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 諸王会議

 「これはこれは、ガナッシュ大公」


 「ああ、アムハムラ王。お久しぶりです。ご壮健そうで何より」


 「いやいや。そちらはどうやら、『ご壮健』とはいかないようですな?」


 アムハムラ王は、私の首に巻かれた包帯を見てそう言った。


 我がガナッシュ公国が魔王に敗れて1週間。異例の早さで緊急諸王会議が開催される運びとなった。それは、とりもなおさずアムハムラ王国の王国空運があったればこそのスムーズな招集だった。


 真大陸各国の首脳陣が集まり、意見を交わす場。勿論、議題は我が国とそれを襲った魔王についてである。


 「此度は………、まぁ、何と言って良いやら………」


 アムハムラ王としては、一方的に我が国に同情姿勢は取らないだろうとは思っていたが、その考えはどうやら正しかったらしい。まぁ、全て自らが招いた事だと言われれば、反駁の余地は微塵もないことは自覚している。


 「アムハムラ王、実は会議の後にいくつかお願いしたい事がございます。我が国存亡の危機がかかっておる事案ですが、アムハムラ王国にとっても悪いお話しではないかと………」


 今後のガナッシュ公国の展望として、アムハムラ王国は無くてはならない存在だ。裏を返せば、もしここでアムハムラ王にそっぽを向かれたら我が国は終わるという事でもある。だからこそ、なんとしても成功させなければ。


 会議室には、巨大な円卓とそこに座るそうそうたる面々が集っていた。無論、この真大陸に無数に存在する各国の首脳陣を許容する円卓なのだから、その大きさもただ『巨大な』などというありきたりな言葉で表現する規模ではない。なにせ、対面にいる者の顔すら判然としない大きさなのだから。

 言うなれば、上級の魔物である『フンババ』と災害級の魔物である『バハムート』をどちらも巨大だと述べるようなものだ。確かにどちらも大きいのだが、フンババはバハムートが口を開けば一呑みにされる程度の大きさでしかないのだから。巨大だと言うならば、我が国にある議会用の円卓だって十分に巨大という言葉に足りるが、この円卓とでは比べ物にもならん。


 なぜ会議の真っ最中である今現在、その渦中であるはずの儂がこんな、円卓の大きさの比較とそれを表す言葉についてつらつらとのべつまくなしに考えているのかといえば、既にこの会議において儂の役目などは残っていないのである。


 魔王を挑発し、魔王の進攻を受け、魔王に敗北した。


 それさえ儂の口で言えば、この会議において儂の役目は十全に果たしたと言って過言ではないのだ。十分に役目を全うし、十二分にやる事はやったと言って、後はただ座っていれば良いのである。

 ―――あくまで今までの議会、今までの諸王にとっては。


 ガナッシュ大公国。1主権国家でありながら、その実はほぼアドルヴェルド聖教国の属国に近い我が国。とはいえ、これはあくまで公然の秘密であり、ガナッシュ王国の国王がアヴィ教への非協力姿勢を示した事により、半ば先導するような形でクーデターを容認し、その国家元首をクーデターの首謀者であった公爵に据え、しかし王権は認めず、中央集権を嫌い貴族の影響力を強める議会政治の国家として作られたのがガナッシュ大公国である。


 無論、このようなアドルヴェルド聖教国の所業に苦言を呈する国もあっが、当のガナッシュ側がその干渉を嫌い、アドルヴェルドにべったりと癒着していたのだから改善の芽はなかったのだ。今までは。


 皮肉なものだと自分でも思う。国敗れて山河ありというが、一度魔王に敗れてみれば今まですがり付いていたアドルヴェルド聖教国とは関係なく、ガナッシュ公国という1つの国が見えてくるような気がする。それがひどい有り様であることが。


 いささか遅すぎたきらいがあるが、今こそ儂は大公の名に恥じぬ行いをすべきだろう。敗北した我が国がこれからもガナッシュ公国としてあるため、魔王に要求された条件も完遂せねばならん。


 しかし、敗戦国に突きつける条件としても、些か以上に無茶で、理不尽で、しかし非常識なまでに甘い条件よな。







 「甘い!甘いですぞ!事は一刻を争うのです!早急に魔大陸へと派兵すべきです!!」


 「左様。問題は大陸中央部の国家が魔王の攻撃を受けた、この事実は驚異です。我が国も、そしてあなた方の国もまた、既に安寧ではないのです」


 「しかし、今回の出来事はガナッシュが、ひいては教会が無闇に魔王を挑発した事に起因した戦でしょう?コションと違って第13魔王は理性的な様子。無闇に刺激しなければこの様なことには―――」


