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 罪悪の魔王

 「どーも、魔王です」


 軽いっ………!

 あまりにも軽い調子で、しかしそれゆえにあまりにも自明の事であるかのようにその子供は言った。

 その背後に控える魔族の面め………、なんだか人間のような奴が多くないか?あのグリフォンやヘクトアイズ、ラミアなんかは救助の際にその姿を見たが、残念ながら小生には個体の識別まではできないので、それがここにいる者と同一であるのかはわからないが、他は痩せ型のオーガくらいしか小生の知識にある魔族はいない。というか、エルフやドワーフまでいる時点で、魔族だけではないようだ。


 しかし、中でも一番ひ弱そうなこの子供が魔王だというのか?

 背後に控える(一応)魔族の面々がいなければ、一笑に伏すレベルである。


 「なぁ、あんたらこの町を復興する気とかある?」


 意図のわからない質問であり、同時に結論までを見越しているかのような話し方だ。町長が『復興しなければ、我が町の住民たちに未来はない』と答えていたが、実はそれを回避する手段が1つだけある。


 それは、町を捨てること。


 この地に留まる事は、すなわち破滅と隣り合わせであり、他の町に移り住めば喫緊の窮地は脱する事ができるのである。

 だが、この案にも問題がある。差し迫った問題として、仕事に就けるかどうかである。これだけ多くの住民が流入するとなると、雇用が足りない。無論、分散するという方法もあるだろうが、それにだって限界はある。大半が路頭に迷う事になるかもしれない。

 問題は他にもいくつかあるが、難民問題というのは場合によっては根深い亀裂を生むのである。


 「僕が思うに、この町はもう終わりです」


 フフ。

 言いにくいことを小気味良く言ってくれるものだ。小生にはできない芸当だ。好感が持てる。


 「ただ、あなた達があなた『達』のまま、生きていくのを望むのであれば、僕だってそれを助けるのはやぶさかじゃない。


 乗りかかった船だしね」


 魔王、何が言いたい?


 この町と住人を切り離さなくては、小生たちは苦境に身をやつさねばならない。お前はそれを言うために現れたのではないのか?


 魔王は笑う。不敵に笑う。


 「この土地を捨てる覚悟があるならば、僕が君達に安住の地を提供しよう」


 それは―――、


 土地を捨てる代わりに小生たちに魔大陸に住め、と言っているのだろうか?だとしたら噴飯ものだ。それならば方々に散って暮らすことを選ぶべきである。


 町というコミュニティは確かに重要だ。しかし、それに縛られて個人の権利を阻害してしまっては本末転倒である。


 勿論町長も、『厚意はありがたく受けさせてもらうが、残念ながら魔王様の庇護下につくことはできかねます』と述べた。当然である。


 しかし、それでも魔王は笑う。ニヤニヤと、ニタニタと、こちらを試すように、こちらを計るように。謀るように。


 「いや、僕の庇護下ではない。


 確かに町は僕が作るし、そこを治める者も僕の息がかかった人間だ。だから間接的には僕の庇護下と言って言えなくもないんだけど、直接的には違う。それと、君たちを魔大陸に呼ぶつもりはない。あそこは人間が生きていけるような、そんな社会秩序なんて存在しない。だから『行きたい』と言われても迷惑だし、『住みたい』などと言われてしまってはこちらが困る」


 それは………、確かに困るだろうな。魔王の一存で魔大陸に人間を住まわせるなど、こちらの移民問題以上に軋轢を生む。統治するのは魔王であり、つまりはその軋轢を解消するのも魔王の仕事であるならば、進んでそんな面倒を背負おうとする変人などいまい。


 魔王の話に多少興味を刺激されたのは、どうやら小生だけではなかったらしく、町長も魔王にその真意を尋ねた。


 「いやなに、実は思いの外簡単にガナッシュの問題が片付いてね、最悪の場合を想定していた用意が必要なくなったんだ。あんな物分かりの良い相手だと知っていたら、そもそもそんな用意なんてしなかったんだけどさ。


 しかし、そのもしもの備えがこうして役に立つかもしれないってなら、無駄な備えってわけでもなかったんだけどさ」


 どうにも持って回った言い方である。もう少し明快に話せないものか。


 「あなた達を許容するのは、アムハムラ王国です」


 そう、それくらい明確に告げて―――


 今なんと言った?


 「アムハムラ王国にある内陸部の一部に、僕が町を作ります。あなた達をそこまで送っていくくらいであれば、僕としては助力は惜しみません」


 それは、しかし許される事なのか?この国とアムハムラ王国に軋轢を生むのではないか?そうなれば、我々は疫病神以外の何物でもないのだぞ?


 「勿論、あなた達がこの町の住人であることは隠してもらいます。余計な面倒を避けるためにもね。名前を変える必要まではありませんが、あまり言いふらさなければそれで良いです。

 アムハムラ王国には僕から話しておきましょう。あちらにとっても悪い話ではありませんから」


 確かにアムハムラ王国にとって悪い話ではない。あの国は今、発展最中にある国だ。人手が増え、無償で町をつくってくれる事に否があるはずもない。相手が魔王でさえなければ。

 そして我々にとっても、これは悪い話ではない。アムハムラであれば職はあるだろう。アムハムラは食料自給はそこまで充実してはいないが、その分広大な輸送路を持っていて、仕事でお金を稼げば食うには困らない。いや、それ以上に今のあの国には必要な職種があり、我々はそれをある程度補えるのだ。


 まさしく妙案。まるであらかじめ決められていたかのような、見事なポジショニングだ。


 町長が答えあぐねていた。無理もない。このような重大な決定、彼1人に独断させるのは荷が重いだろう。及ばずながら小生も町長のお役に立とう。小生とてこの町に、この町の住人に愛着があるのだ。出来うる事ならば、一緒が良いのだ。


 「まおう、町を作るといったが、それはアムハムラ王国に邪魔されずに完遂する見通しがあるのか?


 さらに、移住後直近の生活については補償してくれるのであろうな?


 もう1つ、アムハムラは大変気候の厳しい土地と聞いた。この町の住人がその環境に対応できると、君は思っているのかね?」


 小生は聞いた。まっすぐに魔王を見つめて、小生は聞いた。




 「町長、この子はお孫さん?」




 しかし、奴はまるで子供を相手にするように小生を侮辱したのである。




 小生はフォルネウス。フォルネゥス・ナットバーグ。今年で9つを数えるだけ生きてきた、立派な大人である!!





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