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 剣王と魔王の前夜祭っ!?

 「今週か………」


 「そうっすねー」


 気重そうなアムハムラ王と、気楽に言う僕。


 「用意はできていますよ。北方三国は出展も多そうだったので、別の国から商品を集めておきました。値段も庶民向けにリーズナブルに抑え、その分商品の量を用意したので品切の心配はありません。不良在庫にならないための策は講じているので問題ありません。

 準備は万端です」


 「貴殿はイキイキしておるの………?」


 「稼ぎ時ですから。そう言う陛下は冴えないご様子ですね?」


 まぁ、理由もわかるし同情はするけどさ。


 「自分を称える祭りを、自分で主催しなければならない恥ずかしさときたら………。いっそ殺せ………」

 剣王祭が来週に迫っていた。







 ここまで急ピッチで祭りを開催する事になったのは、季節が関係していたらしい。


 アムハムラはこれからどんどん寒くなる。もしこれ以上時期が遅れれば、北側の国に住む者しか祭りに来られなくなり、この祭りの目的である資金の放出が難しくなってしまう。もう1つの目的である安価な本の発売においても、祭りに参加する人間は多いに越したことはないのだ。とはいえ、アムハムラ王人気が一番篤いのはどう考えてもアムハムラ王国なのだから、その客の大半もアムハムラ国民になるのだが。因みに、庶民にも手に入りやすい、アムハムラ王の本が出版されるという噂は、既に民間に流れている。恐らく北方三国のマーケティング戦略だろう。中々どうして、侮れないもんだ。

 この噂が流れることにより、アムハムラ国民は祭りの前は出費を控え、祭りが始まれば本を探すだろう。きっと彼らはその本の安さに目を見張るはずだ。そして予想外に安い本を買って、余った金は祭りで使う。今回の祭りで味をしめた商人は次の祭りを望み、アムハムラは定期的に大規模に商人を呼び込む事ができるわけだ。


 「そなたが連れてきて、勝手に住まわせた者達は、今回の祭りには消極的であろうな」


 「あははは。そりゃあ、これまでなんの恩恵もうけていませんからね。仕方がありませんよ。ただ―――」


 「わかっておる。あの者達はこれからの我が国に必要な人材だ。ただ、問題があるとすれば、あの町を見てしまえば、それを我が国が独自に造ったと思う者は少ない事だろうな」


 確かにあの街は、人間が作ったと言うにはやや常軌を逸している。いくら他国から、魔法研究に余念がないと思われているアムハムラ王国でもだ。


 「そこは正直に言って構わないですよ。


 『第13魔王は、調査隊隊長であったトリシャ姫の礼を欠かぬ対応に感謝し、その叙爵を祝って彼女の拝領した領地に街を1つ贈った』


 なんなら文書にして送りましょうか?」


 「頼む。難癖をつけられたくはないし、その後の対応にも役立つ。我が国にとっては、居住どころか通行すらままならなかった岩場が、勝手に街になったのだから外聞以外の損はないしな」


 はいはいっと。あの街も住民が多くなれば観光を主財源にできるし、そうでなくても貴重な人材は国内で重宝されるだろう。問題があるとすれば、人数が少ないことか。


 「しかし珍しいの、貴殿がここに1人で訪れるとは」


 僕は今、アムハムラ王国のアムハムラ王の城にいる。護衛は、全くいないわけでもないけどほとんど無防備に僕はくつろいでいた。


 「まぁ、アムハムラ王相手に警戒するのもね。今さらですし、何よりその程度の信頼関係は築けていると思いますが?」


 「どうかの?ここで私が、城の騎士達に貴殿を襲わせるかもしれんぞ?」


 意地の悪い笑みを浮かべるアムハムラ王に、軽く鼻から息を吐いて答える。


 「ふん。そうなっても、最悪逃げる事くらいはできますよ。そしてその後のアムハムラ王国との取引は無しです。僕が他の国で王国空運の真似事をさせたらどうなります?」


 確実にこの国の収益は落ち込み、今のような強い立場を維持できなくなるのだ。


 「1つ、もっと重大な事柄を見落としておるの」


 「と言うと?」


 「トリシャに嫌われる………」


 ああ、親バカだもんねあんた。


 「魔王として生まれちゃうと、どうしたって他人との間に壁を感じちゃうんですよねー。だからこうして、対等な立場で話せる相手って貴重なんですよ」


 王様とか、勇者とか、魔王とか。

 別に仲間を疎んじてるわけじゃないんだよ?ただね、仲間は家族同然に衣食住を共にしてるわけで、友人を求める心っつーかねー。まぁ、最近居候が住み着いてるけど。


 「ところでガナッシュの件はどうなりました?」


 「ん?どうもならんよ。貴殿の企み通り、アムハムラ王国とガナッシュ公国は通商条約を結んだ。アムハムラは食料を得て、ガナッシュは北側への販路を得た。

 ただ、問題があるとすればそれ以外の国だな。王国空運が自由に飛び回るのは、脱税であるとの意見が出始めた。まぁ、当初からあった摩擦だがの」


 確かにねー。僕は商人だから税金なんて無いに越した事はないと思うし、その方が商業が活発になって国も富むと思うんだけど、中々上手くはいかないか。


 「その摩擦、あまりに大きくなりそうなら先手を取ってしまうのもアリですね」


 「先手とは?」


 「空の港を造りましょう!」


 空港。

 出入国管理や税関を担う、空の港。これを造って税金はその空港がある各国が勝手に決めればいい。

 そしてこれには、大きな罠も用意されている。


 「きっとアムハムラに文句をつけていた連中は、挙って空港を自分の領地に誘致したがるでしょうね」


 「貴殿の性格の悪さは秀逸だな………」


 おっと、早くもこのカラクリに気付いたか。流石。


 「真大陸のほとんどの国は領地ごとに税率が違います。領主の裁量で税金が決まりますからね。そして、空港を誘致した領地はその国の流通の中心地となれる。こんなに甘い蜜はないでしょう?


 ただし、それこそが罠なんですけどね」


 「税を独自に決められるという事は、高くもできるが安くもできるという事。

 空港とはいえ、海の港のように立地にあまり拘らなくてもいいそれは、つまりはどこに置いても良いという事。しかし、せっかく置いた空港で莫大な関税を取られれば、自然と客足は遠退く。

 さらに、高い税金を取るわけにはいかず、しかしあまりに安い税金は他の職から見れば特権も同義。税を一律で下げれば話は別だが、矢鱈な者の土地に空港を置けば暴動でも起こりかねんし、そんな土地に行きたがる商人はやはりいないだろうな。

 領主は責任を免れぬし、せっかくの機会をふいにしてしまった事で、庇う者も少なくなる。例えそれが、どんな地位にある者でも」

 まるで定置網を仕掛けたかのごとく、アムハムラに敵対していた者の力を削ぐ事ができるわけだ。


 「そこで、アムハムラ王国と北側三国、ガナッシュ公国は談合してもらいます。世界中に向けて『これまで通り、王国空運の流通に税は取らない』という宣言をすれば、これまで以上に商人の足は各国に向くでしょう。

 他国も、貴族が暴利を貪る税制を少しは改善してくれるかもしれませんしね」


 「検討しておこう」


 「うわぁー、アムハムラ王は汚職貴族から蛇蝎のごとく嫌われるでしょうねー。僕しーらね」




 雑談がてら、ちょっと面倒くさい話もしてしまったな。

 祭りは来週、今はそこで利益をあげることだけ考えねば。





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