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 音楽と共に現れる悪魔っ!?

 『美しき青きドナウ』をリピート再生して、魔族がどんちゃん騒ぎしている中、1人通夜の席のような顔のシュタールに僕は歩み寄る。


 「よぉ、女装はやめたんだな………」


 「もう意味がないからな。つか、即バレするとは思わなかったよ」


 「そのまんま、お前の顔だっただろ」


 「いや、睫毛がかなり長かったんだけどな………」


 「………。前みたいに他人の顔にすれば良かったじゃねぇか」


 「いや、あれはただコピーしただけだから喋っても口が動かないし、表情も変わんないんだよ。緊急時以外じゃ変装には使えない」


 だから結構作り込んだんだけどな………。結構ショックだ………。


 「皆ノリノリだな」


 シュタールが静かに見つめる先には、適当なリズムで踊るレイラと、きちんと1、2、3のリズムでステップするアルトリアさん。それを見て静かに体を揺らすアニーさんとミレがいる。周りには魔族もいる。パイモンもオーガの姿のままいるし、フルフルもミュルも人間離れした動きで踊ってる。その中で笑顔を見せる、真大陸の住人である彼女達。


 「………なぁ………」


 ポツリと響くシュタールの声。


 「………なんだ?」


 「………。お前が目指すものってさ、コレなのか?」


 魔族と人間が笑い合う世界。


 「違うよ」


 そんなものができたら、確かに素晴らしい。だけど、それは僕のようなちっぽけな存在が出来るようなことではない。例え、僕の目指す未来の形がそんなものになるとしても、それは僕が成した事ではない。


 「僕はただ、僕のため、僕のワガママのために動いているんだ。他の誰のためでもないし、他の誰かのため頑張るなんて高尚な思惑なんて無いよ。

 まぁ、誰かのため正義を為す、なんて奴はどんな悪逆でもその免罪符で正当化するんだろ。僕はそんな偽善者になるつもりはない」


 世界ってのは、多くの人が勝手に作るもんだ。そこに介在できたところで、操るなんて不可能だ。だったら、僕は悪者でいいから自分の好き嫌いで生きる。それも、世界の1欠片には違いがないのだから。


 「偽悪者に偽善者を責める権利なんてねーと思うがな」


 「なんだ、珍しく難しい言葉を知ってるじゃないか」


 「うっせ」


 そっぽを向くシュタールと、喧騒を見つめる僕。やっぱり僕等は相容れない。魔王と勇者である以前に、その思いは決定的に違うんだよ。

 ただ、だからといって反目する必要もなければ、無闇に反対の道を歩く必要もない。違うからといって、一緒にいれないわけなど無いんだ。




 「キアスっ!!」




 突然響くシュタールの声。そこには、切羽詰まった表情の勇者がいた。


 「頼む!!あの辺りに降りてくれねーか?すげーやな予感がするんだ」

 「やな予感だと?」


 そんなあやふやな理由で降りるなんて、僕がわざわざ高空を飛んでる意味がわかんねーのか、と怒鳴り付けたくなったが、シュタールの表情は真剣そのもの。とても茶化すような雰囲気ではない。


 「アンドレ、頼む」


 『了解しました。ですが、私も危険を感じます。マスター、手に負えない場合は即座に撤退してください』


 この天空都市は、アンドレによって動かされている。適当な奴に任せるわけにもいかない大役で、緊急時にも手透きなのはこいつだけだったのだ。


 「アンドレが素直に僕の心配するとか、ちょっと怖いな」


 『冗談ではなく、必ず守ってください!』


 あらら。本当にらしくないな。それ程危険かもってことか。


 白い雲を切り裂き、天空都市は降下する。そして、僕等の目に飛び込んできた光景は―――


 「バ、バハムート………」


 巨大な象のような生き物。いや、巨大なんて言葉じゃ到底足りない。何せ奴は今、


 町を飲み込もうとしているのだ。


 比喩ではなく、大きな口を開けて、1つの町を食べようとしている。


 『危険です!上級以上に危険な魔物です!!即時撤退してください!!』


 本当にらしくない、切羽詰まった声のアンドレ。そうこうしている内に、バハムートの口は町へと迫る。


 このままでは間に合わないな。しかし、あんな巨体にダメージを負わせるような兵装は無いし、兵士にだって無理だろう。


 そうでなくても、バハムートは上級以上の言わば災害級の魔物だ。そのあまりにも無慈悲な暴力と食欲で、手当たり次第に全てを食らう魔物。僕も本でしか見たことはないが、その食欲は尽きる事無く、腹が破裂し死ぬまで食い続けるのだとか。裏を返せば、放っておけば大きな爪痕を残しつつも、勝手に死ぬ魔物。故に災害である。


