買収、乗っ取り、極悪商法っ!?
状況が一瞬止まった瞬間を狙い澄まし、僕は命令する。
「『短距離連続転移軍靴』使用。レライエを連れて僕らの後ろへ回れ」
コーロンさんへの命令。この似非挟み撃ちの状況は、ある意味レライエとコーロンさんを人質にとられているようなものだ。陣営をこっちに纏めた方がいい。
間をあけず、レライエの姿が消える。すぐ後ろにはマーキングしていなかったようだ。まぁ、当たり前か。
『連続転移軍靴』正式名『韋駄天』は、最初にマーキングを施さないといけないという転移魔法のデメリットは残っているものの、連続使用が可能な代物である。その分転移距離は500mという制限を設け、盗まれてもダンジョンでの有効な使用法はない。
状況の変化に、ようやく意識が追い付いたデロベが背後を振り返り、それから僕を見る。
「今のは、これをやるためのハッタリか?」
「そんなワケねぇだろ。
お前はクビだ」
僕は今一度繰り返し、デロベは首を傾げるのだった。
「意味がわかんねぇ。クビってなんだ?」
「お前の、小物連合のトップとしての任を解任する、という意味だ」
「はぁ!?」
「ついでに言うと、小物連合は今日この時をもって解体、僕の組織へと吸収合併される。文書もあり、既にここに来る前に他の2人の魔王にも調印してもらった。
今のお前に、小物連合を動かす事はできない。ただの、1人の魔王だ」
小物連合が溜め込んだ資産、それは今まで通貨代わりに使われていた宝石や魔石が大部分を占めている。しかし、それはそのままでは利用価値が低い。一握りの魔道具職人がいなければ、ただの宝の持ち腐れの物資のやま。
魔石が通貨の代わりに流通していたのは、魔王や領主がそれを集めていたからだ。マジックアイテムの数の差は、ある意味で他領主との戦力差になる。僕がマジックアイテムを放出するのに、魔王が懸念を示したのはこれが大きな理由である。
ただ、今の彼等にその大量の魔石を加工できるだけの人員はいない。なら、その加工も出来ない物資を腐らせるのか?
小物連合の魔王達ならそうしたかもしれないが、経理を担当していたのはレライエである。そんな無駄を許容するわけがない。
レライエは早くから、デロベ以外の2人の魔王に僕との連携を提案していた。勿論、その段階では疑われない範囲で、である。そして、2人の魔王が僕との共闘を了承した時を見計らい、僕との繋がりを暴露したのだ。
「アンドレ、第9魔王サンジュ、第12魔王プワソンを召喚しろ」
『了解、マスター』
間髪入れず2つの円陣が現れ、さっき見た2人の魔王が召喚された。
相変わらず、文字通りの猿顔の第9魔王サンジュと、外見は可愛らしいがゴツゴツした厳つい角の第12魔王プワソン。
「サンジュ、プワソン、これはなんの冗談なんだ?」
「冗談じゃないっすよー」
プワソンの口調も、相変わらず小物臭い。
「小物連合は今日で終わりっす。新しい組織は、新たにアムドゥスキアスさんとクルーンさんが加わって、あんたが抜けるっす」
せいせいしたとばかりに、デロベに向かって舌を出すプワソン。まぁ、こいつはデロベに言いたいこともあるだろうな。
何せ、自分の領地にならず者を集めさせられたのだから。当然治安は悪化するし、計画の都合上粛清するわけにもいかない。おまけに、小物連合のマジックアイテム収集の任に就いていて、出費も大きかったみたいだ。
かなりフラストレーションが溜まっていそうだ。
「小物連合が収集した、これまで通貨の代わりに使っていた魔石や宝石は相当な量になった。しかし、我らにはそれを捌くだけの技術がない。
無論我輩も、宝石はともかく、魔道具職人は魔王として当然抱えているのであるが、いかんせん数が多すぎる。そこで、必要量を残して他はアムドゥスキアス殿に買い取っていただくことと相成った」
サンジュも猿の口で流暢に喋る。
「だが、アムドゥスキアス殿は既に、十分すぎるだけの魔道具を所持している。さらに、我らと同じ理由で宝石、魔石の在庫も豊富だ。わざわざ我等から魔石を買う必要など無いのだ。
そこでアムドゥスキアス殿に大量の魔石を買い取っていただく代わりに、我らの中核メンバーとして入ってもらう事になった」
要は、大金を投資する代わりに企業の大株主として経営に口出しするってわけだ。
「あんたのせいでかかった経費も、アムドゥスキアスさんに肩代わりしてもらったっす。アムドゥスキアスさんが泳がせとけって言うから、某の領地に入れたならず者、ここに来る前に皆殺しにして来たっす。
小物連合で流通の基礎はでき、これからはアムドゥスキアスさんの空飛ぶ町を使ってより早く、より多くの流通路を作るっす」
所有権はあくまで僕のままだけどね。あれを戦で使えるのは僕だけだ。そこんとこ、絶対に勘違いしないでくれよ?
「つーわけだ。金に物を言わせた買収、及び幹部の取り込み。そんで、こちらを母体とした吸収合併。
今までご苦労さん。お前が頑張って作り上げた基盤、これからは僕が有意義に使ってやるから、お前はハロワにでも行ってこいや。
1つだけ忠告しといてやるよ。組織ってのは、トップだけじゃ回せねぇ。これは、それを忘れて好き勝手やってたテメェの自業自得だ」
元々こいつの領地に販路はないし、切り捨てるのは至極簡単だ。自分の地盤を疎かにしたツケだな。
僕は懐からそれを取り出す。クルーン、サンジュ、プワソンもそれに倣った。
僕らの手には1枚の金属板。赤みを帯びた金色の板。盤面に掘り込まれた契約の文字。
オリハルコンの契約書。
「これからは小物連合改め、『オリハルコン同盟』がお前の敵だ」