本当に最強の存在っ!?
まほう 0
もっと注意していればすぐ気付いたはずだ。
ゲームでも、どれだけ強い魔法を使えるようになったって、どれだけ強い装備を手に入れたって、結局はキャラクターのステータスが低ければどうしようもないのだ。
最高の装備、最高の仲間、最高の状況を揃えたところで、結局それを揃えることを前提としたレベリングは必須なわけで、何が言いたいのかと言えば、
僕は、史上最弱の魔王らしい。
夕食の席に着く僕、パイモン、タイル、エレファンは、皆一様に無言だった。
エレファンは元々無口だし、パイモンとタイルは空気を読んで口をつぐんでいる。僕に関しては言わずもがな。
あれから何度試してみても、僕には魔法のまの字も発動させることができなかった。
しかも、もし僕に魔法が使えないとなれば、僕に出来る戦闘手段など、ショテルで相手を斬りつけるくらいしかない。
力も速さも一桁しかない僕がである。
なんかもう、泣くを通り越して笑えてきた。
どないせぇっちゅうんじゃい!?
僕もうここにダンジョン造っちゃったんだよっ!?
世界中にケンカ売っちゃった後なんだよっ!?
チンピラよろしく絡んだ相手が、北斗神拳の伝承者だったくらいの死亡フラグなんだよっ!?
ははっ!
笑っちまうだろ?
味も分からなかった夕食を終え、僕らは風呂に入ることにした。
風呂に入れば、この鬱々とした気分も少しは晴れるだろう………。
まぁ、気休めだけどね………。
そんな、下らないことを考えていた時が、僕にもありましたっ!
でも僕は元気です!元気すぎて風呂から出れません!!
なぜかって?
決まってるだろう!!
僕は今、美女に囲まれて風呂に入ってるんだぞ?
もう、それ以上何も要らないだろっ!!
パイモンの、いつものスリムなボディー。腰から足にかけての脚線美とも言うべき曲線。ぷりぷりのヒップ。
エレファンの、この世の美の粋を集めたかのような、完璧なプロポーション。銀の長髪に紫の肌の、神秘的なコラボレーション!胸、腰、くびれ、足。全てが完璧だ!!
そして嬉しい誤算なタイルは、体つきこそ幼いものの、慣れ親しんだ人間の肌色に、薄くも発展途上な膨らみと、神秘的な漆黒の翼。ボーイッシュなくせっ毛も、それ等と合間って実に可愛らしい。
眼福眼福。
え?
あー、そういうのいいから。もう、どうでもいい。
最弱とか最強とか。
馬鹿馬鹿しい。
異世界だろうと、地球だろうと、
混浴は最強!!
もうこれでいいじゃん。
「あははは、なんだか元気になったねアムドゥスキアス君」
美少年改め、美少女のタイルがにこやかに話しかけてきた。
うぅむ。やはりなかなか………。
「いやぁー、やっぱ困ったときは風呂だよね!悩みとか、どーでもよくなっちゃったよ!!」
「ふふふ。確かに、このお風呂は最高だね。あの『しゃんぷー』と『りんす』は本当に凄いよ。ただでさえ綺麗だったエレファンの髪が、あんなに綺麗で艶々に………」
タイルの視線は、エレファンを捉え、じっと凝視したまま離さない。その視線には、ちょっとした羨望の色がうかがえた。
「なに言ってんだ、お前のその金髪のくせっ毛だって可愛らしいぞ。風呂からあがったら確認してみな、ツヤツヤでサラサラで、極上の絹だって裸足で逃げ出すこと請け合いだぞ?」
「そ、そんなに褒めても何も出ないよっ!ボ、ボクはこう見えて、キミよりずっとお姉さんなんだからねっ!そんなお世辞で、ボクをどうこうしようなんて、1000年早いよっ!!」
へー、その割りにはウブな反応な事で。
「で、ですから舐めてはダメです、エレファン様!」
「むぅ。パイモン、意地悪。いい匂い、甘い。これ、きっと甘い」
パイモンとエレファンも楽しそうだ〜。
「ふーん」
パイモンとエレファンを眺めていた僕を、タイルが興味深そうにまじまじと見る。
「なんだよ?」
「いや、改めて興味深いね、キミって」
タイルの台詞の意味が分からず、僕は首をかしげる。
「いや、普通『史上最弱の魔王』なんて言われたら、怒るか、嘆くか、悲しむか。
まぁ、告げたボク達をいい目では見ないだろうね。
でもキミは、ボク達を夕食に誘い、あまつさえこんな無防備にお風呂にまで一緒に入る始末だ。
もし、ボク達がキミを殺しに来たんだとしたら、一体どうするんだい?」
「んなもん、鎧着てようが全裸だろうが、お前等相手じゃ変わらんだろ?殺すにしたって、今までいくらでもチャンスはあったわけだし、わざわざ今まで待つ意味もない」
「それにしたってさ。
どんな豪胆な者だって、喉元に剣を突き立てられたまま、リラックスなんてできないよ。
出来るだけ警戒して、出来るだけ近づかないようにするものさ」
ま、それもわかるけどね。
ただ、それじゃあ疲れるだけだ。
こうやって一緒に風呂に入って、裸の付き合いを経て仲良くなる。
うん。実に平和で、日本人らしいコミュニケーションだ。
「いいからお前も風呂に浸かってみろ、面倒な事とか、小難しいことなんて、全部どうでもよくなるぞ?」
「あははは、そうだね」
タイルはそう、朗らかに笑ったあと、僕の隣に腰を下す。
「………あぁ………。ほんとだ………」
実に気持ち良さそうな声が、隣から聞こえてきた。
「キアス!苦いっ!!アレ、苦いっ!!」
「だから言ったじゃないですか。さぁ、我々もお風呂に入りましょう」
あぁ、幸せだぁ………。




