、水はそこから湧き出しているようだ。
まぁ、ちょっと厄介ではあるが、これくらいの水場を歩くくらいなら問題ない。頭まで浸かるくらいだと、体が水を吸って動きづらくなるからな。
湿気もあんま籠ってねーし、助かったぜ。
その広間も特に何事もなく進み、半ばまで到達した。
ここ、さっきの空中回廊より遥かに進みやすいな。アムドゥスキアスの奴、あっちにばかり手をかけて、こっちに手を抜いてやがったのか?
こんなでっかい像なんか作るくらいなら、もっとトラップに力を入れやがれ。まぁこっちとしてはありがてぇけどな。
俺は、広間の左右に鎮座する黄金の像を見ながら溜め息を吐いた。
これは、オーガか?角を持つ人型の一対の像。片方は太鼓を持ち、片方は袋を背負っている。何か意味があるのだろうか?
「つーかコレ、金じゃねーか!あいつの財力はどうなってやがんだ!?」
こんな2メートルを遥かに越える金の像、売ればいくらになるんだよ!?
あーあ、クソッ。そりゃああの魔王共も買収されんだろ。アムドゥスキアスめ。
だが、その時の俺は他に気づくべき事に全く気付かなかった。
なぜ『見えない』事にこだわっていたこの城で、こんなあからさまに見える像があったのか?
なぜこの部屋には水が湧いているのか?
なぜ水が湧き出しているのに、この部屋で一定の水位を保っているのか?
そしてなぜ―――
―――水の満ちたこの部屋に、湿気がないのか?
答えはわからない。わからなかった。何も。
俺が出口の扉に触れた瞬間、それは起きた。
爆発。
魔法ではない。しかし、そうでなければ生み出せないような巨大な爆発が起こり、世界は炎に塗りつぶされた。
意味がわかんねぇ。どんな理屈で爆発したのかも、それを回避する方法も、何もかも。
やっぱ、あいつ頭おかしいわ………。