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 小さな大事件っ!?

 ダンジョンに戻ってきた。


 今日はあまり金にならない1日だったな。むしろ服買ったり金を使った1日だった。


 リビングにはアニーさんがいた。どうやら勇者パーティーは、ダンジョンから戻ってくるような時間らしい。って事は、もうすぐ夕食だろうか。


 それにしても、今日はトリシャに見事にデートをエスコートされてしまったものだ。服を選んでもらって、食事に連れてってもらい、最後は暴漢から守ってもらった。見事の一言に尽きる。僕が女でトリシャが男だったら、だが。


 やけにプライドが傷つく話だ。


 「やぁ、アニーさん」


 ガラステーブルの上でチャクラムの手入れをしていたアニーさんの前に、どっかりと腰を下ろす。


 疲れたな………。精神的にも、身体的にも。


 「ん?誰だったか?

 紹介された記憶がないな。キアス殿の仲間か?」


 あれ?………あっ!


 そういえば変装しっぱなしだった。しかし、髪色と瞳の色だけで彼女まで騙せたとなると、この姿も大きくいじる必要はなさそうだな。


 「いや、君とは初対面だ。だが僕は君の事を聞いている。キアスの仲間というのも当たりだ。ここは君たちのような例外を除けば、仲間しか住めない所だからね」


 なぜだろうか?アニーさんに少し意地悪をしたくなった。いつ僕が僕だと気付くかな。


 「そうだったのか。失礼、私はアニトレント・ミルディ。一応、キアス殿の仲間だ」


 「一応、ね。ま、聞いてる聞いてる。無理矢理仲間になったんでしょ?


 おっと、僕の紹介がまだだったね。僕の名はウァプラ。しがない雇われ刀工だよ」


 えーっと、この偽名はどこで身分証を取ったんだったかな………?まぁ、出身地を聞かれたら、ドワーフの山脈国家とでも言っておくか。


 「刀工?つまり我々の武器を造ってくれたのは、あなたなのか?」


 「まぁそうだね。チャクラムの状態を見るに、君は僕の作品を大事に使ってくれているようだ。嬉しいよ」


 「う、うむ。こちらこそ、いつも世話になっている。何度も命を救われた」


 律儀に頭を下げるアニーさん。やっぱりきちんとした子は違うなー。


 「いやいや。あ、シュタールって子に、これ渡しといて」


 「おおっ、メル・パッター・ベモーか。これが無くて最近はダンジョンに籠れないでいたのだ。助かる」


 「ごめんね、僕も仕事が山積みでさ。魔大陸側の事情で造らなきゃならない武器とか多かったから」


 オールの部下用の武器とか、配下の奴等の武器とか、この前のガナッシュとの戦いの褒美とか、本当に色々造らないといけなくて大変だったのだ。しかも、商人との二足のわらじなので余計に大変だった。


 正直、鍛造の鋼の武具より、ほぼ鋳造のオリハルコン、ミスリル製の武器を量産しようかと思ったくらいだ。いや、どう転んでも争いになりそうだからやってないけど。


 「かたじけない。我々は本当にあなたに世話になっているな」


 「いやいや。報酬はもらってるしね」


 「なぁアニー、今日キアスさん遅くねー?お?誰だそいつ?」


 おっと、今度はレイラが引っ掛かったな。だが、よく見れば今までの変装と大差ないこの姿に、レイラなら気付くかもしれないな。


 「こちらは刀工のウァプラ殿だ。レイラ、お前も礼を言っておけ」


 「え?じゃあ圏やトンファー造ったのも?」


 「恐らくこの方だろう」


 気付かねぇや。







 「九節鞭、あれはあなたの造った最高傑作ですわ。

 その姿、用途、擦れる音すらも美の体現です」


 「………いつもありがとう………。………それで、新作の短剣とか、ある………?」


 「ケンコーチョーキケンだっけ?アレ、マジで最高だぜ!!」


 誰1人として気付かねぇ………。僕の変装を一発で見抜いた人たちの癖に。それとレイラ、乾坤鳥亀圏だ。それだと健康超危険に聞こえるから。


 「私達一同、あなたの武器にはお世話になりっぱなしで、大変助かっています」


 しかし、普通のアルトリアさんって、僕としてはかなり違和感があるな。なんだか、触るな危険のアルトリアさんに慣れすぎて、普通にニコニコ笑っているだけのアルトリアさんは、なんだか面白くない。


 さて、マルバスバージョンの変装に気付かなかったシュタールは度外視して、これで勇者パーティーは全員騙せたな。


 しかし、こうなると欲が出てくるな。もしかしたらコレ、僕の仲間も騙せるんじゃないの?

 そしてもし騙せるなら、僕は1ヶ月ぶりに混浴できるんじゃないの?見た目が混浴でないのは別にして。


 そんな僕の希望は、脆くも崩れ去る。







 「誰だ貴様はっ!?どうやってここに入り込んだっ!?」


 そうだった………。ここに来て日の浅い勇者パーティーならともかく、ずっと一緒にいた仲間を騙すのは難しい。

 現に、一番最初に仲間にした僕に忠実で誠実なパイモンに、こんな敵意に満ちた視線を送られているのだ。


 スゲー傷つく………。


 「ごめんごめん、パイモン。今変装を解くから―――」


 「動くなっ!!」


 超コエー。これって、アニーさん達を騙して調子に乗ってた僕への天罰?


 もうさっさと変装解いちゃお。


 幻術の指輪を発動させ、幻術を解こうとしたその時、魔力の揺らぎを感じ取ったのかパイモンが躍りかかってきた。


 「わっ―――ちょっ!?」


 「動くなっ!!どうやってここに侵入したのかはな………せ、ば………」


 「や、やぁパイモン。僕キアス」


 幻術が解け、本来の姿の僕に戻る。因みに格好は、トリシャに選んでもらった女性用の服装一式。スゲー死にたい………。


 「きあ、す、様?」


 「うん。ごめんね、紛らわしい真似して。ちょっと今度の祭りの件で、以前より完成度の高い変装をしないといけなくてさ。その実験だったんだ」


 ごめん嘘。ただの思い付きでアニーさん達に意地悪したくなっただけです。反省してます………。


 「もっ、申し訳ありませんっ!!キアス様とは露知らず、ご無礼の数々申し訳のしようもありません!!

 どうか遠慮容赦無い罰を与えてくださいっ!!」


 大丈夫!!大丈夫だから、土下座をやめてくれ!!

 僕の良心が押し潰されそうだ。


 しまいには涙目になってしまったパイモンを宥めるのに、結構な時間を有した。ホント、悪いことをしてしまった………。




 「さて、ではパイモン殿の次は我々か?」




 ですよねー。


 一部始終を見ていたアニーさん達は、皆一様に笑顔だった。暗い笑顔だった………。


 「うん。別に良いんだぜ?変装の実験だったんだろ?じゃあよ、どんな場合でもその変装が崩れないか、実験しようじゃねぇか」


 「………迂闊だった………。………ちょっとだけ………悔しい………」


 「うふふふふ。

 まさかこの私の目を欺くとは、キアス様もやりますね。良く思い出してみれば、顔も声もキアス様でしたのに何故気付けなかったのでしょう。うふふふふ。不思議ですねぇ。ねぇ、キアス様?」


 「例えどんな理由でも、騙されて気分のいい者などいないのだぞ?」


 一連の騒動で、結構な人数がリビングに集まってしまっていたが、僕は迷わず平謝りを繰り出した。




 魔王の威厳?んなもんとっくにゴミ箱ん中だ!!





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