 「それが甘いのですぞ!!もし第13魔王がこれを機に真大陸への敵対姿勢を強めれば―――」


 「そのつもりであれば、余は今日ガナッシュ大公に会えなんだ筈じゃがのう」


 「然り。ガナッシュ大公が生きてこの場にいる。それこそが第13魔王が理性的であり、闇雲に戦に出ぬとの我々への言伝てだと思うが?」


 「何にせよ、今の段階では魔大陸侵攻など不可能だ。実行するにしても、どこの国が総指揮をとるのだ?アドルヴェルド聖教国では不可能だと思うし、リュシュカ・バルドラは侵攻には否定的な立場、アムハムラ王国は正式に反対を表明している。他の国ではまともな指揮も出来ず、以前の二の舞は決しているだろう」


 「一番の問題は、魔王が積極的に真大陸に介入してきた事だよなぁ。今までも奴隷狩り被害者の奪回やら、奴隷解放宣言やらはやってたみたいだけどよぉ、基本は大人しかったのに今回の事で魔王がこれからどう動くかだ」


 「陛下、頼むからこういう席ではちゃんと喋ってくれ」


 「しかし!これでは我々は魔王の顔色を伺って生きているようではないか!?魔王に阿るようではないか!?

 これからずっと魔王のご機嫌をうかがいながら、魔王の気に入るように執政を行うのか!?」


 「………朕が気になったのは魔王の戦力よな。

 天を覆うほどの巨大な円盤と、陸に降りるための小型の飛行用魔道具。こんな物が使われれば、ガナッシュでなくてもすぐ落ちよう。無論、我が国もの。

 ………そういえば、最近似たような話を聞いたのじゃが?空を飛ぶ馬車、彼の国だけは安泰とは言えなくとも対抗はできような」


 「それじゃ。どうだろうアムハムラ王?貴国の魔法研究の集大成とはいえ、事は各国の安全保障に関わるのじゃ、どうか例の飛行馬車の術式、各国に譲らんか?」


 「それでアムハムラ王国には今までのような苦境を強いるのですか?あなた方がアムハムラ王国を侵略しない保証は?得た技術で他国を侵略しない保証はなんです?

 ただ利益が欲しいならば、この場ではなくアムハムラ王と個人的に話し合われてください。この場では魔王について、これからの真大陸全体のあり方を話し合うための場なのですから」


 「雪の女王はおっかないのう」


 「しかし!流石にことここにいたってアムハムラ王国が航空戦力を独占するのは―――」


 「そう思うならば自分で作ればよかろう。誰も止めはせん」


 「ただ他力本願で努力もせず、自分は持ってなくて他者が持っているから不公平だ、などと言っても滑稽ですよ?かく言う我が国も研究は上手くいっていませんねぇ。全く、いったいどんな魔法なのやら」


 「ふふん。北方三国は完全にアムハムラの犬に成り下がったか」


 「そういう言い方は感心せんのぉ。何より、この場は公式な議場で議事録も残る場。若造には荷が重いだろうが、だからと言って坊主が他家の樹から果実をくすねるのとわけが違い、拳骨一発で許される等と思うでないぞ?」


 何の事はない、結局は派閥同士の益体もない水掛け論。我が国の議場でもよく見る光景だ。ただ、話し合っているのが全員各国の首脳であり、話し合いの規模が大きくなっただけである。


 ただ、この場で激論を交わしているのはあくまで中小国家の者達であり、零細国家と大国はあまり話し合いに口を出そうとはしない。まぁ、零細国家はおして知るべし、というか身に染みて知っているのだが、大国は泰然自若の体を崩さない。


 リュシュカ・バルドラ天帝天下。

 アヴィ教アドルヴェルド教皇聖下。

 アムハムラ国王陛下。


 この3名が今現在の真大陸の取り纏め役であるのは今や共通認識と言ってよい。


 さて、では取り纏め役でも、ましてや大国の元首でもなく、さらには王でもない儂が口を挟まねばなるまい。




 何の因果でこんな事になったのか、しばらくは考えたくないな。





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