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 にゅ、入国拒否っ!?

 「いやぁ、それにしても楽しみだなぁ、剣王祭」


 きっかけはそんな台詞だった。

 アムハムラ王国のアムハムラ王の城の謁見の間。板敷きの、暖炉があってもなお寒いその謁見の間で、僕がもう完全に寛ぎながら言った、何気なく言ったそんな台詞は、しかし予想外のアムハムラ王の言葉に拒絶されてしまった。




 「いや、貴殿はこの祭りには来ないでくれ」




 ハッキリ。キッパリ。バッサリ。


 ここまで強い拒絶をされれば、悲しいとか失望とかいうマイナスの感情より、素直に困惑してしまう。


 え?何?僕って自分が思っている以上にアムハムラ王に嫌われてるの?


 しかし、問題はそこまで単純ではなかった。


いや、単純は単純だった。だがそのシンプルさは僕に反論の余地がなく、それはつまり僕がこの祭りに参加できる機会を諦めさせるに足る理由だった。

 そういう意味では、問題は単純だった。


 「アムドゥスキアス………、貴殿はこの国で何をやったのか、憶えていないのか?」


 はて?何をやったかと聞かれても、結構色々やらかしていて困るところだ。


 直近のところではゴミ処理業者を作ったことか?だが、あれはきちんとアムハムラ王にも許可を得て作ったし、町の住人にも従業員にもすこぶる評判が良い筈だ。いや、直近と言うなら街を1つ造ったことか?だがあれはあくまで『魔王』の仕業であり、『商人キアス』には関係がないだろう。もっと言えば、これは問題視されるほど認識もされていない。アムハムラ王ですら、今日僕が来るまで知らなかった事実なのだから。普段人気のない土地だからか、まだ発見されていなかったようだ。


 ではなんだろう?


 聖騎士を殺したこと?僕がオンディーヌを連れて―――


 「あ」


 「本当に忘れておったのか………」


 「ええ、すっかり………」


 そうだった。僕がオンディーヌであるフルフルを連れていることはある程度の人間が知っているし、この場合もっとマズイ事柄が1つあるのだ。


 「貴殿をオンディーヌと同一視している国民もおる状態で、その服、その髪、そして貴殿の馬車でこの町に入るのは許可できん」


 そうだ………。この場合一番の問題は、僕があの時行った偽善行為にあるのだ。


 言うまでもなく、アムハムラ王とオンディーヌの邂逅は、現代の伝説である。


 その舞台裏にどんな思惑があろうと、本質としては創られたのではなく、造られた伝説であろうと、民衆はそれをおとぎ話でしか語られないような伝説が現代で起こったという超常現象だと思っているのだ。

 それは概ね僕の思惑通りであり、これまでは一切のリスクがないお得なカードだったのだが、ここではそれが裏目に出てしまった。


 この話が人口に膾炙するにあたり、服装や髪、その他細かな特徴すら世間に知れ渡ってしまったのである。

 ここまではフルフルの問題であり、言ってしまえば僕には関係ないと言って言えなくもない。服なんて着替えれば良いし、馬車やモーモも使わなければ良い。

 だが、僕の偽善行為のせいで、僕までオンディーヌと同一視されているのが、さっきから言っているように最大の問題なのだ。


 オンディーヌの噂が広がるにあたり、ある地方ではオンディーヌの髪の色は黒く、その髪は短かったと言われていたりする。それは僕が初めてこの国を訪れた際通った地方であり、通った村々での事だ。


 詳細は省くが、僕はその村に慈善的な偽善行為を行い、さらには次回に金銭の授受を匂わせる発言までしているのだ。もしこのまま、僕が無防備に剣王祭に参加し、さらに僕の顔を覚えている人間と会い、しかもあろうことかオンディーヌと間違えられてみろ。




 祭りの混乱は必至である。




 アムハムラ王国にとって、偽物であり、実際は魔王である僕がオンディーヌと間違われ、あまつさえ金銭や信仰を受けてしまえば、これに勝る不利益はないのだ。

 僕の顔は、今や魔王として結構売れてしまっている。教会関係者は断絶してしまっているアムハムラ王国の祭りに来ることは無いとしても、北方三国の各元首やズヴェーリ帝国皇帝、そのズヴェーリのその他貴族、天帝、そして一番可能性の高いガナッシュ公国民が祭りに来る可能性は0ではないのだ。

 正確に言えば、ガナッシュの時の僕は変装していたのだが、その変装が全く信用できない。これが、教会襲撃時やコーロンさん事件で見事な変装を見せたフルフルならまだしも、シュタール達に一発で見破られた実績のある僕の変装では、不安は拭えない。


 そして、魔王である僕がオンディーヌと同一視されていた事実が白日の元に晒されれば、この剣王祭そのものが破綻しかねない大事件へと発展する。


 アムハムラ王に剣を授けたのは魔王となり、


 アムハムラ王国は明確に真大陸では異端の存在になり、


 魔大陸侵攻反対派の衰退は、賛成派閥の台頭を意味し、


 その通過地点であるアムハムラ王国すら、その場合敵視されない保証は無いのだ。


 最早悪条件のオンパレード。これはアムハムラ王も拒絶するはずだ。ハッキリ、キッパリ、バッサリ、拒否するはずである。にべもないはずだ。




 でも行きたい!!




 「行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい」


 「えぇい!!駄々をこねるでない!!無理なものは無理だ!!」


 「いーやーだー!!こんな楽しそうな事、僕抜きでやるなんて許さないっ!!」


 「子供か………」


 子供で結構!実際、僕は現状0歳なのだからこれくらいのわがままは許されるはずだ。


 ボタッ。


 と、僕の目の前の床に赤いものが落ちてきて、流石の僕も駄々っ子攻撃を中断した。

 つーか、これ血じゃね?

 僕とアムハムラ王が恐る恐る天井を見上げれば、床と同じく板張りの天井パネルが一枚ずれていて、そこからは―――




 ―――アムハムラ王国元騎士団長にして姫君、現トリシャ・リリ・アムハムラ公爵が顔を覗かせていた。




 「こわっ!!」


 「むぅ………、我が愛娘とはいえ擁護できん………」


 なんかすごいハァハァ言ってるんですけど!?つーか、目も逝ってるよ!?

 スゲーギラギラしてるっ!?まるでオールと対峙しているときくらい貞操の危機を感じるんだけどっ!?


 「ト、トリシャ………?」


 「だだっ子のキアス様、………最高ですっ………!!」


 これがガナッシュ公国で恐れられた仮面の剣士だとは、誰も思わないだろう。個人的には羨ましく、さりとてああなりたいとは微塵も思わない僕だった。





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