魔王さまは大富豪っ!?
「ふぁぁぁあ!?」
アカディメイアの大図書館。いや、大図書館とは言っても、僕の認識では普通の市立図書館とかとたいして変わらない規模だ。だから、何が『大』なのかと言えば、資金的に大出費だったという意味での大図書館だ。
本当に高かった………。
その大出費図書館を見るなり、フォルネゥスは歓声をあげたのだった。
キラキラと期待に輝く焦げ茶の瞳、やや浅黒い肌をうっすらと紅潮させ、その矮躯をウズウズと蠢かせる。こんな姿は年相応の子供と変わらないな。その対象が本なのはともかく。
「まおう!まおう!見てもいいのかっ!?これ全部、もう見てもいいのかっ!?」
初めて遊園地に来た子供か。
「まだダメだ。まずはアカディメイアの教師連中と、戦闘教官をしているグリフォンに紹介する。しばらくは彼らと共に行動しろ。何も知らない魔族が因縁つけてきたらフォルネゥス単独じゃ不安だからな。
次にこの街を管理している者の紹介。君は彼らの仕事を引き継ぐのだから、ちゃんと挨拶しろよ?それと、終業後はすぐに僕の神殿まで戻ってこいよ?こっちに残っても余計な問題が起こるだけだ」
「ふむ………。そうだな。ここは真大陸ではないのだから、それを念頭に動かなければならんな。まおう、色々迷惑をかける」
殊勝に頷いているが、表情はどこか残念そうだ。そんなにすぐに読みたかったのか?
「いやいや。こっちが無理を言って呼んでるわけだしね。これくらいは当然さ。帰る時は本を持ち帰ってもいいけど、あまり大量に持ち出すなよ?ここにいる奴等の教本でもあるわけだし」
「うむ。それはそうだな。留意しよう」
その後は割とつつがなく進み、教師連中とグリフォン、代官に紹介を終えれば今日はとりあえずここまでであった。約束通り、本を一冊持って神殿へと戻るフォルネゥス。その本も、どれを選ぶか熟考して選んだ一冊で、今も大事そうに抱えている。
「まおう!小生は今日の内に、この本を読んでしまいたい。食事は不要である。では」
「では、じゃねぇ!」
とんでもない本の虫だな。しかし、そんな勝手は許さない。ちゃんと食べ、ちゃんと寝てこそ健康であれるのだ。食事も睡眠もきちんととらなければ、フォルネゥスを預かる身として申し訳がたたないのだ。
「食事の時間は7時。消灯は10時。1秒も負けないから覚悟すること」
「………了承した………」
うわー、不満そうな顔。
「あ、後きちんと風呂に入ること。着替えも用意しておくから、明日からはそれを着ろよ。僕の関係者っていう、良い目印にもなるし」
フォルネゥスの服はお世辞にも上等とは言いがたく、所々にツギハギがあったりする。まぁ、人間の一般庶民としては普通の服装だが、それではあまりにも格好がつかない。何かあった場合、僕の代官であるという言葉にも信憑性がなくなってしまう。因みに、魔族の視点から見れば、この服は中の上くらいの部類にはいる。作ったのが人間だからね。そんな意味でも余計なトラブルを招きかねないのだ。
真大陸ですら不可能な程上等な僕の学ランを着ているだけで、結構なトラブルを回避できるだろう。
「お恥ずかしながら、小生は君の着ているような上等な衣服を買えるような財はないぞ?」
「バカ。あげるっての。それと、給料だって出すから心配すんな。とは言っても、これから給料日まで待たせるのもな………。よしっ!契約料代わりだ、まずは白金貨20枚を渡しておこう」
「ちょっ!?ちょっと待て!!」
ん?どうしたのだろう?お金がなければフォルネゥスも色々困るだろうに。
「白金貨20枚って、君はその価値をわかって言っているのか!?」
「愚問だな。僕にお金の価値を説くなど、いくら君でも不遜が過ぎるぞ?
金額については、君の能力を鑑みれば妥当な数字だ。気にするな。近々大きな収入がある予定なんだ」
「君は、どこまで小生を過大評価しているのだ?白金貨など、小生が貴族であった頃にすら縁の無かったものだぞ?お祖父様とて、見たことがあったかどうか………」
「君の給料は一月白金貨5枚を検討している。何、シュタールが月一振り剣を買えば稼げる金額だ。安い物さ、君を僕の陣営に引き込むための代償にはな」
「それが過大評価だと言うに………」
「今は、君を雇うことに確かに白金貨5枚の価値はないかもな」
そこら辺の金銭感覚は、僕はかなりシビアだ。雇っている奴等の給料から考えると、フォルネゥスの給料は破格と言っていい。フォルネゥスも「そうだろう」と言って頷いている。
「だけど僕には、君を育てるだけの準備がある。知識の宝庫、潤沢な財、君を雇用するだけの地位、これで君が白金貨たった5枚の価値にも育たなかったのだとすれば、それは君のせいだろ?」
「白金貨5枚の給料といえば、小生のいた国では伯爵級の大貴族の年金だぞ?」
「なんだ、まだ伯爵級か。よし!白金貨10枚!!これで侯爵級くらいか?」
「公爵級の年金だっ!!それを小生に月給で払うつもりかっ!?」
ふーん。侯爵や公爵も結構窮々としてんだな。まぁ、領地収入がある貴族は違うんだろうけど。僕の月収は月に白金貨120枚位だからな。フォルネゥスの給料くらいどうとでもなる。とはいえ、僕の財布は街の財政に直結してるからな。あまり無茶はできないんだけど。
「僕の目を狂わせないでくれよ、フォルネゥス?」
「ふ、ふんっ!小生に期待するのは勝手だが、後で損をしたと嘆いても知らないぞ?」
「はははっ!その場合は減俸だな!!お金の色が変わるから覚悟しておけ!」
僕とフォルネゥスは、今日から仲間になる。彼女は僕の事が嫌いだと言う。しかし心配などしていない。なぜなら彼女はフォルネウス。
フォルネウス。
ソロモンの72柱の悪魔の1柱。序列は30番。海の怪物の姿で現れ、言語、弁論、レトリック、言葉に関するあらゆる恩恵を授け、よい名を授けるとされる悪魔。加えて、敵対する者ですら友人同士にしてしまう友愛の情を与えるとされる。
「まおう………、給料は5枚でいい………」
「その自己評価が低いのは、何とかしてくれよ?」
「君の過大評価こそ何とかしてくれ」
まぁ、まだ時間はかかるだろうけど。