魔王と人間とスマートフォンっ!?
怖かった………。
何が怖いって、女子に文句を言われ続けるという状況が怖い………。
シュタール、お前良くあのパーティーに男入れずに過ごせるな。ある意味尊敬するよ。僕の仲間は皆優しいもんね。
『女の子騙すとかサイテーだし。っていうかドン引きだし。
もうマジ死ねし』
「また思いきったキャラに変えてきたな、アンドレ」
そういやいたね、ウチにも。魔王並みの口撃力を持った奴が。
『はぁ?マジウケる。いみわかんねーし。話題逸らそうとしてね?』
「ごめん、謝るからそのキャラはやめてくんない?精神的HPがガリガリ削られてく………」
『ふむ。この話し方は中々難しいですね。諦めましょう。
で?謝ると言っておきながらいつまで立っているつもりですか?』
基本正座かよっ!?
『謝るならまず土下座しなさい』
………………。
わかってるのかな?すごい台詞だよ、謝るならまず土下座って。
とりあえず、自分の寝室のど真ん中でスマホに向けて土下座する。っていうか、僕は今何で何に対して何を謝罪しているのだろう?
『面をあげい!』
「ははーっ、って何でやねん!!」
『ぷっ。関西人でもないのに『なんでやねん』って』
「う、うるさい!!」
うぅ………。改めて言われると恥ずかしい。普通に『何でだよ』でいいじゃん。何であのとき僕は『なんでやねん』なんてエセ関西弁で突っ込んだんだろう?
『ところで、例の『ただの通路』ですが、今日一気に死者が出ましたよ』
ああ、ガナッシュの地下に造ったあれね。いきなり話題が変わったから何かと思った。多分この話をするために話しかけてきたんだな。
前置きが不要すぎる………。
「何人くらい?」
『累計1802人、今日だけで1200人近く死にました。当然ですが、魔族は0。全て人間の死者です』
「くふふ。欲の皮の突っ張った奴がこらえきれずに部隊を投入したんだろうね?」
『………………』
『ただの通路』という名はただの皮肉なのだが、この名は一言でこの迷宮を表す。
『………てっきり、少しは動揺するかと思いました。マスターの精神や倫理は、人間がベースです。異世界の人間ですが。ですから、多くの魔族を殺して動揺しなかったのだとしても、多くの人間を殺せば少しは………。
ですがあなたは、普段と何も変わりませんね。もうあなたは完全に人間ではありません』
「今さら何を言ってるんだアンドレ。僕は魔王だよ。生まれた時から、これまでも、これからも」
『そうでしたね。それに、この程度で動揺する者をマスターとは呼べません』
「お?それってもしかして誉めてる?」
『調子に乗んなゴミカスが』
………………。
「アンドレさんアンドレさん。ちょっと強い。毒舌が。心。折れる………」
魔王級つーか、エレファン級だよその威力………。
『べ、別に、あなたのような人を殺すことしか取り柄の無い魔王なんて、好きじゃないんだからっ!!』
「ねぇ、キャラが全くブレてないんだけど………。全てのキャラが僕のメンタルをザクザク削ってくるんだけど?」
『私は私ですから』
なぁ、憶えてる?最初お前、自分はプログラムだって言ってたんだよ?
例え神の叡知だろうと、お前のような人間以上の悪意を吐き出すAIなんて作れないと思うよ、僕は。
『それよりとっととお風呂に入ってください。
最近の私の楽しみはそれだけなのですから』
は?楽しみってなんだ?
最近は男女別で、シュタールとマルコと3人で入っているから、面白いことなんて何もないだろ。
『自分より体格のいい勇者に押し倒される魔王、従順な使い魔の少年に主の特権として無体を強いる魔王、その2人によってたかっていじられる魔王、逆に言葉巧みに2人を翻弄する魔王。
まさにパラダイス!!』
「腐ってる!!このスマホ、腐ってやがるっ!!」
何だかんだでこいつとの会話って気楽だよなぁ。
他の人達ってスラングが全然通じなかったり、例に出したもの知らなかったりするからな。
『おや?新たにただの通路に入ろうとしている者がいますね』
「懲りないねぇ………」
『餌がいいですから』
「で、今何人迷宮に入ってる?」
『55人です。少なく見積もっても、扉が開けば半分は死亡するでしょうね』
「可哀想に。
でさ、お前は僕の変装どう思った?あれで大丈夫かな?」
『常識的に考えて、その話題転換はないでしょう………。なぜこれから死ぬ人間の話を聞いても『可哀想に』の一言で、同じ口で『奴隷解放』や『アムハムラの貧民救済』などを口にするのですか?そしてなぜ、私がこんな常識的なツッコミをしなければならないのですか。不愉快です』
常識的なことを言わされると不愉快になんのかよ。どんな奴だよ。
「いや、ダンジョンに入る奴ってのは、危険を承知で入っているんだからな。手心を加える理由がないだろ。ちゃんと警告もしているし、1000人以上還ってきてないのに入る奴が悪い」
『成る程。それがあなたの判断基準ですか』
そ、ダンジョンはあくまでも自己責任。だいたい、こっちに来れば曲がりなりにも命の保証があるダンジョンを用意してるってのに、なんであっちに行くかね。
僕のダンジョンを、着の身着のままクリアできるわけがないだろうが。
「死んだ人間はダンジョンのエネルギーになる。ダンジョンに住む全住人の助けとなり、アイテムは両大陸の全ての人々が享受出来るようになる。無駄死にってわけでもないさ」
『完全なる搾取ですけどね』
「搾取じゃないぞ?僕はちゃんと褒美も与えてる。それを手に入れられるのが、ダンジョンに入った人間のごく一部ってだけだ」
『………本当に、あんなダンジョンがクリアできると思っているんですか?』
「できるさ。あのダンジョンは全体が危険度3の超ぬるゲーじゃん。
ダンジョンに1パーティーしかいなくて、後続に誰も来なければ絶対に死なない、楽なダンジョンだよ」
ただ、もしそんな踏破者が出れば、ダンジョンにはオリハルコンを求めて人が群がる。
そう、人の欲望こそがあのダンジョンを難関にしうるのだ。
『侵入者が扉を開けました。28人死亡』
「ご愁傷さま。
でさ、変装の件なんだけど―――」
『私は恥じらいの無い女装など認めません!!』