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 もう1人の王子様っ!?

 「姫様ッ!この純白のコートなどは姫様のお髪にもよく合っているかと!」


 「ああっ、でもいっそこちらの桃色でも愛らしいでしょうか?」


 「いえいえ、その冴え渡る瞳なら同じように薄い青色がいいですねっ!!」


 王族御用達の服屋。そこでトリシャは店員の制止を振り切り、店中からコートをかき集めていた。


 これ全部試着しろと?


 アムハムラ王国王都アイール。そこは今、好景気に沸いている。

 全ては王国空運の恩恵なのだが、それは訪れた商人たちや国民の努力なしには成り立たないものだ。


 しかし、そんな好景気でもトリシャと僕がいる服屋には僕ら以外に客はいない。まぁ、あからさまに人払いをしているせいなのだが、服屋というのは意外と暗殺の危険もある場所で、こういった措置は当然らしい。弊害は、僕の身分を偽らなければならない事だった。トリシャは今現在公爵であり、アムハムラ王国の重鎮中の重鎮だ。そんな彼女が護衛もなく、王族御用達とはいえ城下の服屋に赴くなど許されない。当然護衛の騎士がいて、服屋の店員の目もある。


 「姫様っ!姫様のお好みはどれですか?」


 「ああ、うん。もう少し落ち着いた色がいいかな。そっちの黒い奴とか」


 そんなわけで、僕は今『姫様』と呼ばれていたりする。はぁ………、疲れる………。


 「なりません!確かに黒は女性を女性らしく、綺麗に見せる色ですが、姫様は元々愛らしいのですから色のある服を着てください!」


 しかも、公然と僕に丁寧に接する機会を得たトリシャのマシンガントークが止まらない。


 っていうか、こういう嘘って結構後を引くんだぞ?これで僕が祭り当日、迎賓としていなかったら不審だろ?


 「でしたらこちらの深い藍色のコートはいかがですか?襟口の毛皮が純白で、生地が藍色。姫様の白銀のお髪と冴え渡る空色の瞳がより一層映えますよっ?」


 「ああ、うん。じゃあこれでいいや」


 もうどうでもいいやと、トリシャの勧めた物を買う事にした。まぁ、着心地は悪くないしね。流石王族御用達。襟のファーもチクチクしないし、柔らかい。生地も、かなりの高級品と一目でわかる。

 僕が商売で扱いたいくらいの一品だ。値段はいくらだろ?


 「店主、これをもらう」


 「ありがとうございます」


 あれ?カイゼル髭のジェントルマンが頭を下げると、他の店員はトリシャの散らかしたコートを片付け始め、誰も代金を取りに来ない。


 「では、次に参りましょう姫様」


 「え?あれ?お金は?」


 「後で城の方に請求が来ます。外は寒いですから、コートはそのまま着ていきましょう」


 流石王族………。僕は初めて見るトリシャのお姫様らしい言動に、ややヒキ気味に手を引かれて歩くのだった。







 「大変お美しいですよ?」


 「やめてくれよ。マジで………」


 全ての買い物を終え、僕とトリシャは食事を摂っていた。全てをエスコートしてくれたトリシャには申し訳ないが、これらの服は祭りが終わったら封印しよう。

 スカートくらいはガナッシュでも穿いていたので抵抗はないかと思っていたが、高級品でもあくまでも平民用であるスカートと、貴族用のスカートとでは全然違った………。なんとかズボンにしてもらった僕の努力を誰か誉めてほしい。でもズボンもタイトで、いつものスラックスが懐かしくなる。


 僕らは高級レストラン(勿論貸し切り)で、アムハムラの高級料理(毒味済み)に舌鼓を打っていた。テーブルマナーには不安があったが、そこはトリシャが「礼儀作法に縛られず、ご自由に召し上がってください」と助け船を出してくれたので、汚くならないようにだけ気を付けていた。生魚うまっ。


 「アムハムラはどうですか?」


 トリシャの言葉は、護衛の騎士には初めて訪れた異国の姫君に国の感想を聞いたように聞こえるだろう。だが僕には、現在の好景気に沸くアムハムラ王国の現状を視察し、どう思ったのかという質問にしか聞こえなかった。


 「申し分なく、過不足ない。後は財のサイクルを確立させれば、この国はしばらくは安泰だろう」


 つまり、現状は僕の満足いく結果だけど、お金を上手く民衆に還元する方法は早く考えた方がいいよ、ということだ。騎士の人は首を傾げているが、トリシャには伝わったかな?


