小物連合
まずいな………。
第6、第9、第12魔王率いる小物連合の動きが、にわかに活気づいていた。
このままでは、本当に争いになるぞ。相手は領地を持つ魔王が3人、しかもこちらは魔王2人に私は既に領地の統治を行えてなく、キアスの兵力はお世辞にも多いとは言えない。
圧倒的な戦力差である。総力戦だけは、なんとしてでも避けたいものだ。
『小物連合』
第6魔王、デロベが自ら作った組織を皮肉ってそう呼んだ。
しかし、この名は得てしてこの組織を表すのに最適な名称とも呼べる。何故ならこの組織を担う中核たる魔王3名は、全員が全員小物だった上、まともな組織運営などできない連中だったからである。 しかし、今現在その小物連合は、大きな躍進を果たしつつあった。
件の中核を担う魔王、魔大陸の北西部に位置する第12魔王の領地と、魔大陸の南西部に位置する第9魔王の領地との交易路を確保し、交易の手順の教育、物品のやり取りの記録を厳格化、出入国の管理などを徹底的に行い、商人達には革新的な学問を授け、太い交易ラインを両領地に設けたのである。中部東端にある第6魔王の領地にそのラインを通す事は今現在行われてはいないが、どうも第6魔王自らがあまり積極的にそれを望んでいないようなのだ。
さて、この小物連合だが、その動きが不穏になってきた。一時期キアスの街が手薄になった事を知ったのか、第12魔王の領地に荒くれ者や兵士崩れのゴロツキが集まり始めたのである。知っての通り、第12魔王の領地とキアスの領地は隣接している。しかも、キアスの造った街は魔族から見れば果てしなく瀟洒で、限りなく雅な街なのである。代官の命を奪えば、そこを自らの縄張りと宣言できる可能性が無くもない。まぁ、その後キアスに殺されるのは確実だろうが。
そんな、欲に目が眩み、リスクを考える頭もない死兵が集まっているのだ。手を打たないわけにはいかなかった。
私は、治安維持部隊を領地の堺へと派遣し、いついかなる異変にも対応できるよう、ロロイに指揮を執ってもらうため彼の預かる領地に大部隊を逗留させていた。
しかし、この一触即発の事態に、キアスは祭り見物とは………。
『クルーン様、治安維持部隊が到着しました』
右耳のイヤリングから、ロロイの声が聞こえてきた。本当に便利だな、この魔道具は。伝令要らずじゃないか。
「天空都市経由だとやはり早いな。あの大部隊が1日を待たずに輸送できるとは………」
伝令も要らず、補給路も要らず、兵の輸送まで早い。この強みを最大限活かしたいものだ。
「とりあえず、ロロイはそこで様子見をしていてくれ。できるだけ相手を刺激するなよ?」
『心得ています。部隊もできるだけ見えないよう、大部分は待機させつつ配備いたします』
ロロイは本当に優秀な男だ。一を聞いて十を知る。こちらの意図を正確に汲んでくれて話し合いが楽だ。
相手側を刺激して、キアス不在の間に戦を起こすわけにはいかない。いや、あいつの場合、ここにいても戦を回避するだろうがな。ゆえにこそ、防御線の配置はなるべく相手の目につかないようしなくてはならない。示威行為1つで、あっさりと戦になってもおかしくない状況なのだから。
この緊張状態、あいつならどう解決するのだろうか?
「よぉ!大将!なんだなんだ暗い顔しやがって?」
「キアス!?」
噂をすれば影が差した。キアス本人が、いつの間にか私の背後に立っていた。
「ま、祭りはもういいのか?」
「うん、充分堪能したっ!来年はお前も行けばいいよ!」
「フン、誰が人間の催す祭りなど………」
「で?こっちの祭りはどうなってんだ?」
何が祭りだ。このままでは文字通り血祭りだ。
「第12魔王の領地には血気盛んなならず者、つまり死兵が集っている。背後には第12だけでなく、第6、第9の本隊も控えているだろう」
「いや、あの三つ目とヌエの部隊はいるだろうが、デロベの部隊はいない。絶対にな」
「なぜそう言い切れる?」
相手側の部隊についての情報は、私のところにすら上がっていないのに。
「デロベの領地には、魔族がほとんどいないんだ。何故かは知らないが、デロベの居城に幾人かの手勢がいる以外は、全て不毛の大地と化していて魔物が跋扈しているらしい。入った商人は誰一人帰ってこないって噂だ。この情報は、僕独自のルートから仕入れたものだ」
流通という概念が無かったのであまり広まってはいなかった情報だな、とキアスが締め括った。この得体の知れない魔王に、どうして恐怖を抱かずにいられるだろうか。
「しかし、その少ない手勢でも入れなければ、他の魔王たちが納得しないだろう?」
「だろうね。ただ、それもない。
なぜならデロベの手勢は今、僕の暗殺を企んでここ城壁都市にいる。あ、もしかしたらお前の暗殺のためかもな。そろそろ情報が漏れても仕方のない頃合いだ」
「なッ!?この城壁都市にだと!?何を呑気にしているのだ馬鹿者!?対応は私がするから、お前は奥へ引っ込んでいろ!」
「大丈夫だよ、この城壁都市内で戦闘はできない。全域に『非殺傷結界』が張ってあるからね」
そ、そうだったのか………。知らなかった。
「まぁ、放置するつもりもないけどね」
「どうするのだ?」
私の質問に、キアスは笑う。あるいは嘲笑とも、とれるような酷薄な笑みで、奴は言う。
「超豪華、天空迷宮無期限ご招待」