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 地下迷宮攻略戦・5

 ああっ………!

 早くキアス様に会いたいっ!!




 私たちは、ようやくこの地下迷宮の終盤に差し掛かっていることに気付きました。

 なぜなら、目の前には大きな鉄扉が聳え、その扉には文字が刻まれていたからです。


 『地下迷宮』


 『ここを抜ける者は強者のみ。この扉を開くのも強者のみ。


 ならばこの扉の向こうにも強者しかいない。


 弱肉強食の宴は終わらない。


 ようこそ修羅の巷へ』


 なっんと!

 あぁっ………!なんと言えて妙なる言葉の紡ぎ。


 この地下迷宮の命題は弱肉強食。しかし、それは必ずしもこの地下迷宮だけの事ではない。ダンジョン全てが?否。魔大陸が?否。真大陸も?否否否!!


 世界はすべからく弱肉強食!!生きとし生ける者はおしなべて他者を食らいう餓鬼も同然。しかしてこの地下迷宮は、世界の縮図でもあるのですわ!!


 あぁっ………!!

 キアス様に会いたいっ!!


 あなたの圧倒的強者の瞳で、今一度私の心に楔を打って!!縛り付けて!!虜としてっ!!







 「おいおい、ミノタウロスじゃねぇぞ?ボスはミノタウロスなんだよな?」


 「あれは、スフィンクスだな。獅子の胴、鷲の翼、人面の魔物といえばそれしか知らん。初めて見たな」


 「つーか、チョンチョンみてーに人の顔がついてんじゃねぇか。気分わりー」


 「………トラップはない………」


 おや、いつの間にか皆さん扉を開いてしまっていますね。




 「KYOOOOOOOO!!」




 おやおや、スフィンクスが鳴き声をあげました。ゆっくりとキアス様を想うこともできないなんて、せっかちな魔物です。

 人面だからとて、人語を解するわけではないようです。当然ですね、魔物なんですから。そうなると、チョンチョンだってあの笑い声は『鳴き声』になるのでしょうか?でもあんなに満面の笑みですし………。


 「まぁ、この部屋に閉じ籠ってたならたいして強くもねぇだろ。一匹だけだし、楽勝じゃね?」


 「ならシュタールさんだけでやりますか?私たちは別に、あのスフィンクスを相手にする理由もありませんし」


 「ハハッ!そりゃいいぜ!おいシュタール!とっとと片してきやがれ」


 私の台詞に、レイラがふざけて追随します。とはいえ、確かに弱肉強食の地下迷宮にいた魔物たちのように、日々切磋琢磨と自然淘汰を繰り返していない魔物など、いかに上級の魔物といえどもシュタールさんの相手にならないでしょう。群れているわけでもありませんしね。




 などと言っている場合ではなくなりました。




 「なぁ………、前言撤回してもいいか?」


 「あ、ああ。皆でやろうぜ………」


 シュタールさんやレイラが怖じ気づくのも、無理はありません。


 このスフィンクスの間には、ミノタウロスとメドゥーサの像があり、その2つから今スフィンクスへと幾筋もの光が降り注いだのですから。


 「あれは身体強化魔法ですね。

 『トレホ(脚力強化)』『エピセスィ(攻撃強化)』『アミナ(防御強化)』『マギア(魔法能力強化)』『ニネミア(風魔法耐性)』『オミフリ(火魔法耐性)』『カタフニア(水魔法耐性)』『フルトゥーナ(土魔法耐性)』『アマルティア(光魔法耐性)』です。

 どうやらシュタールさん1人で相手にするには、骨が折れそうですね」


 「ただでさえ基礎能力の高い上級の魔物だというのに………。と言うか、私の魔法ではかすり傷をつけるのが精一杯なのではないか?」


 「………………」


 どうしましょう?そろそろ私、限界なのですが?


 「とりあえず、一当てして様子を見るしかねぇ。俺がやるぜ?」


 「ああ、頼む。アルトリア、回復は―――」




 「『トレホ』『エピセスィ』『アミナ』『マギア』。えーっと、スフィンクスは風魔法を使うのでしたね。『ニネミア』」




 とりあえず、シュタールさんに身体強化を施します。


 「あ、あのー………、そんな一気にかけて大丈夫なのかな?」


 「今日の内は」


 「おいっ!!」


 だって!限界なんです!!もうキアス様のご尊顔を2週間以上見ていないのです!!とっととこの人面猫を倒して、私のオアシスに帰りたいのです!!


 「KYOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 おっと、スフィンクスが攻撃を始めましたね。では残りも済ませましょう。ミレちゃんには『トレホ』。レイラには『エピセスィ』。アニーには『マギア』。そして全員に『アミナ』と『ニネミア』。これで条件は五分。ならば我々が負けるわけがありません。


 こっちは、回復魔法もありますし。


 「うらっ!!」


 シュタールさんのメル・パッター・ベモーがスフィンクスの足を傷つけ、るつもりが両足を切り落とし、


 「………………」


 密かに近付いたミレちゃんがその翼をズタズタに切り裂く、つもりが完全に翼をもいでしまい、


 「どっせぃ!!」


 レイラが圏を用いて突き刺し、ただけにとどめるつもりが吹き飛ばしてしまい、


 「『アネモス・トロヴィロス』」


 とどめにアニーの魔法がスフィンクスの体をズタズタに切り裂いて動かなくなりました。


 なぜでしょう、すごく視線が痛いです。皆さんこちらをジトッとした目で見てきます。


 「アルトリア、1つ言っとくぞ―――」


 シュタールさんの苦々しい表情は、物言わぬスフィンクスを哀れんですらいるように見えました。


 「お前の強化魔法、絶対おかしい!!」


 まぁ、故国にいた時から結構言われてましたね、それ。


 「同じ魔法を施されたはずなのに、圧倒的に違いが出るからな………」


 「………明日が怖い………」


 「つか、相手の防御力が紙屑同然に思えたぞ?強化されてたはずなのに」


 なぜでしょうね?まぁ、今は九節鞭のお陰で、魔法の発動効率も上がっていますし、その影響が大きいのでは?