 「………。それよりも、アムハムラ料理はいかがですか?姫様のお口に合うでしょうか?」


 あ、わかってないなコレ。まぁ、アムハムラ王にも今さら忠告するまでもない話だし、いいけどね。


 「おいしいよ。刺身は結構食べてたけど、マリネは初めてかな」


 生野菜が食べられないので、付け合わせは結構残してしまっている。料理人さん、ゴメンね。


 「よかった………」


 「ふふふ。そんなあからさまに安堵しなくても、今回買い物に付き合ってくれたトリシャには感謝してるよ」


 まぁ、トリシャの着せ替え人形だっただけの気もするけどね。しかし、トリシャもやっぱり女の子だったんだな。てっきり、お洒落に全く興味がない子なのかと思っていたけど、そうでもないらしい。

 だったら自分もお洒落すればいいのに、とは思うのだが、スラッとしたパンツルックのトリシャも凛々しくて好きだし口にしないことにする。


 ………食事はその後つつがなく終わったが、コース料理って結構量があるよな………。せっかく買った服も、初日にボタンが弾けるかと思った。

 トリシャは全部ペロリと平らげていたが………。







 夕暮れ時。西の空は茜に染まった雲海が覆い、辺りはそろそろ薄暗くなってきた。僕らはこれから城へ戻る予定で、僕はそこからダンジョンへ戻る。

 馬車の中には他人の目がないので、僕もトリシャには気さくに話せる。そんな和気藹々とした空気を、切り裂くような馬の嘶きと馬車の揺れ。馬車が止まり、怒号が辺りから聞こえ始めた。


 「見てきます」


 「僕も行く」


 「キアス様は………、いえ、言っても無駄ですね」


 「うん。無駄」


 こういう場合、本来僕のような者は馬車の中で大人しくしているべきなのだろうが、あいにくと僕はそんなにお姫様になりきってはいないのだ。


 「私から離れないでください」


 「了解」


 とはいえ、何が起きているのかはわからないのでトリシャから離れないよう注意しよう。


 馬車の扉を開き、トリシャが先に降りてから僕に手を差し出す。本来は逆の立場なんだけど、トリシャがやると様になるから困る。


 「姫様っ!あ、いえ、公爵閣下、なぜお出になられたのですか?」


 「現状を知りたい。何があった?」


 「はっ。どうやら山賊が町に入り込み、この馬車を襲おうと画策したようです」


 「そうか。今は祭りに向けて山賊狩りが進んでいたはずだ。大方、そちらの取りこぼしだろう。王室の馬車を狙ったという事は他国の賊か?」


 「恐らくは。既に全員捕縛しておりますので、公爵閣下は馬車へお戻りください」


 「フフ。心配せずとも私の実力はお前も知っているだろ、コカール」


 「わ、私の名前をご存知でっ!?」


 「おいおい、私は騎士団長だったのだぞ?有望な騎士の名くらい憶えているよ」


 そういえば、元騎士団長ってことは今日の護衛はトリシャの元部下ってことか。良かったのかな?幻滅とかされてない?


 かしこまってお礼を言う騎士とそれをなだめるトリシャを後目に、事件も収まったのなら馬車に戻ろうかな、と考えていた時、むさい毛むくじゃらの腕が僕の首に回された。




 「動くなテメェ等!!」




 臭っ!!なんだコイツ!?

