いざ出陣っ!?
『全員死亡しました』
「人数は確かめた?」
『はい、情報通りであれば、あれで全員です』
「そっか」
5分持たなかったか。まぁ、いきなり最上級闇魔法ドカーンだからな。
『1人だけ、最初の砲撃を避けた者がいましたね』
「並外れた身体能力が仇になったね。スピリット達に群がられて、痛そうだった」
『マスター、2度目の砲撃でスピリットも根こそぎ倒してしまいました。地下迷宮のように、スピリットを強化するのはこのダンジョンでは厳しいですね』
「そっか。まぁ、他にもゴーストとか、レイスとかウィル・オー・ウィスプとか配置してるし、別にいっか」
天空迷宮最初の関門『蛇の道』は、重力と砲撃、そして重さを持たないゴースト系の魔物との戦闘がミソだ。
まず重力が10倍、なんてのは身体能力の高い魔族でだってそうそう耐えられる奴はいない。下手をすれば、自重だけで押し潰されかねないし、鉄の鎧など着けていれば目も当てられない。まぁ、彼らは軽装だったので、重力では死ななかったようだが。
この場合、普通は魔法障壁を張ろうとするだろうが、脆弱なものはその重力魔法にすら打ち勝てずに砕かれる。よしんばそれに成功したところで、城壁からは数分置きに侵入者へ向けて砲撃が来る。四属性、光、闇の最上級魔法の砲撃がランダムで。
唯一有効な防御手段は、無属性魔法の結界である。高位の無属性魔法の使い手であれば、重力を無効化する事はできるかもしれないし、そうなれば砲撃だって避ける事ができるだろう。が、それだけで防げるほど甘くもない。
ゴースト系の魔物である。
防御に優れる無属性魔法の結界といえども、万能であるわけではない。一回結界を張ったからといって、それで完全な安全地帯を築けるわけではない。なぜなら、魔物は結界を素通りできるのだ。
無属性魔法の結界でも、魔法も魔物も纏めて防ぐ事はできない。ゆえに魔法には魔法用、魔物には魔物用、それぞれに対応した結界が必要なのである。因みに、非殺傷結界という手もあるが、あれは基本的に人間が使うような魔法ではなく、マジックアイテムとして使うものだ。でないと魔力の消費が他の結界より遥かに多いため、魔力切れを起こしやすい。普通の戦闘ならまだしも、この迷宮で使うなど愚策も愚策だ。さらにそのマジックアイテムも、持ち歩きできるような手頃な大きさにできるのは僕のスマホくらいのもので、普通はもっと大がかりな装置になる。描く魔方陣が巨大なのだ。本当に、戦闘では役立たずの魔法だ。僕以外の者にとっては。
対処法は、新たに魔物用の結界を張ってもいいし、結界内にいる仲間が魔物に対応してもいい。だが、そんな足止めを食らっていれば、
砲撃のいい的である。
いかな無属性魔法の結界といえども、あの最上級魔法の砲撃はやすやすとそれを打ち砕くだろう。
まぁ、今回はそこまでいけなかったようだが、『蛇の道』にも当然トラップがある。とはいえ、それほど強力なトラップではない。隠しトラバサミや、粘着床といった、足止め用の罠ばかり。言うなれば信頼の迷宮レベルのトラップだ。が、これに捕まれば命の保証はない。回避や解除に時間がかかれば、容赦なく砲撃が飛んでくるからだ。
あの『蛇の道』では、足止めをされれば死ぬしかないのだ。
因みに魔物は、スマホの召喚から呼び出しているので、そこそこコストがかかる。だが、ここでゴースト系以外の魔物が出ても意味がない。選んで配置できる方が、この場合は有用なのだ。まぁ、『蛇の道』の最初の方にスピリットを多めに配置して、経験値の荒稼ぎを狙ったのは失敗だったようだが。後で配置を変えておこう。数種類いた方が、相手の対応も混乱するだろうし。
「ただの力押しみたいで、ちょっとカッコ悪いけどな」
『いいではないですか。それが普通のダンジョンです。回避を前提としたトラップなど、この段階では必要ありません!』
「まぁ、完全に回避不可能にしちゃうとセーブできないんだけどな」
『それに、力押しとマスターの悪どさが際立つのは『天空迷宮』本体の方です。あれは、この私をしてゾッとさせられるダンジョンですから』
「悪どさとか言わないように。
まぁ、今はその話はいいじゃん。侵入者への対応も終わった事だし、次の対策に行かなきゃ」
あれ?そういえばクルーンが静かだな。
「………………」
「おーい、クルーン?どうした?おーい、ピエロ?ヘタレ?」
クルーンは執務室の大窓から、暗殺者達を処刑した『蛇の道』を見上げていた。
「………闇魔法………。なんと雄々しく、美しい魔法か………。………格好良い………」
あー………、クルーンって中二病だったのか。闇属性とか好きそうだもんな。ま、僕も人の事は言えないけど。つーか、風魔法だってカッコ良いだろうが。全然使えない僕の身にもなれ。
「おいこら、アホピエロ!」
「っ!な、なんだ?」
何だじゃねーよ全く。
「ちょっと用事だ。僕はもう行くぞ?」
「よ、用事だと?キアス、今は火急の時なのだ。貴様が司令官として、ここで皆に指示を出せ。雑事なら私が代わってやるから」
ああ、まぁ、未だにクルーンに心を許してない奴とか結構いるし、治安維持部隊とかそれが顕著だからなぁ。こいつにここで司令官やれってのは、無体が過ぎるか。
「じゃあお前もついてこいよ。司令官は………、ロロイにでも任せとけ。たぶん要らねーし」
「い、意味がわからん。愚問だとはわかっていてあえて聞くのだが、お前は今の状況を正しく認識しているのか?」
まぁ、確かに愚問だな。ここは僕の領地で、僕の国。ならば問題があるなら、そのケツを持たないといけないのは僕であり、状況と情報を精査吟味し、最善を尽くすのが僕の勤め。
それが魔王の、魔王である事の責任だ。
「だから行くのさ。この茶番を終わらせ、魔大陸の一部を僕の好きに造り変えるため。
だってホラ、今夜は良い月夜になりそうじゃないか」
逢魔が時に相応しい。
「ど、どこへ行くつもりなのだ………?」
何だ何だクルーン、お前のその目は?
まるで僕に怯えているみたいじゃないか。こんな弱い僕に。
お前はいつもみたいに、尊大に威張り散らしておけば良いのさ。僕のとなりでな。その方がこれからの展開上、格好もつくってもんさ。
「ああ、ちょっと『小物連合』の本部までな」
今宵、小物連合は消滅し、魔王の1人がこの世から消える。