 ともかくスフィンクスも倒したことですし、さっさと帰りましょう!!

 あぁっ!キアス様っ!

 早くあなたに会いたいっ………!!


 「待て待て待て!!全員に施した『アミナ』はともかく、俺の『マギア』必要なかっただろ!?無駄に負荷を負う俺の身にもなってくれ!!」


 「結果論ですわ。もしもの備えです」


 「………明日が………、………怖い………」


 なぜか私が身体強化魔法は、皆さんに不評なんですよねぇ。


 使って負けたことは、どんな場合でもないのですが。







 「お、珍しいな。上質な魔石だ」


 スフィンクスの肉体から魔石を取り出したアニーが、それを見て嬉しそうに笑っています。この地下迷宮、魔物の魔石の質が悪いのが唯一の欠点でしたが、どうやら地下迷宮の主だけは別のようですね。


 「それよりコピスとコピシュはどこだ?」


 「おい、あそこにもう一枚扉があるぜ!あそこじゃねぇか?」


 レイラが指差す先、ミノタウロスとメドゥーサの像の間に、入り口と同じ門があります。その扉の先は小さな小部屋になっていて、転移陣と宝箱、そして壁には大きな文字でこうありました。


 『地下迷宮の覇者へ送る。


 まずはおめでとう。諸君の健闘を称え、ここにささやかながら褒美を用意した。遠慮なく受け取ってくれ。


 さて、諸君が僕の命を狙う者でないのなら、ここで引き返してほしい。君たちが僕の命を狙うのであれば、その転移陣の先で待とう。

 ただし、こちらもそれ相応の対処をすることを肝に銘じてくれ。転移の指輪、腕輪共に使用不能だ。宝箱もなければ、これまでのような温い罠も用意していない。


 殺すつもりで来るならば、こちらも殺すつもりで相対する。


 よく考えて決めてくれ。



 第13魔王、アムドゥスキアスより』


 これまでのような暗示とは違う、ハッキリとした警告。つまり、アトラクションはここまでであり、この先の道はキアス様と敵対する道。


 恐ろしい………。この地下迷宮の罠は、どれも危険なものであったというのに、それが温いトラップだということですか。確かに、解除や回避が可能な罠であり、それは侵入する敵よりも、ここを探索する冒険者たちのための物であったのかもしれません。となれば、やはりこの先へ進むのは得策ではありませんね。


 まぁ、最初からキアス様と敵対するつもりはありませんけれどね。それは我々全員の総意だと思います。







 「あ」


 「………!………っ!?………どいてっ!!!」


 宝箱を開けたシュタールさんは固まり、代わりにミレちゃんが目にも止まらぬ速さでシュタールさんを押し退けました。




 「わわわわわわわ!?」



 「どうしたんですかミレちゃん?いつになく取り乱してますよ?」


 宝箱を覗き込んだミレちゃんは、宝箱と私たちを交互に見て落ち着かない様子です。こんなミレちゃんは初めて見ました。


 「………こ、これ!」


 ミレちゃんは宝箱からソレを取り出します。ソレを見て、全員が納得しました。いつになく語気の強かったミレちゃん。それも当然です。




 ミレちゃんが今、両手で持っているのは、一対のオリハルコン製のハラディだったのですから。




 まぁ、キアス様が仰ったのは、ミノタウロスの間にコピスとコピシュがあるということだったのですから、ここにそれがないことはわかっていましたけどね。


 「像から察するに、この地下迷宮にはスフィンクス、ミノタウロス、メドゥーサがボスとして用意されているようだな。

 キアス殿め、あの人は本当に我々に甘い………」


 それは確かに。曲がりなりにも私たちは勇者とその仲間だというのに、その面子に魔王と戦えるだけの武器を与えるのがキアス様ご本人なのですから。


 「おい、コピスとコピシュはっ!?」


 「だからミノタウロスの間だろう。因みにレイラ、恐らくだがメドゥーサの間には圏が隠されているはずだ」


 「マジかよっ!?」


 成る程。確かにその可能性は高いですね。私の九節鞭は、オリハルコンにしたところで意味なんてありませんし、アニーのチャクラムはオリハルコンで造っても、下手をすれば使い捨てになってしまいます。


 「おい、メドゥーサ行こうぜ、メドゥーサ!!」


 「まずはミノタウロスだっつの!!」


 「テメーはもう、メル・パッター・ベモーがあるだろうが!!」


 次の獲物について、シュタールさんとレイラが口論を始めました。


 もしかしたら、冒険者がこの先へ進まないよう、ボスが3体も用意されているのかもしれませんね。


 とりあえず、この無駄な口論を仲裁しましょう。




 「ハイハイ皆さん。身体強化魔法の負荷で明日は全員筋肉痛なのですから、無茶はしないように!」





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― 新着の感想 ―
[気になる点] あぁっ………!なんと【言えて】妙なる言葉の紡ぎ。 ではなくて、【良い得て】ですよ。
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