勝負は一瞬。そう、一瞬で決まるっ!?
僕の可愛い可愛い小悪魔と仔犬に、第6魔王の魔の手が伸びていた。
そんなものを笑って許すと考えてるなら万死にも億死にも値する。
「チッ、見つかっちまったか。だが、こいつは当然の制裁だぞ?今のこいつはこっちの陣営に属してんだ。内通したんだか―――」
「口を開けんな。言い訳すんな。口上なんてどうでもいい。重要なのは今、目の前のこの状況だけだ。
今、お前が僕の大切なものを傷つけようと、手を伸ばした。
それだけが重要で、それだけが重大だ」
気づいていないのか?
僕は怒ってるんだ。
「あちゃぁ、なんかマジで怒ってんじゃん。アムドゥスキアス」
当たり前だ。むしろ、問答無用で襲いかからなかっただけ、今の僕は大分理性的と言える。
「キアス様!!」
安い造りの廊下、デロベから見て正面にレライエ、後ろに僕らとなっているが、この場合は挟み撃ちとは言えない。何故なら、恐らくデロベはレライエとコーロンさんをあっさりと突破するであろうから。
「よぉ、レライエ、お勤めご苦労。さ、帰んぞ」
「はいっ!」
いい返事だ。コーロンさんもいるけど、できればこいつに名前を知られたくないし、ここは黙ってるが吉だ。
「おい、アムドゥスキアス。これは歴とした俺への敵対行動だぜ?」
デロベはこちらを振り向かず、レライエを向いたまま言った。
「あぁ?今さら何言ってんだボケ!僕に暗殺者を差し向けたのはお前だろうが!!」
「知らねぇな。どうやら俺の部下を名乗る賊に襲われたらしいな、お疲れさん。
で?お前はそれを逆恨みしてここへ?」
はんっ!そんな詭弁が僕に通じるか!
「間抜けが。そういう台詞は、この場合なんの意味もねぇんだよ。何せ、そっちの中核メンバーがこっちに寝返ってんだからな」
「その雌ネズミが俺を貶めるためについた嘘、って言い訳は?」
「水掛け論になるから意味がねぇ、つってんのがわかんねぇか?」
「あー成る程、確かに。そういう面倒くさいの、俺ぁ嫌いなんだよね。じゃ、やっぱり暗殺者送ったの俺でいいや」
こいつに常識を期待していたわけではないが、こうも堂々と言われてしまうと、それを批難するのも中々難しい。
「ごめんごめん。
んじゃ、そこの間諜と見えない女2人をこっちに渡せ。でなくば、暗殺者を引き渡せ。それでおあいこだろ?」
成る程、今度はそう来たか。だが―――
「無理。殺した」
「んじゃ、俺もこいつらを殺す」
「許さん。お前が死ね」
「おいおい、お前と俺、状況にそう違いはねぇ。こっちは暗殺者を派遣し、お前は間諜を放った。で、お前は俺の部下を殺したにも関わらず、俺には部下を殺すなってのかい?
言ってる事が無茶苦茶だぜ?」
「黙れ。無茶苦茶なのはお前の論法だ。
あんな暗殺者なんて、放っておいてもなんの痛痒もなかったんだよ。殺したのは僕の気分だ。
そして、今の僕はお前を殺したい気分なんだよ。言ったろ?理屈も屁理屈もどうでもいいんだよ。
お前は僕の敵だ。
それ以外に何が必要なんだ、この状況で?」
デロベはポリポリと頭を掻くと、ようやく僕らへ向き直った。その顔には、呆れたような表情が浮かんでいた。
「あー………。俺わかっちゃったわ。
小物連合やってて、俺はお前が大層頭のいい奴だと思った。やればやるほどお前ん所と俺らの組織、その差を実感してお前の恐ろしさを初めて認識したんだ。魔族では複製すら不可能な金を生み出し、通貨社会を形成し、生産と消費のサイクルを作り出した。魔大陸において、これは革命と言っていい。俺も、他の魔王もお前には畏敬の念すら覚えてたんだ。
でも認識を改めるわ。実際のところ、お前ただのバカだろ?」
はぁ?今さら何言ってんだよ。
そうだよ、僕はただのバカで、自分じゃ何もできなくて、だからこそ他人に頼る。頼って頼って頼り尽くして、やっと僕は魔王をやれてんだ。
見てわかんだろ?
「そっちが勝手にビビッといて失望したみたいに言ってんじゃねぇ」
「いや、分かりやすいのは好きだぜ?だからこの状況もウェルカムだ」
「あっそ。
じゃあ、とっととこのクソみたいな状況を終わらせようぜ。大丈夫だよ、痛くしないし、一瞬で終わる」
僕は不敵に笑って見せる。デロベもまた、笑みを浮かべて僕を見る。まるで獲物を見つけた肉食獣の笑みだ。
「たいした自信だな?
言っとくが、俺はお前の実力くらい想像がついてんだぜ?」
「だからどうした?僕が弱いことを知ったら、お前は強くなるのか?」
「………OK。じゃあ、死んでも恨みっこ無しってことで」
死ぬ?
「くくくく………」
わかってない。何にもわかってないな、こいつは。勝負は僕がここに来た時に既についてんだよ。
「何がおかしい?」
「くくくく………。ふ、ふふふふ」
だから僕は、デロベに向けてそう告げる。この勝負は僕の勝ちだと。
笑いながら告げる。
「デロベ―――」
これが、僕の戦い方である!!
「―――お前クビ」
………………………………。
「は?」
デロベの間の抜けた声が、狭い通路に響いて消えた。