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 哄笑

 「なーんか、やっぱ皆凄いよねぇ」


 キアス様は、勇者と聖騎士の争いを見つつ、そう呟きました。


 「ホラ、シュタールと変態勇者(爆)の戦い、全然目で追えねーよ。漫画みてー。

 うわっ、アニーさん無茶するなぁ。レイラもカッコいいし、ミレも動き速いな。フフフ、アルトリアさんは九節鞭の練習してる」


 地で争う人間達を見下ろし、笑みを浮かべるキアス様は、実に魔王たる嗜虐性に溢れています。


 なんとご立派な姿でしょうか。


 「キアス様、そのようなお顔をなさるのはいかがなものかと………」


 私の思考と正反対の事を言うのは、我らの乗る乗り物の操縦を任されたトリシャです。


 「相争う勇者、聖騎士とアニーさん達勇者一行の超絶異能バトル。これ程のエンターテインメントは他にないって」


 「争い合う人間達を見下ろす。実に魔王らしいお姿です」


 「しかし、あまり趣味がいいとは………」


 やはり生粋の魔族である私と、人間であるトリシャの感覚とは根本的に違うのでしょう。


 「さて、まだ時間かかるのかな………」


 キアス様はイヤリングを取り出し、誰かと連絡を取ります。この状況であれば相手は限られるでしょう。


 「あ゛?まだ準備できてない?書類?明日に回せ!!明日も仕事がある?知ってるよ!テメェ………、もし遅刻したら領地増やすぞ!?忙殺すんぞ!?………長い!!あと10分!!1秒も遅れんなよ!!」


 誰に連絡したかは丸分かりでした。

 キアス様があのような態度を取るのは、とある2人の魔王様だけ。この場合は1人に限られます。

 余談ですが、キアス様にあのように胸襟を開いて接していただけるというのは、些か羨ましくも思います。


 「チッ、相変わらず使えねー。仕事が遅いんだもんよー。あーあ、早くレライエ帰ってこねーかなー」


 ………やっぱりいいです。キアス様にこんな事を言われたら生きてゆけません………。涙が出そうです。


 「お、シュタールと変態勇者(爆)が止まった。って、どっちも息上がってんじゃねぇか?おいおい、『この一撃に全力を尽くす』って場面になりそうじゃねぇか?

 チッ、僕自らが時間稼ぎしないといけないのか。アイツ、絶対残業させてやる」


 嗚呼、キアス様………。嗜虐に満ちたご立派な笑顔です。


 「トリシャ、運転お願いね?」


 「あ、わ、私もっ………!」


 「運転手いなかったから墜ちちゃうから。

 あ、もしもし?ロロイ?バルムとアルル連れてこっち来て。仕事は全部アイツにおっ被せろ」


 「キ、キアス様!?だったら運転手も―――」


 「はい、いきなりフンガムンガ!!」







 「ハハハハ!!」


 キアス様の哄笑が響き渡り、勇者も何やら混乱している様子。キアス様の企み通り、時間が無駄に過ぎて行きます。


 「魔王!!貴様にとってこの地は死地である!!大人しく投降しろ!!」


 「お前、本当にキアスなのか?いや、でも、その魔族達は………」


 「つーか、テメェ!折角のコピシュで炎を防いだりすんなよ!!劣化するだろうが!!」


 全く纏まりがありません………。


 ロロイ殿達も、突然の事にどうして良いかわからず視線をさ迷わせています。突然呼び出されてこの状況では、確かにそれも致し方ないかと。


 「アムドゥスキアス!!この国は今や、貴様を嵌めるための罠へとその姿を変える!!

 聞いて驚け!!この町には既に教会とガナッシュの兵隊が伏せてあるのだ!!」


 「あー、うん。そう。


 おいコラ、ちょっとそのコピシュ貸してみろ。劣化の度合いを見っから」


 「お、おう………」


 徹底して緋色の髪を持つ勇者、キアス様の呼ぶところの変態勇者を無視するキアス様。

 そのすげない態度に、業を煮やしたのか、変態勇者は勝手に演説を始めます。


 「フン!!

 事態の推移について行けませんか?それも仕方の無い事。私が合図を送れば、直ぐ様ここに1万の兵が集まり、周囲の町に配した5万の兵も数時間以内に集まります!!

 そして―――」


 変態勇者は、キアス様が一瞥もくれないにも関わらず、大仰に腕を振り上げ魔力を集中させ始めました。我々はキアス様を守るため、いつでも動けるよう気を巡らせますが、変態勇者はそのまま空に燃える火球を打ち出しました。


 「うわっ!!」


 あ、空にいるトリシャに、危うく火球が当たるところでした。


 「これでもう、それを止める事はできません。さぁ、観念して殺されるか、無様に逃げ回って殺されるか、好きな方を選びなさい」


 い、いえ………、問題はそんな事ではないです、変態勇者!!あなた、何をしてくれてんですかっ!?




 「テメェ………、僕の仲間に当たったら、どう責任を取るつもりだコラァ!?」




 あぁ………。仲間の事となると怒りに我を忘れてしまうのが、キアス様の唯一の欠点です。そんな熱いお姿も素敵ですが、現状トリシャには火傷1つもありませんよ。

 こういう時は自らの危険も省みないので、私としては心配が尽きません。


 「大体なんだ!?こんなクソ暑い国で何してんのかと思えば、結局いつものアヴィ教か!?


 待ち伏せ?1万の兵?


 バレバレなんだよ!!本当に隠したいなら、食料や水を外注してんな!!担いででも自前で持ってこいボケ!!

 結局注文受けた大手商会にはお前らがしたい事はバレバレで、貴族の中にもこれ以上商人が去られる危機感から、ネタバレする奴まで出る始末!!

 なんだこのグダグダ!?本当に隠し通したいなら自分の国でやれ!!」


 ここ数日、キアス様は多くの商会を渡り歩き、この変態勇者の企みを看破していました。私も同行していたのですが、キアス様がどうやってそれを掴んだのかは不明で、何やら悪い顔をしながら商人と話していた記憶しかありません。

 流石です。


 「し、しかし!!見破っていたところで、貴様にこの軍勢を相手に戦える兵はいまい!!

 生まれて間もない魔王、遠征の不可能な南の国、孤立無援の真大陸!この悪条件の中、貴様に打てる手だてなど無いのだ!!


 そら!!もう兵が集まってきたぞ!!」


 見れば、町の至る所から変態勇者と同じ格好の兵士達が、わらわらと集まってきています。


 「時間稼ぎはそろそろいいか………」


 彼らには、キアス様の魔王らしい笑顔は見えても、その不穏な言葉は届きません。


 それから、キアス様は我々『全員』に号令を出します。




 「空を埋めよ!!!!」




 国盗りの号令を。





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