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 酒と女と男と酒と

 「なぁ、あんたらさ、最近なんか変わった情報とか聞いてねぇ?」


 俺は、取り敢えずまともそうな冒険者のパーティーに声をかけることにした。まぁ、全員が女という珍しさに目を引かれたというのも事実だけど。


 「ああ゛?何だよ、ただのひょろっちぃ兄ちゃんじゃねえか。あたし等に声をかけるくらいだから、あんた新顔かい?」


 4、5人いる女の内、一番大柄な褐色の肌の女が俺を睨む。他の女共も、なぜか俺を見てクスクスやってやがる。気分悪りぃ………。


 「まぁ、この土地に来たのは久しぶりだな」


 「出戻りかよ………。益々もって食指が動かん。見逃してやっからとっとと帰ってママのおっぱいでマスかいてクソして寝な」


 これだから冒険者の女は嫌なんだよな………。この姉ちゃんは特に口が悪いけど。他の女だって似たようなもんだ。なまじっか冒険者として身を立てた女ほど、男を小バカにして楽しむ奴が多い。

 そう考えると、女ばかりだけどウチのパーティーは恵まれてるな。


 「酒奢ってやっから、この国の最近の状態だけでも教えてくれって!」


 「しつこいねぇ!テメェみたいな小便臭いガキの酒なんざ飲めるかっての!!

 ビールごときで満足なんだろ?便所に行きゃあ桶に満載してあっから飲み干してきな!!」


 ブツッ。


 「あんだとコラァ!?よし、わかった!この店一番の火酒を樽で持ってきやがれ!飲み比べだ!」


 もういい!!

 このアホ女に泣き入れさせるまで、取り敢えずよそ事はほっとこう!!

 今は目の前のこの女だ。


 「ハッ!あたしに勝てたら、今晩お相手してあげるよ!?モヤシ君?」


 ごめんじゃボケ!!


 「俺に勝てたら、今晩は天国に連れてってやんぜ?」


 「ハッ!冗談」


 バーテンが樽で持ってきた酒。蓋をしたままでもむわっとした酒精が匂ってくる。


 「ちょっとアンタぁ、姐さんはここいらじゃ敵なしのウワバミだよ?よしといた方がいいってぇ」


 アホ女のパーティーの1人が、にやけ面で忠告してくる。ハッ。そのにやけ面、今に吠え面に変えてやんよ!!


 俺は手元にあったビールを飲み干し、酒樽の天辺を拳で叩き割る。


 「ハンデをくれてやんよ、お嬢ちゃん」


 女共が首を傾げるのも待たずに、俺はジョッキを酒樽に突っ込んだ。


 「なッ!?」


 ジョッキを取り出し、なみなみとそこに汲み取られた琥珀色の酒を、絶句する女に見せつけてから煽る。

 通過する酒精が、喉を焼け付かせる。


 「かーーーッ!!やっぱ酒っつったら、このくれぇ辛口でないとな!!」


 「じょおとおだよ。おいバーテン!!あたしにもジョッキ持ってきな!!」


 やれやれと首を振るバーテンが、渋々空のジョッキを持ってくる。嗜みもクソもない、酒の味を度外視した飲み方だからな。酒を扱う職に従事するものとしては、閉口せざるを得ない行為だろう。ごめんな。


 「ぅぷ………。この酒をジョッキで飲んだのは初めてだよ」


 俺の真似をしてジョッキで酒を飲み干した女が、力なく口を開く。一気に飲むと結構クるよな、コレ。


 「あんだぁ?最初の威勢が随分と鳴りを潜めてんじゃねぇのか?」


 「冗談こくな、このモヤシ!」


 じゃあ、第2ラウンドだ。


 俺は再び、ジョッキを樽に突っ込む。昼間っからこのクソ暑い国で飲み比べとか、俺は今何してんだっけ?







 「ぅ………。………あんた………、どんだけ飲むのよ………」


 「あ?まだ3樽目だぞ?潰れんの早えだろ?今さら遠慮とか、ガラにもねぇ事してんなよ」


 ジョッキを持つ手にも力が入らないのか、テーブルに突っ伏してジョッキを指にかけたままの女を後目に、俺は酒を煽った。

 テーブルでただ見守っていた女共も青い顔をしている。


 「おら、お前の番だぞ?」


 「………ぅぷ。………もぉ無理………。あんたの勝ちでいい………」


 ハンッ!口ほどにもねぇ。レイラだったらこの程度は序の口にもなんねぇ、ただの唇を湿らした程度じゃねぇか。


 女が敗けを宣言すると、酒場から驚愕ともつかない歓声が上がった。


 「うおぉ!!すげぇぞ!ウワバミのダルタニアが酒で負けた!!」


 「何モンだ、あの兄ちゃん!?」


 「いつか、あの女に一矢報いてくれる男が現れる事を願ってたぜ!!」


 「俺らは全滅だったからな………」


 「とにかくスゲーぞ、兄ちゃん!!」


 なんか知らんが、まぁ酒が美味いからいいか。


 「おいシュタール、お前、ちゃんと情報収集してんのかよ?」


 「あ」


 騒ぎを聞き付けたレイラとミレが、こちらに歩いてきた。そういえばアニーやアルトリアは?


 探してみれば、数人の男連中に囲まれて酒を飲んでる。なんか1人だけ涙目の男がいるけど。


 「『あ』じゃねぇよ全く。お前ただナンパして酒飲んでただけかよ」


 いや、断じてナンパなどしていない。このムカつく女共に、一泡吹かせるために………、って言ったらまた怒られそうだな。


 「ちょっと貸せ!」


 レイラは俺の元にあった酒樽を片手で持ち上げると、その縁に顔を近づけた。


 ダルタニアとかいう褐色の女も、他の女も、さらには見守っていた他の男共も、これから起こる事態を何となく予想しているのか、口をつぐんでレイラを見守る。


 そんな注目もお構いなしに、レイラは樽に半分以上残っていた火酒を飲み始める。


 ゴキュ、ゴキュっと豪快な音を辺りに響かせ、レイラの身長ほどもある樽が天井を向いて持ち上がっていく。




 「ぷはっ!」




 レイラは可愛らしい声をあげると、樽を放り投げる。当然中身は空で、ガランゴロンと音をたてて転がる酒樽に注視する観客。


 「お前、酒弱いんだから酔っぱらう前にちゃんと情報聞いとけよ!」


 ビシッ、と俺に言い渡してその場を去るレイラ。


 その後ろ姿に歓声が遅れて付いていく。


 「なんだあの子供はっ!?」


 「いや、子供じゃねぇ!!ドワーフだ!!」


 「やっぱりドワーフは酒に強いんだな!!」


 「にしたってすげぇ!!」


 「ドワーフ殺しと名高いこの酒を半樽一気飲みだぜ!?尋常じゃねぇ!!」


 俺が弱いんじゃなく、レイラが酒に強すぎるんだよ。だから酒代がバカになんなくて、貯金が少ないんだろうが。


 「あ、あの………」


 おっと、情報収集だったな。

 声をかけてきた女に、俺は笑顔で問いかける。


 「なぁ、ここ最近のこの国の情勢について聞かせてくれよ。


 もしよかったら酒も奢るぜ?」




 「結構です!!」





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