これさえあれば、きっと世界は平和だろっ!?
「あーあ、ホント、面倒臭い事になったよなぁ」
「本当でございますね。ささ、御一献」
「お、悪いなレライエ、お前の慰労の席なのに」
「いえいえ、キアス様にお酌ができるなんてこの上ないご褒美にございます」
レライエが嬉しそうに注ぐ果実水を、僕は口にしながら恍惚のため息を吐く。
あぁ、ここは天国だなぁ………。
美しい女性に囲まれて、うまいものを口にして、しかもそこが風呂!
これが至福でないわけがない。
僕らは元小物連合、現オリハルコン同盟の本部から帰還し、いの一番に風呂へ入っていた。だって久しぶりにコーロンさんとレライエがいるのだ。入らないわけがないっ!!
コーロンさんとレライエの任務は今日で終わり。明日からはそれぞれ、元の仕事に戻ってもらう。
レライエはともかく、コーロンさんは毎日一緒にいるわけじゃない。シュタール達が帰ってくれば、レライエとの入浴も厳しくなる。
なら今入らない理由などない。混浴しない理由などどこにもない。あったとしたらその理由を叩き潰す!!
「コーロンさーん」
「うわっ!?こら、裸でくっつくんじゃねぇ!」
「久々の尻尾、ケモミミー」
「ちょ、てめっ、どこ触ってやがるっ!?」
相変わらずコーロンさんは恥ずかしがり屋さんだなぁ。そんな君も可愛いよ。
「キ、キアス様っ、ささ、もう一献っ!」
「うん、ありがと。
今回はレライエのお陰で、大した労力も使わず小物連合を乗っ取れたよ。あの商圏と、何より僕の領地以外で通貨を広めてくれた功績は大きい。大金星ってやつだ。
何かご褒美を出さないといけないよなぁ」
それもこれも、レライエがあの時独断専行しなければ成し得なかったのだから、本当にレライエはお手柄だ。
「そ、それでしたら、ねねねね願わくは、キ、キアス様から、せせせせ―――」
せ?
「せっぷんを―――」
「あ、そう言えば長巻折れたんだっけ?オリハルコンの長巻造ってあげるよ!」
ただ、長巻の刀身は日本刀と同じ造りなのだが、オリハルコンだと日本刀の良さが潰されちゃうんだよなぁ………。
切れ味と耐久度。それが日本刀の美点なのに、そのためには粘りのある鉄、それに炭素を加えて鋼にし、炭素の配合率で層を作っらないと無理だ。オリハルコンはただ硬い金属。硬度は鋼を遥かに越えるものの、粘りがない。そして、硬い剣は折れやすいのだ。
日本刀の硬くてしなる、という矛盾を体現させる機能美、それが出来るのは今のところ、鉄が一番なんだよなぁ。それをオリハルコンでも再現しないといけないんだよなぁ。
どーすっかなぁ………。
「武人としての私は快哉を感じておりますが、女としての私は………」
「レライエ、このアホにそっちを期待すんな。虚しくなるぞ?」
一度実験はしてみたんだよな、オリハルコンと加工しやすい粘りを持ったミスリルを使って。ただ、やっぱり完全に違う金属の2つを併用するのは難しいという結論になったんだよな。
ホント、どうすっかなぁ………。
「ました、ミュルも、ぷっしゅないふ」
ああ、デロベに放った分がほとんど使い物にならなくなったんだっけ。あいつのあの体、剣には致命的だよな。マルコの圏もそろそろ専用の武器に変えたいし。圏は大きさと重さで、せっかくのマルコの速度が死んじゃうんだよね。
「おーし、また造ってやるからなぁ。マルコもな」
「マスタ、ありがと」
「わーい、ました、大好きぃー」
2人は相変わらず可愛いなぁ。
「ま、まおうっ!なぜ小生まで一緒に入らねばならないのだっ!?」
ああ、そういえば今回は新参のフォルネゥスがいたんだっけ。レライエとコーロンさんは初対面だったよな?
「レライエ、コーロンさん、あの子はフォルネゥス。新しい僕らの仲間だよ」
「無視をするな!今まで通り、男女別々に入れば良いではないか!?なぜ一緒に入る必要があるっ!?」
「まぁまぁ、皆でお風呂に入ると仲良くなれるんですよ、フォルネゥス。だからキアス様と一緒に入って、もっと仲良くなりましょう?」
「えぇい、放すのだパイモン!小生は婚前に異性に肌を見せてはいけないと、お祖父様に教えられた!何より恥ずかしいではないか!?」
フォルネゥスはパイモンに『だっこでお風呂』状態だ。極上の感触だろ?
「コーロンさぁん………」
「うおっ!?ウェパルがのぼせかけてんな。アタシ、先にあがんぜ?」
チッ、逃げられたか。
まぁいい、シュタール達が帰ってくるまで何度でも機会はある。奴等にはそれ相応の餌も与えているしな。
「お、よぉキアス!今かえ―――」
「魔王キーック!!」
「うぉ!?」
僕の渾身の飛び蹴りは、あっさりとシュタールにかわされてしまった………。
リビングに戻ると、勇者パーティーが勢揃いしていた。湯上がりに運動させんな!
くそぅ!?なんだってこいつらこんな早く帰ってきやがった!?まさか、他の武器の存在に気づかなかったのか?
「いやぁ、実はアルトリアが無茶しやがってなぁ、帰ってこざるを得なかったんだ」
成る程、アルトリアさんのせいか。
アルトリアさんに少々お灸を据えようかと見てみれば………………、
「フーッ、フーッ」
パイモンとレライエに取り押さえられながら、目を血走らせた鼻息の荒いアルトリアさんが僕を凝視していた………。
無理、怖い。あんなのに苦言を呈すなんて無理だよぉ………。
こうして、僕の混浴計画は水泡に帰した。