所在判明っ!?
状況は決した。
デロベの大きな盾だった小物連合は、脆く砕け散った。そして眼前には第9、第10、第12、第13魔王のオリハルコン同盟が立ち塞がっているのだ。
これは組織の結束を強化しなかったデロベのミスだが、同じことは僕にだって言える。このオリハルコン同盟だって、場合によっては僕から離反する可能性がある。それを防ぐには、ある程度ヌエと3つ目にも甘い汁を啜らせる必要があるだろう。その為の1つが、オリハルコンの契約書である。
2人が、オールのオリハルコンを狙って暗殺者を差し向けていた事は知っている。ここ魔大陸では、オリハルコンを持つ事は1つのステータスなのだ。持っていない領主は魔王と言えど侮られる。いや、侮られると言うより、持っている領主は憧憬を集め、持っていない者はその分見劣りしてしまう、と言うべきか。
何せ、最強の象徴だからな。
だから武器でなくても、この契約書をオリハルコンにして持たせる事は意味があるのだ。まぁ、建前上は『不変の金属に書き記した契約を、それぞれが文字通り金科玉条とし遵守するため』と言っといたけどな。
2人の飛び付きようといったらなかった。
「………くくく………、ふひっ、ふはははははははははははははははは!!」
なんだ?
デロベの奴が狂ったように笑い出しやがった。まぁ、狂ってるってなら最初からだけどさ。
「いいっ!!
いいね!!くはははははははははははははは!!
なんだこれ!?全然意味わかんねぇのに、スゲーさっぱりと完敗しちまった!!
お前おもしれぇ!!
こんなに明確に負けるなんて死ぬ時以外あり得ねぇと思ってたが、中々どうして世界は摩訶不思議だぜ。生きてる内にこんな見事に負ける事が出来るなんて思わなかったぜ!!
お前、アムドゥスキアス!俺はお前を倒したくなった!!
お前はこれから、俺の獲物だ!!」
うわぁ………、なんか目を付けられちゃったよ。
「じゃあ早速、とりあえずの第一ラウンドと行こうぜ?」
「おいおい、魔王を4人一遍に敵に回すつもりか?」
「んなもん、これまでもこれからも変わらねぇよ。ここで俺が何をしなくたって、お前らは俺の敵なんだろ?」
確かに。
えー………。やだよ戦いとか。だって痛いし、僕弱いし、仲間にだって魔王の相手なんてさせたくないし。
「落ち着け。まぁ、落ち着け。茶でも飲みながらゆっくり話そう。お前の退職金くらいなら払ってやってもいい」
なんだこれ?リストラした相手に刃物を向けられる上司みたいな台詞だ。いや、この状況なら例え話にならないか。
「いるかそんなもん!!」
うわっ、もう走り出したよこの子。短気だよ。最近の若い魔王はこれだから!!
「キアス!!」
「キアス様!!」
クルーンとパイモンに庇われ、デロベの魔手は僕まで届かない。
「なんだ?お前らで遊ぶのつもりはねぇ、すっこんでろよ」
「そんな言葉で下がるとでも思っているのか?
私は貴様に殺されかけたのだぞ?」
ああ、あったね。そういえばそんなこと。
「あれ?なんだお前、クルーンか?」
「そうだ」
「またちんちくりんな姿になったもんだなぁ。
つーか、お前はどんだけアムドゥスキアスに調教されたんだよ?全く別人じゃねぇか?」
通常業務と残業のフルコースかな。魔王って便利だよね。過労死しなくて。
「姿形で侮るなよ?私はもう、貴様の知っているクルーンではない!!」
「いやまぁ、姿形から性格まで変わっちまってんだから、確かに俺の知ってるクルーンじゃねぇよ。
つーか、お前本当にクルーンか?」
そうなんだよな。これって結構大変な問題なのだ。ヌエと3つ目にも疑われたし、僕が密かにクルーンを亡き者にして傀儡を造ったと思われたりもした。これからクルーンを領地に戻す時、どうやって説明すればいいんだ?
「今ここで貴様を殺すのは私の役目であり悲願だ。苦しんでのたうち回って無様に命乞いをしたら、殺してやる」
「ははっ!言うじゃねえかピエロ。相変わらずの道化ぶりに、俺も懐かしさすら覚えるぜ」
「抜かせ!私はクルーン。第10魔王クルーン・モハッレジュ・パリャツォス!!
今宵貴様を殺す者だ!!」
おお、格好いい。初めてまともに名乗りをあげたな。
ただ、やっぱり僕はその大見得を邪魔しないといけない運命にあるようだ。その勘違いを訂正してあげないといけない。
「悪いがクルーン、今日そいつを倒すことは可能でも、今日そいつを殺すことは不可能だ」
「キアス?」
「キアス様っ!!」
クルーンが首を傾げるのと時を同じくして、背後の通路からレライエが飛び出してきた。
「お気をつけくださいキアス様!!デロベ様は不可思議な技をもって、妾の武技を凌いで見せました!キアス様からいただいた長巻も、刃がこぼれ刀身も折られてしまいました。
いくら斬りつけても、堪える素振りすら見せずにでございます!ゆめゆめご油断召されませぬよう」
なんだ、もう一当てしちゃった後なのか。僕は一回も刃を交えずに勝つつもりだったんだけどな。
「どういう事だキアス?先程の貴様の言といい、あのレライエとかいう者の忠告といい、何か知っているのか?」
あー、もういいか。最後の最後にバラそうと思ってたんだけど、なんかやる気なくなっちゃった。もうあっさりバラしちゃお。
「今この場にデロベはいない。あそこにいるの、ただの砂人形だよ」
砂で出来た人形。あんなものを何度も斬りつけていたら、そりゃあ刃こぼれするさ。密度を変えれば、折れるのも当然。姿を消す魔道具だって、周囲に砂をばら蒔いて辺りを探られたら一発で見つかってしまうだろう。
「っていうか―――」
ただ、この砂人形、確かに魔法を使えば比較的簡単に作れるだろう。だが、それを離れた位置から操り、あまつさえレライエに匹敵する戦闘までこなすとなれば、その難易度は遥かに高くなる。
土魔法でも、最上級魔法でなければ無理だろう。
「―――あいつ、第6魔王じゃないよ。
だろ、土の勇者さん?」