 「『フォス・アフティダ』」


 「うぉっ!?」


 いきなり隣から大出力のレーザーがバハムートに伸びた。

 シュタールが使ったのは光魔法の最上級魔法。バハムートの巨体に降り注ぎ、流石の魔物も怯んだようだ。

いや、本来であればあんな威力の魔法を食らって平気な生き物などいない事を考えれば、ちょっと皮膚が焼け、肉が抉れた程度では全然効いていないと言っても過言ではない。


 「アニー!!手伝ってくれ!!」


 「フルフル、お前も頼む。他にも魔法の使える奴はあれに撃ち込め!!」


 とりあえず魔法が使える奴だけ動員して注意をひこう。ただ、倒すとなるとどうしようか………?流石にパイモンには荷が重いだろうし、マルコやミュルだってそうだ。


 「キアス、手加減しないで撃っていいの?」


 「ああ、ぶちかませ!!」


 フルフルは、こんな場合でもマイペースにおっとり小首をかしげて聞いてきた。


 「わかったなの!象さん、消えちゃえなの!」


 両手を前につきだすフルフル。尋常じゃない魔力がそこに漂う。




 「『リムニ・プリミラ』」



 ちょっ………っ。


 フルフルの両手から放たれたのは、ある意味ただの水だ。だが、それは怒濤となってバハムートに押し寄せる洪水だ。フルフルが1人で起こした洪水である。

 ちょっとフルフルを侮ってたかも………。こんなのをさっきまでのガナッシュ戦で使ってたら、マジで町が全滅してたな。


 「クハハハ!!丁度良かったぞ、魔物めっ!!さっきは試せなかったミスリルの体の性能、確認させてもらおう!!」


 あ、そういえばクルーンもいたんだ。こいつもどちらかと言えば魔法使い寄りだからな。


 「『プスィフロス・ティフォナス』。ハハハハ。何だこの体!?魔法の増幅の度合いが尋常ではないな!」


 いや、楽しそうな所悪いんだけど、こっちはそれどころじゃない。


 フルフルの洪水にクルーンの魔法が合わさって、辺りはノアの箱船が必要なほどの状況だ。雷鳴が轟き、暴風が吹き荒れ、水が逆巻き、巨獣を飲み込む大嵐が誕生していた。


 「………流石魔王だな。私とて負けてはいられんか。『アネモス・トロヴィロス』」


 「魔法はあんまり得意じゃねーんだよな。『フォス・アギオ・カソドス』」


 いや、どうだろう………?確かにフルフルとクルーンの起こした大災害よりはましだが、強烈な威力の竜巻の体当たりと、太陽が落ちてきたのかと思う程の巨大な光の柱が空から降り注ぐ。


 もういっそ、バハムートが憐れに思えるな。


 『マスター、先程の私の発言は忘れてください。今の我々は、三大魔王でも出てこない限り安泰です。常識はずれです』


 「僕もそう思う………」

 災害級の魔物は、魔王と勇者と精霊と魔法使いの引き起こした災害に、なす術もなく沈黙した。その亡骸に、それまでの面影は一切無い。ただのグズグズの肉塊である。


 『しかし、町の方は無事とはいきませんでしたね』


 アンドレの言う通り、町は所々崩壊し、バハムートに一部呑み込まれてしまった後のようだ。


 「ふん、全く。次から次へと不愉快な事だ」


 ガナッシュの事だって、完全に片付いたわけじゃないし、これから色々と後始末があるってのに。


 僕は振り返り、魔族達を見る。


 「野郎共、仕事の追加だ!!この不愉快な光景を、僕の好みに作り替えろ!!」


 首を傾げる魔族。僕は告げる。ただただ、僕のワガママを。




 「不幸なんて目障りだ!!僕の視界に入れるな!!」


 そろそろ町の上空に近づく。空には空気を読まない『美しく青きドナウ』が流れ続けていた。





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