着々と進む陰謀っ!?
「寒っ!!アムハムラってもう雪降ってんのな!」
街道を歩く僕の隣では、我が物顔のトリシャが防寒着姿で随伴していた。
空からはハラハラと雪が舞い降り、民家の屋根などには薄く積もって町全体がまるで粉砂糖をふられたお菓子のような景色になっていた。
「はい。アムハムラでは春の終わりと夏の間以外は常に降雪がありますね。ほとんどの町や村が沿岸にあるので、この時期はまだ積雪は多くないのですが、内陸部はほとんどが厚い雪に覆われます」
「一年の半分以上が雪に覆われた国か。まさに雪国だな」
「雪国というのはネージュ女王国の通称ですね。ネージュ女王も雪の女王等と呼ばれる事もあります」
なんか、日本人的感覚だと、氷の城と白っぽい冷たい感じのクールビューティーを思わせる二つ名だな。本人は結構普通のお姉さんだったぞ。ああ、おばさんって言ったら気分を害しちゃうようなお姉さんね。
とはいえ、この時期にもう雪が降るようでは、寒さの厳しさが尋常ではない証拠だ。ダンジョンでは、まだ米も収穫できていない時期だからな。
「とりあえず、アムハムラ王国の全ての町と村に僕の施設を置くことはできたな。ただ、当て込んでた人材の確保はここでは厳しいな………」
僕は町の様子を見る。この寒さだというのに、町には人が溢れ、活気に満ちていた。最近の好景気に、町全体が既にお祭りムードと言ってもいいくらいに浮き立っている。
「仕方がない。他所に期待しよう」
「あの、キアス様。ここのところ、方々の国を巡っては空き家を買い取っていますけど、一体何をなさるおつもりですか?」
トリシャが喋る度、白い息が舞い上がり、灰色の空へと上っていく。
「なんだ、親父さんから聞いていないのか?」
「父からは概要程度は聞き及んでいますが、キアス様の行動については何も………。あと、それに関連して私に爵位と領地を与える話も聞き及んでいますが、それとも関係があるのですか?」
「まぁ、あるっちゃあるね。最悪の場合を想定した備え、とでも言うのかな?」
要領を得ない僕の答えに、首を傾げるトリシャ。当然か。
鼻の頭が赤くなってるよ?
「僕が作っているのは、ただのゴミ集積所さ。各町の浮浪者やストリートチルドレンなんかを、給料を払って雇おうと思ったんだけど、アムハムラってそういうの全然いないのな」
「ああ、そういう事ですか。仕方がありませんよ、家が無い者は冬を越せませんから」
シビアだ。だがもっともだな。他の町から連れてくるしかないか。暖房手当てとかもつけないとな。あ、要らないや。ダンジョンに組み込むわけだし。
「とりあえず、南に行こう。寒いから」
「そうですね。キアス様のお体が心配です」
心配性だな。魔王は病気にならないんだぞ?
「ズヴェーリ帝国も結構寒いな」
「ここも北寄りの国家ですからね。雪はないみたいですけど」
ズヴェーリ帝国は南北に伸びる島国なので、その北端と南端ではかなり気候が違う。
僕らが今いるのは、北寄りのとある町だ。
町の長に会い、条件に見合った空き家があれば買い取り、無ければ1から建て直すという行為を、最近の僕は繰り返していた。
今のところは、この町に施設を置けば十分だろう。これから大々的に事業を拡大していく必要はあるだろうが、今はまだアムハムラ、ズヴェーリ、トルトカ、ガオシャン、ネージュの5ヵ国から始めることにする。緊急時だし、あまり贅沢は言ってられない。
町長と顔を合わせ、滞りなく空き家を買い受けることができた。広さも大きさも充分。商品を陳列する店舗スペースもあれば、広めの庭もある。この庭が重要なのだ。
庭に出た僕とトリシャは、これからのための準備にかかる。まず、アイテムで簡易転移陣を庭に作る。でないと、ここをダンジョンの一部として取り込めないのだ。とはいえ、大層な事をする必要はない。
ガチャガチャのカプセルのようなものを、地面にぶつけて割るだけで終わり。幾何学模様でもなんでもないただの円が光輝き、ソドムの外側にある空き地にこの場所を接続する。後は敷地内をダンジョンに組み込み、庭に大きなドーム状のゴミ集積所を作り、完成である。この時点でそこそこのコストは必要だが、それは充分に補える予定である。
「マスタ、子供たち、連れてきた!」
「おうち、無いって子だけ!」
「よし、よくやった」
マルコとミュルが連れてきたのは、この寒さの中でもただの布としか表現できないような薄着の子供たちである。やたらと汚れが目立ち、見るからに痩せ細っている。
「キアス様、準備が整いました!」
お、いいタイミングでパイモンも戻ってきたな。
「君たち、安住の地と食うに困らぬ職を―――」
「仕事をくれるって聞いたから来たんだ。それと飯」
くっ、僕の大演説を中断しやがって。ガキめ。
「その通りだ。ただ、その身なりではダメだ。全員これから風呂に入ってもらう!パイモン、後を頼む」
「了解しました!」
パイモンに任せた子供たちが向かうのは、ソドムにある公衆浴場。今日はそこを借りきっているのである。
「ああ、それと、風呂から上がったら全員これを着用すること。言わば制服だな」
僕が取り出したのは、真っ黒なツナギ。サイズは子供用S、M、L。まぁ、見た感じLサイズが必要な子供はほとんど居ないけどな。
僕とソドムの女性陣で頑張って量産した服だ。彼女達にも臨時ボーナスを支給したのは言うまでもない。
商売とは第一印象が9割!!
浮浪者が各家々からゴミを収集するのと、揃いの制服に身を包んだ者達が回るのではその印象は雲泥の差がある。便利なゴミ収集業者と、残飯漁りくらい違う。
「君達は、これからは僕の雇用する従業員だ。あまり目立つような問題行動をすれば解雇もありうるし、そうなれば元の生活に逆戻りだ」
集まった子供たちにそう宣言し、一回ビビらせると、次に笑って告げる。
「だが、真面目に働く者に商人は寛大だ!!
皆で住める家、温かい食事、好きに使える給料!!全て僕が提供してやろう!!
今日からここが君たちの家だ!!」