2人目は超やわ肌っ!?
さて、ダンジョンの方はこれでひとまず良し。
他にも少し、考えている物もあるが、今はまだいいだろう。
次は、ダンジョン経営についてだ。
できれば、ダンジョンにはリピーターがついてほしい。
つまり、何か美味しい特典が必要である。
まず、僕の造った武具である。
鍛治レベル100の恩恵は、間違いなく使えているので、時間さえかければ、それは問題ない。
問題は、錬金術と調合技術が、今のところ全く使えないことだ。
まず材料が全く無いのが痛い。これは、そろそろ本気で他の場所まで足を伸ばさなければな。
なので今は、ダンジョンの能力で造った簡単なアイテムなんかを特典にしよう。
2対で通信を可能にするイヤリング。
マーキングした場所に転移できる、使い捨ての指輪。
食材を冷蔵できる鞄。
魔力を込めると、火がなくても温まる鍋。
こんな感じだ。
まぁ、魔法の付与された武具、何て物を求めて来たのなら、ご愁傷さまと言う他ない。
この世界の技術水準がわからないので、まずは少量だけ流すことにする。
これで、このダンジョンを訪れる人間が爆発的に増えたら、流通量は抑えるべきだろう。
世間に必要量が溢れてしまえば、訪れる人が居なくなってしまう。
「キアス様、オーク達のお手伝いをして来ました」
色々と試行錯誤していた所に、パイモンがにこやかに訪れた。
全身ずぶ濡れで、どうやら浄水施設の清掃を手伝ってきたようだ。
パイモンは、よくこうしてオーク達の手伝いをしていた。
仲間との共同作業が嬉しいらしい。
丁度良いので質問してみる。
「なぁ、パイモン。実は近々、近くのできるだけ栄えた場所まで行きたいんだけど………」
僕の言葉を聞き終わる前から、パイモンの朗らかな表情は、放物線を描くように強ばったものに変わっていった。
「えっと………、どうした?」
「い、いえ。近くの栄えた街と言いますと、魔王コション様の治める地域になります。
キアス様が行きたいと言うなら、是非もありませんが、コション様は気性の荒い魔王として有名です。真大陸との戦争にも意欲的で、近々侵攻の予定もあったとか。
キアス様がこの地を治める魔王だと知られれば、一体どんな事になるか………」
暗に止めておけと言われている気がする。
確かに、ここにダンジョンを築いた以上、あまり好印象は抱かれていないだろう。
うん、やめておこうか。
「それよりパイモン、浄水場の様子はどうだった?」
部品の磨耗については心配ないが、僕のやることだ、何かミスがあるかもしれない。
そう思っての質問だったが、パイモンの答えは予想の斜め上だった。
「はい。今日は活きの良いアンダインがかかっていました。
ただ、オーク達が『アンダインは精霊なので食べられない』と言っていたので、残念ながら夕食には上らないようです」
は?
アンダイン。
別名を水の精霊オンディーヌ。
あまり詳しい知識はないが、確か川や湖みたいな淡水に居るのが普通じゃなかったか?
まぁ、僕の知識はあくまでも地球産なので、こちらの世界との齟齬が出るのは仕方ないことなのだが。
「コレが?」
オーク達の元へ赴いた僕の目の前には、ただの水の塊が鎮座していた。
いや、水の塊って時点で、ただのって言葉は的さないんだけど。
なんかアレだな、このままなら、見た目スライムみたいだ。
「コレってのは失礼なのよ?」
水の塊が喋る。
「私はアンダインなのよ。精霊の中でも、高位の存在なのよ。早く、私を綺麗な水に入れるのよ」
変なしゃべり方。まぁいいや。
「パイモン、お前いつまでも濡れたままだと、風邪ひくぞ。オーク達も。風呂にでも入って着替えな」
「あ、はい」
「了解です、キアス様」
「無視しちゃダメなのよっ!」
三々五々に散っていく仲間を見ながら、僕は目の前のスライムに向き直る。いや、アンダインだけどね。
「何でこんな所に?」
「前住んでいた湖が汚れちゃったのよ。海を伝って新しい住み処を探してたら、ここの柵に引っ掛かっちゃったのよ?」
うーん………、どこかから偵察に来たわけではないようだ。今の言葉を信じるなら。
「水を与えなければどうなるの?」
「凄く嫌なのっ!海水じゃダメなの。濁ってない水がいいの」
成る程。
僕が飲まず食わずでも死なないが、とても飢えるように、アンダインも水がなければ、精神的に乾くということ、なのか?
「大丈夫だ。さっき仲間に水の用意をさせにやったから」
「………本当?」
「ああ」
このアンダイン、なんか可愛いな。
見た目スライムなのに、話すときぷるぷる震えて、どこか小動物っぽい。
ちょっと触ってみる。
うん。ひんやりぷるぷるだ。
「ちょっ!何気安く触ってんの、なのよっ!!私は高位の―――あら?あなた、なんだか心地良い魔力なのよ?もしかして精霊魔法の使い手なのよ?」
「ん?あ、ああ、いや、使えはしないよ。ただ単に精霊魔法のスキルを持っているだけだよ」
「よくわからないのよ?見たところ魔力も多そうだし、あなたに力を貸してくれる精霊は多そうなのよ?」
うぅ……っ。純粋な疑問が痛い。言わなきゃいけないのかなぁ。はぁ……。いけないんだよなぁ。
「いや、僕は魔力を外に出すことが出来なくてね。魔法の類いは使えないんだ」
「あらあら、なのよ。せっかく良い感じの魔力なのに勿体ないのよ」
「神様に言ってくれ」
「大変ねぇ、なのよ」
そう。大変なのだ。
だからこそ、取り急ぎダンジョンを完成させたのだから。
「それより、そろそろ風呂の用意もできたはずだし、行こうか」
「うん、なのよ!」
僕は、アンダインを持ち上げ、神殿の中に入っていった。
ひんやりぷるぷる。