光の勇者(笑)と変態勇者(爆)
「バレた!!」
「………逃げる………」
それはそうだろう。我々が何日ここアクレアボアンに留まっていたと思っているんだ!?
「いたぞ!!裏切り者の勇者だっ!!」
「勇者殿の言う通り、潜入していたぞ!!」
「魔王の手先だ!!捕らえろ!!」
言いたい放題言ってくれるものだ。
彼らとて、数ヵ月前は頼みもしないのに我々に媚びへつらっていただろうに。いやはや、変われば変わるものだ。
「シュタール!転移で逃げるぞ!?」
「待て!!なんか今この国から出ちゃいけねぇ気がする!!」
「またかっ!?いい加減にしろっ!!また牢屋に入りたいのかっ!?」
「いざとなったらシュタールさんだけ置いて逃げましょう!!」
いい考えだ。このバカも少しは頭を冷やす事だろう。
キアス殿が絶対助けてしまうがな!!
「どこまで逃げるのだっ!?このままではいずれ追い付かれるぞっ!?」
「いっそシュタールさんだけ差し出して逃げましょう!!」
「おいアルトリア!!お前キアスに会って更正したんじゃなかったのかっ!?最近俺に対して当たりが強くないっ!?」
「私を虐げていいのはキアス様だけです!!あなたごときが私を蔑むなんて不遜です!!」
うわぁ………。
んんっ!どっちにしろ手遅れだと思ったが、私は口に出さず先を急ぐ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
しかしこの逃避行、いつまで続くんだ?私にはそろそろ辛いぞ?
「アニー!アタシが背負うか!?」
レイラに背負われるというのは、背格好的に気恥ずかしいのだが背に腹は代えられないか。
「見つけましたよ、魔王の手先共!!」
「うわぁ………」
「………げっ」
「うげ………っ」
「あらぁ………」
「………………」
私、シュタール、レイラ、アルトリア、ミレがそれぞれ、嫌な虫でも見つけたような苦い顔を浮かべる。私の場合、トイレによくいるババモル虫を思い浮かべた。足の長いアレだ………。
それもその筈、変態勇者こと火の勇者、エヘクトルが目の前に現れたのだから。
「まさか魔王の尖兵としてあなた達が来るとは。やはりあなた達は、人類を裏切ってしまったのですね!?」
「ねぇ、何言ってんのアイツ?」
「わからん、錯乱しているのか?」
「それは元からだと思いますけどねぇ」
「なぁ、とりあえずアタシはあの野郎ぶっ殺したいんだが?」
「………まずはジャマダハル………、………次にハラディ………、………次にカランビット………。………なますに刻んで、泣くまで殺す………」
泣く前に死んでしまうと思うが………。
「私を無視するな、裏切り者共!!」
確かに私は魔王の仲間になったが、裏切り者と言われるような筋合いはないだろう。
私を奴隷にしようとした勇者と、私を助け、紳士的に接してきた魔王。どちらを信じるかと聞かれて前者を選ぶのは、勇者の部分をキアス殿に置き換えた場合のアルトリアだけだろう。
人類を裏切ったつもりもない。
「神に愛された勇者として生を受けていながら、悪の権化たる魔王に与するとは、恥を知りなさいシュタール!!」
「いや、まぁ、恥を知らないってのは、確かに罪だよな。お前を見てるとひしひしと感じるよ………」
同感だ。コイツは私たちにした事も忘れて、何を偉そうに高説を垂れているのだろうか。
レイラでなくても悪態をつきたくなる。
「何を言おうと貴様らは、人類を裏切り魔王についた!これは揺るがぬ事実です!!今この場であなた達を討ち、その過ちを正して差し上げます!!」
いい気になって剣を抜くエヘクトルに、シュタールもにやけ面で同様に剣を抜く。あれはコピシュとマン・ゴーシュの組み合わせか。
「こいよ、変態勇者(爆)。お前のその妄執、俺が正してやるよ」
対峙する2人の勇者。
火の勇者は剣と魔法に長け、魔剣技の第一人者だ。多彩な魔力を宿した剣技を駆使し、事炎を用いた魔剣技は斬れぬものなどないと聞く。
シュタールも魔剣技は使えるが、恐らくエヘクトルほど熟達してはいまい。だが、その分純粋な剣技のみならばシュタールの方が圧倒的に巧者だ。
ただ、シュタールの武器は新調したばかりのコピシュ。まだ手に馴染む程使い込んでいるわけもない。いかにこれを補うか、それがこの勝負の焦点だ。
「―――1つ、聞いてもいいですか?」
対峙し、しばし沈黙を保った後、エヘクトルが真剣な表情のまま口を開く。
「変態勇者(爆)ってなんですか?」
………………。
さぁ?
「さぁ?お前に会った後、キアスがお前の事をそう呼んでた」
「訂正を要求します!!」
「本人に言えよ。俺は知らん」
「まずはあなたがその呼称をやめなさい!!」
「わかったわかった変態(爆)」
「訂正すべき部分以外が抜けましたよ!?というか(爆)とはどういう意味ですかっ!?」
「うるせぇな。注文が多いんだよ変態勇者(爆)。ったく、功名心ばっか高い奴ってのは、これだから………」
「そういう問題ではないでしょう!?」
あの………、緊張感とか台無しなのだが………?