攻略法殺しっ!?
迷路の攻略法、というのはご存じだろうか?
片方の壁に手を付け、そのまま進むと、必ず出口まで辿り着ける、というものだ。
僕の造った、信頼の迷宮にも、この攻略法は有効で、実際なかなか有用な攻略法である。
だが、この攻略法、実は重大な欠点が2つもあるのだ。
まず、迷路の構造によっては、ゴールに辿り着けないという、最早攻略法という前提条件すら覆しかねない、最悪の欠点。
次に、構造によっては、片方の壁を、スタートからゴールまで辿る以上、全ての行き止まりを通過しなければならない、という場合もある。
もう、これならいっそ適当に進んだ方が、運で出れる可能性の方が高いのではないか、と言いたくなる欠点である。
しかも、上記の2つの構造を組み合わせることも可能であり、延々と時間をかけても、結局はスタート地点に逆戻り、なんて事もあり得るのだ。
僕が今造っているのは、そういうダンジョンである。
まず、信頼の迷宮の出口から入る、ダンジョンを造る。
最初に、ぐるっと外壁から造ってしまう。所々蛇行させ、折り返し、それでもやっぱり外周を一回りして戻ってくる、ただの壁である。
壁が出来たら道造りだ。このままでは、ただの壁に囲まれた平原だ。まず、入り口正面に長い壁を張る。これで、左右に進める通路のようになる。
賢明な者ならすぐに気付くだろうが、この壁は外壁に接触しない構造である。 すると、下手に外壁に手を付いて進めば、最後は入り口まで戻ってきてしまうのだ。
後は、同じ要領で壁を造っていけばいい。勿論、全ての壁がただの一枚壁では、構造の露見も早くなるので、出来る限り信頼の迷宮と同じような構造に見えるよう、工夫を凝らす。最初に外壁を歪にしたのは、そういった理由もある。
入り口正面にある壁も、散々迷宮を右往左往させられたあげく、結局は入り口に戻ってしまうので、この迷宮に攻略法は通じない。
さらに、信頼の迷宮の比ではない程、トラップのレベルも上がる。
さて、お気付きだろうか?
このままでは、ダンジョンに出口が存在しないのである。
しかし、ダンジョンは入り口と僕の居住するあの神殿とが、繋がっていないといけない。ならばどうするか。
簡単だ。
このダンジョンのゴールは、なんと地下へ続く階段なのだ。
そこからさらに、地下迷宮へと侵入してもらう。その地下迷宮で、ようやく真大陸と魔大陸側のダンジョンが合流する。同じ物を2つ造るのって、やっぱり結構な手間なんだよな。
それに、軍隊規模の団体で、ここまで進めるとも思えない。せいぜい小隊、多くて大隊規模でなければ無理だ。
そして、そんな軍勢で敵側の大陸に突貫すれば、結果は歴然である。
まぁ、実力者が少数精鋭で突破して、相手の大陸で死力を尽くして暴れ回るような、自爆テロみたいなものは防げなくなるが、言ってしまえば、それくらいしかできなくなる、ということだ。神様のお願いを、逸脱したりはしていないだろう。
と言うか、これ以上先のダンジョンを2つずつ造るのは、どう考えたって効率とコストパフォーマンスに問題がある。
地上の迷宮もかなり広大に造ったが、この地下迷宮の広さは、その比ではない。なにせ、今まで2つに分けていたダンジョンが1つになったのだから。
因みに、地下迷宮に関しては、地上の迷宮の構造に加え、上下移動と転移トラップが追加されている。
さらに、地上は魔力溜まりから自然発生する魔物しか居ないのに対し、この地下迷宮には、『召喚』で呼び出した強力な魔物と、ボスとも呼べる3体の魔物が存在する。
ミノタウロス。
スフィンクス。
メドューサ。
である。
ボス部屋で侵入者を待ち受ける、地下迷宮の支配者達だ。
因みに、全員僕より強い。
当然か。
地下迷宮のボス部屋からは、時空間魔法の転移で、上空の空中迷路まで飛ばされ、天空迷宮の最奥に居るボスを倒せば、僕の居る神殿まで転移できる。
信頼の迷宮から続く、地上の迷宮を困惑の迷宮と名付け、地下迷宮はそのまま地下迷宮と呼ぶことにする。
長城迷宮。信頼の迷宮。困惑の迷宮。地下迷宮。天空迷宮。
これで一応、僕のダンジョンは完成だ。
まぁ、何か問題が起きれば、その都度修正はしなくてはならないのだが、今は完成と言って差し支えない。
あ、因みに、例の無酸素回廊は、困惑の迷宮と、地下迷宮との間に設置した。
一応そこから先が、命の保証のない、危険地帯となる。
これで完成なのは、維持の関係上、僕の所持する魔力で補えないダンジョンを造るわけにはいかないからだ。
正直、今の状態でも結構カツカツだ。まだ神様の残してくれた力があるので、今は大丈夫だが、それが無くなれば、3日に1度は全ての魔力を、ダンジョンに補給しなくてはならなくなるだろう。
まぁ、他に使い道なんて無いんだけどね。
「どう思う?」
一応、アンドレに感想を聞いてみる。
『そうですね………』
アンドレは、刹那の間沈黙し、続けて言った。
『散々頭を捻って考えたダンジョンに対して申し訳ないのですが――――――これ、絶対ゴールできませんよ?』
大絶賛であった。