地下迷宮攻略戦・1
「うわぁ………、マジで魔物が変わってきたな」
「つまり、キアス殿の言っていた通り、本当に我々は同じ場所を回っていたのだな………」
俺達はキアスに教えられた通り、片側の壁をつたって進むのをやめ、勘と経験だけを頼りに地下迷宮を進んでいた。
「………落とし穴見つけた………」
「多いですわね。もしかしたら、さっきから飛行系の魔物が多いのも………」
「うがぁぁぁ!ぴょんぴょん飛びまわんじゃねぇ!!」
一本足、漆黒の羽と小さな体のヤタガラスや、子供の頭くらいの大きさのポイズンバグ、それこそ人間の子供ほどの大きさの甲虫型の魔物バグバグが、俺たちの頭上に犇めいていた。
しかも、今までこの地下迷宮で見たことのなかった魔物、チョンチョンやウイングインプまで出てきている。
キアスの言っていたのは、どうやら本当に本当だったらしい。
「おい………」
「ああ、これは………」
別に誰にともなく漏れた俺の声に、アニーが頷くもやはり言葉に詰まっている。
「キアス様は確か、魔物には分布があり、中には一種類の魔物が占有する領域があると仰っていましたね」
「勘弁してくれよ………」
「………最悪………」
アルトリア、レイラ、ミレも一様に消沈している。
そりゃそうだ。こんな最悪の群生地に足を踏み入れてしまったのだから。
「来たぞ!右半分は私に任せろ!」
「魔法は苦手なんだよ、くそっ!」
「私も加勢するのですから、文句を言わないでくださいまし!」
「ミレ、アタシらはアニーの護衛だ!」
「………ん………。………罠も見逃さない………」
空中にいる相手に対して有効な攻撃が出来るのは、魔法使いのアニーと、一応魔法が使える俺、そして九節鞭のアルトリアだけだ。攻撃するために降りてくればレイラやミレにも対応できるのだが、それでは群がられてしまう。だから、魔法を使う間無防備になってしまうアニーの護衛を担い、それに加えて進路上のトラップの発見、回避、解除を担うのだ。
「ギャハハハハハハ」
「アハハハハハハハ」
「クスクスクスクス」
「アーッハッハッハッ」
「ぷくく、くふふふ」
「ガハハハハハハハ」
しかし、うっさい。
殺伐とした鉄火場に似つかわしくない、哄笑が広い広い地下迷宮の通路に響いている。
「なんでよりによってっ………!」
なんでよりによって、群生してるのが―――
―――チョンチョンなんだよっ!?
チョンチョンは人間の顔に、巨大な耳を持つ魔物だ。その巨大な耳をパタパタと羽ばたかせ、後頭部にある細い尻尾の先にある毒針で攻撃してくる。
死に至るような強力な毒ではないけど、この地下迷宮じゃ麻痺毒だって致死毒とおんなじようなもんだ。動けなくなったら死ぬからな。
だが、上空を飛ぶことと毒針以外は、たいして強くもない魔物だし、これまでこの地下迷宮で戦ってきた俺たちにとって苦戦するような相手ではない筈だ。
ならなぜ、皆がこれほど嫌がっているのかと言えば、
「はははははは、ばがぁ!!」
「アハハハハハハ、アババ?」
「ギャハハハハハハ、ギャハァッ!!」
………。わかるだろうかこの気分………?
チョンチョンは人面の魔物であり、そして常に狂ったように笑い声をあげ、満面の笑みを浮かべているのだ。
「HAHAHAHAHAHAHABABABABYABYA!!」
死ぬときまでも。
「不快すぎる………」
ああ、全くだ。
アニーの呟きに、全員が一斉に頷いた。
「ガハハハ!ガバッ!?がばばばばば」
「うへぇ………」
簡単な光魔法で叩き落とし、メル・パッター・ベモーで突き刺していく。魔力は節約したいしな。
「ああっ、今無性ににキアス様の笑顔が見たいですっ!」
「キモッ!キんっモッ!キモッ!」
「………………」
さっきも言ったが、チョンチョンは決して強い魔物じゃない。だがそれは、あくまで地下迷宮の外での話であり、ここは地下迷宮の中なのである。場合によってはこのチョンチョン戦で命を落とす可能性もあり、ある程度緊張感を持って戦うべきなのだが………。
「カッカッカッ」
「キャハハッ」
「(笑)」
満面の笑顔で襲ってくるチョンチョンは、おそらくこの迷宮でもトップクラスで戦いたくない魔物だろう。
このエリアを抜ける頃には全員、げんなりと沈んだ気分になってしまっていた。因みに、魔石や素材を剥ぎ取ったりはしていない。って、当たり前か。
とにかく、俺はもう二度とこのエリアには来たくないな。
もし、グルグルと回っていたのがこのエリアだったら、発狂していた自信がある。