 騎士とトリシャがこちらに気付き、その表情を変える。騎士の表情は蒼白に、トリシャの表情は―――


 「この姫さんの命が惜しければ、馬車から離れやがれ!!」


 男が大声を出すと、周囲に集まっていた民衆から罵詈雑言の雨が降ってきた。


 そうか。さっき聞こえていた怒号はこれか。トリシャが王族の馬車を襲った賊を、国外の者と断定したのもこれが理由だろう。


 アムハムラは、王室の人気が本当に高い国だ。


 民衆の中には、そこら辺に落ちていたであろう棒まで持って威嚇している者もいる。僕がいるからか、手に石を持っている人はそれを投げないけど、僕を捕まえている賊への悪罵は全力投球だ。


 「くそっ、なんなんだこの国は?金がわんさかあるって聞いてきたのに、山狩りはされるわ、町に降りればすぐ見つかるわ、おまけに貴族の馬車を襲えば町民が怒り狂って襲ってくるわ。

 わけがわからねぇ!!」


 ブツブツと喋る山賊。どうやらこいつには、先見の明ってやつが皆無だったようだ。

 アムハムラが現在、治安維持に力を入れているのを知らないばかりか、この国の王族人気も王族の紋章も知らないらしい。アホだ。いや、まぁ、そのくらいのアホだから山賊やってるんだろうけど。


 「キアス様………、ほんの少しの間動かないでいただけますか?」


 「うん、わかった。任せる」


 トリシャの声に二つ返事で返し、僕は鎖袋に伸ばしていた手を引っ込める。


 「テメェ!!こっちには人質がいるんだぞ!?」


 「そうだな、貴様は人質をとった。

 それは賊であることより、王室の馬車を襲ったことより、何よりも許されない罪悪だ。


 今すぐその手を離せ。そうすれば苦しまずに死なせてやる。離さなければ、死よりもおぞましき苦痛を与える。


 選べ」


 トリシャの表情は、全く読めない。まるで張り付けたかのような無表情だった。

 戦闘体勢のトリシャというのを、僕は初めて見たが確かにすごい雰囲気だ。


 「何を言ってやが―――「―――そうか」」




 一瞬。そんな言葉すら長い。




 一刹那の後には、僕を拘束していた毛むくじゃらの腕は宙を舞い、背中に感じていたむさ苦しい感触は消えていた。


 「お怪我はありませんか、キアス様?」


 慈母のような微笑みを浮かべるトリシャの腕の中。そこにいるのに気づいたと同時に―――


 「あああ゛あ゛ああ゛!?腕がぁああ゛あぁああ゛あ!!」


 振り向けば、両腕を無くした大男がのたうち回っていた。

 盛大に血が吹き出し、辺り一面地獄絵図なのだが、僕には一切その痕跡がない。


 「拘束して引っ立てろ!!血止めをして生かしておけ!!

 断罪の頃には自ら死刑を望むようになるだろう」


 指示を出しつつ、僕を立たせるトリシャ。


 「コカール、剣を返す」


 「え?あっ!」


 トリシャが持っていた剣は、どうやら騎士のものだったらしい。それに、今の今まで騎士本人すら気づいていなかったようだ。


 あの一刹那で、隣の騎士の剣を拝借して賊の両腕を切り飛ばし、僕を抱えてその場を離れるなんて芸当をやってのけたのか。


 「ありがとうトリシャ」


 「ご無事で何よりです。ですが、あのような者の接近を許してしまい、申し訳ありませんでした」


 「いや、まぁ、外に出たいって言ったのは僕だしね」


 元凶は賊でも、原因は僕にあるのだ。

 まぁ、あの程度だったら僕1人でも対処できたんだけどね。でもその場合、僕は怪我をしていたかもしれないし、相手も確実に殺してしまっていただろう。


 しかし―――


 「とにかくお怪我がなくて幸いでした。さぁ、馬車へと戻りましょう」


 自然に僕の手を引くトリシャ。民衆からは「トリシャ姫万歳」「トリシャ騎士団長万歳」「トリシャ公爵様万歳」の声が響いている。


 救国の国母の娘、最年少騎士団長の姫、そして天才と謳われた剣士の姿。トリシャ・リリ・アムハムラは、間違いなくこの国のヒーローだった。




 ただでさえパイモンとキャラ被ってるってのに、王子様属性まで同じとは。





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