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 え………?マジでっ!?マジでマジでっ!?本当に?これ夢じゃないのっ!?

 しかし、今日だけでいったいいくつ経験値が入ったんだろ?


 そんな事を思い、何気なく自分の『ステータス』を見た。


 そもそも、自分のステータスに期待を持つ事をとうにやめていた僕は、しかしその事を深く深く後悔した。


 何故なら、それがいったいいつ追加されたのか、正確にはわからなかったからだ。もしかすれば、大分前からあって、ただ単に僕が気付かなかっただけかもしれないのだ。アンドレに聞けばわかるかもしれないが、それが何ヵ月も前だった場合立ち直れる気がしない。


 とにかく、僕は今日それを見つけ、一度目を擦り、再び画面を見てから頬をつねり、それでも不安だったのでベッドの足に思いっきり、わざと小指をぶつけてみた。どれもちゃんと痛かった。特に最後のは悶絶した。


 しかし、だって、それでも!!それでも喜びが勝っている。踊り出したい気分だ。そうだ、踊ろう。いや、歌おう。歌いながら踊ろう。

 僕は絶叫した。




 アムドゥスキアス 《レベル72》

 うそつきまおう ダンジョンマスター あくとくしょうにん ぎゃくさつおう


 たいりょく 99810/100920

 まりょく 10089/10089

 けいけんち 128700/1800000


 ちから 18

 まもり 9

 はやさ 123

 まほう 1


 わざ


 まりょくのいずみ

 かみのかご

 かんてい ▼


 そうび


 コート

 パンツ

 ブラウス

 スニーカー

 ふくろ




 「ぃよっしゃぁぁぁあああ!!!!」


 『まほう 1』


 まほう。魔法、魔法である!!魔法が使えるのである!!


 叫ばずにいられるか!?否!!断じて否!!


 ようやくだ。ようやく魔法が使えるのだ!!

 たった1、されど1。僕がどれ程この時を待ち望んでいたかっ!!


 「どうしました、キアス様っ!?」


 パイモンが部屋に入ってきた。よし、パイモンも一緒に踊ろう!!歌おう!!

 「キ、キアス様っ!?」


 「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」


 いや、こんな事をしている場合ではない。早速実験だ。シュタール達は僕が弱いって事は知らないはずで、できれば知られたくないからこっそりと………。


 「おい、なんだ今の声?」


 ちっ!呼んでねーんだよクソ勇者!!消えろ!!


 「何でもない。パイモン、話がある。ついて来い」


 「は、はい………」


 困惑を表情に浮かべるパイモンとシュタールを置いて、僕は歩き出す。魔王の間なら勇者パーティーは滅多に入らない。あそこで実験しよう。


 「お、おい………」


 なおも状況が読めないのかシュタールが声をかけてくるが、今は本当にお前に構っている暇はないのだ。


 「シュタール。地下迷宮の最奥、ミノタウロスの間にはオリハルコンのコピシュとコピスが隠されているぞ」


 「マジでっ!?コピシュとコピスが両方!?行くっ!!すぐ行く!!今行く!!しばらく籠るっ!!」


 よし、うまく人払いができた。後で本当に武器を入れ換えておかなきゃな。







 さて、ドッキドキのワックワクが16ビートの乱打戦だ。

 魔王の間には、僕とパイモンだけがいる。他の連中はリビングで騒いでいるシュタールに気をとられているだろう。


 「炎はちょっと怖いな。失敗したら困る。かといって風は見えないし、ダンジョンでまともに土魔法が使えるかはわからない。


 だからはっきりとわかり、なおかつ安全そうな水魔法を僕が使う最初の魔法にしよう」


 魔法。

 剣と魔法の世界に来てから、剣も使えず魔法も使えず約半年。せっかく神様からもらった恩恵も、ダンジョン造り以外では全く役に立たず、もういっそ諦めていた技能。


 しかし、


 使える。使えるんだ。

 今日から僕も魔法が使えるんだ。勿論、されど1、たかが1である。強力な魔法は使えないだろう。しかし、この場合は威力なんてどうでもいいのだ。


 僕が魔法を使おうと思い、そして実際に発動する。それだけが重要で、それだけが至上だ。


 魔力を集中。指先に集めた魔力が、体の外に少しずつ漏れ出ているのがわかる。そう、ようやく魔力を体の外に出せたのだ。


 次にイメージ。頭の中で発動させる魔法を明確に思い描く。水魔法の中でも最低位の初級魔法。拳大の水を飛ばすだけの、威力すら期待できない魔法。『ネロ・ピド』。だがそれでいい。なんだったらこれすらも失敗してもいい。

 発動した痕跡さえ見れれば。


 次に詠唱。

 僕は口を開き、ゆっくりとその言葉を口にする。


 「『ネロ・ピド』」


 指先に集まっていた魔力が、急激に揺らぐ。無色の魔力に、これから色をつけるためだ。

 集中し、集約し、収斂され、




 そして消えた。




 魔法は発動していない。周囲に変化はない。パイモンも、この部屋に入ってからずっと首を傾げたままだ。

 確認のため、ステータスを見る。当然魔力は減っていた。だが、発動はしていない。


 これはつまり、




 出力不足。




 『まほう 1』では、最低ラインの魔法すら発動させることができない、という事だ。


 「はぁ………」


 思わず漏れるため息。とんだぬか喜びだった………。ガックリと肩を落としながら、パイモンに向き直る。


 「ごめんパイモン、僕の勘違いだった。よびつけちゃってゴメンね」


 「いえ、あの………、大丈夫ですか?」


 大丈夫。結局今までと何も変わらないさ。僕は以前として最弱であり、魔法も使えない。


 昨日と同じであり、明日も同じ。それだけの事だよ。それだけの事さ。


 バァァァアン!!


 僕がパイモンを連れてリビングへ戻ろうとした時、そのリビングへ続く扉が勢い良く開かれた。





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