ガラスっ!?
「じゃあね、キアス君。また来るよ」
「キアス、また来る」
翌日の昼過ぎ、2人の魔王は帰っていった。
最初はどうなるかと思ったが、何事もなく………は、ないが肉体的には五体満足で初の魔王との遭遇を乗りきることができた。
精神的ダメージに関しては、これもう八つ裂きレベルじゃね?ってくらいズタボロだったが、美女3人との混浴で、それも全回復した。
しかし残った問題は山積している。
「アンドレ」
『はい。飛行対策は、いくつか検討しておきました。ただ、どれも上級の使い手に有効かどうかは疑問ですし、コストも大きく掛かります』
昨日は何だかんだとあって、あれからアンドレと話が出来なかったので、ようやく飛行対策に乗り出した。
「聞かせてくれ」
『はい。
私の考えた策は、大別すれば2つだけです。
まずは上空に飛行妨害用の、乱気流を生み出す策です。
しかし、やはり熟達した魔法の使い手や、魔王のような輩には効果が薄いと思われます。
全てのダンジョン上空に発生させなければ意味がないので、コストも非常に高くなります。
次に、ダンジョンそのものを、屋根で覆ってしまう策です。これは、確実に今回のようなショートカットを防げます。
しかしこれも、様々な問題を内包します。
まず、今現在オーク達が取り組んでいる、畑作の成果は絶望的です。
さらに、大陸分断が目的であるにも関わらず、天井伝いに両大陸の行き来が可能になりかねません。阻止のためには、即死性のトラップを多数配置するか、そもそも到達できないような高さの壁が必要となります。どちらも、ダンジョン経営そのものには必要の無い設備の割りに、コストがかかりすぎます』
成る程。
確かに、アンドレの策は対抗手段として成り立つだろう。
あくまで、相手が常識の範囲内であれば。
僕はこれから、魔王なんて常識の埒外達と、相対しなければならないんだ。
やはりそれでは不十分だろう。
よし。
とりあえず、飛行対策には自重とか、常識とかは無視しよう。
なにせ、本当に僕の命がかかっているのだから。
僕は無言で、スマホを操作し、目的の物を造るシュミュレーションしてみる。
うっ………。やっぱり結構コストがかかるな。
だが、これならアンドレの案よりは実用的だし、コストも割安だろう。
「どう思う、アンドレ?」
『相変わらず、ダンジョン製作には、非凡な発想をしますね、マスターは。
しかし、実に素晴らしい案だと思います。
コストの面に関しても、維持だけであればマスターの魔力量でも大丈夫でしょう。
ただ、他のダンジョンの維持も考えると、やはり定期的にダンジョンに侵入する者がいなければ、マスターの負担は計り知れないものになりますよ?』
「ああ。それについても考えていることがあるよ。
ただ、周囲の地域の支配者の協力も必要だ。いずれ、何らかのコンタクトをとりたいね」
『協力、ですか?』
「ああ。まぁ、それはまだ少し先の話だ。今は目の前の事に集中しなくちゃな」
『はい。でなければマスターは、あっさりと、さながら虫けらのように叩き潰されてしまいますからね』
「………相変わらず、歯に衣着せないやつだ」
僕は嘆息しつつ、スマホにセーブの確認を打ち込む。
突如上空に、巨大な影が生まれた。
さながら、黒い大蛇のようにのたうつ影。
真大陸と、魔大陸を結ぶように伸びたその蛇が、さながら衛星の軌跡を描くように集まる先は、光の坩堝。
透明なガラスで造り上げられた、伽藍。所々に金銀をあしらいつつも、決して下品にならない、ガラス回廊。鋭く天に突き出した透明な塔と、城壁。光を透過させ、自らも煌めく宮殿。
透き通るような城塞が、空に浮いていた。
天空迷宮。
空に浮かぶダンジョンが、この時初めてこの世に顕現した。