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 ガナッシュ公国

 「ガナッシュかぁ、久しぶりだな!」


 シュタールの台詞に、私は気の重くなる思いでため息をついた。こいつの軽挙盲動を許したことで、私は後でキアス殿に苦言を呈されるのだ。ため息の1つも出よう。


 「つーか、あっちっ!!なんかクソ暑いぞ!」


 「………今は初秋………。………これくらいは当たり前………」


 レイラの言ももっともである。照りつけるような日差しと、熱波。しばらく城壁都市に身を寄せていただけで忘れていたのかと、自らに失望にもにた呆れを感じる。

 今は初秋、夏の暑さが残る、いや、むしろ一年で一番暑い時期だ。

 真大陸で暮らしていれば、当然のように感じる季節を、あのダンジョンでは感じる事がない。それはある種、あの街を出た者が感じる郷愁にも似た思い。いや、本音を言おう。


 私はただ、涼しい城壁都市に戻りたい。


 今思うのはそれだけである。


 「それで?私の忠告を無視して、いきなりここまで転移してきたわけだが、これからどうするのだ?」


 「ん?いや、あんまり考えてない」


 これだ………。


 こいつには本当に理屈というものが通じない。頼むから、私にもわかるようにその行動原理を明確にしてほしいものだ。


 ただ、こういう時のこいつの勘は侮れない。だからこそ、キアス殿の忠告を無下にしても同行しているのである。


 「あちー………」


 シャツの襟元を摘まんで中に空気を送るシュタールは、私の苦労など微塵も慮ることなく、お気楽にニヘラニヘラと笑っている。


 「取り敢えず大公に会おうぜ。その『奴隷解放』が問題あるなら、大公に言って止めよう」


 「シュタール………。貴様は、さっき言った私の話を本当に聞いていたのか!?」


 我々は一応指名手配の身であり、ガナッシュ公国はアヴィ教寄りの国家である。訪ねたところですんなりと通してくれるわけもないし、最悪戦闘になる。だからこそ慎重に動けという忠告は、どうやらこいつの残念な脳みそには残っていないらしい。


 「ガナッシュの中枢機関に近付くのはやめた方がいい。かといって、手をこまねいていれば多くの民が困る事になる。


 さて、どうするか………」







 取り敢えず我々は、ガナッシュ公国の首都、アクレアボアンの酒場へ向かう事にした。転移した場所から近かったという理由もあるが、やはり情報は酒場でというのが冒険者の流儀である。


 「なんか、でかい事が起ころうとしているようには見えねぇな?」


 「ああ、町の様子は平素とあまり変わりがなかったな。だが、商会がいくつか無くなっていた。やはり、水面下では動いていると見た方がいい」


 シュタールが、キンキンに冷えたビールのジョッキを煽りながら、店内を見回す。こんな時間から酒を飲むような輩は、チンピラか冒険者と相場が決まっている。何人かあたりをつけて、話を聞いてみよう。


 しかし不味いな。よく冷えているのは嬉しいが、アクレアボアン1、2を争うこの酒場にも『華蜜酒』は置いていないようなので仕方がないか。はぁ………、美味しかったなぁ、『華蜜酒』。


 「よぅ、ねぇちゃん。湿気た面で飲んでるじゃねえか?なんなら俺が、とびきりの酒をご馳走してやるぜ?」


 「私の望む酒を、お前がか?笑わせるな。

 では『華蜜酒』を持ってこい」


 服装から見て冒険者であろう厳つい男が、話しかけてきたので適当にあしらおうとする。だが、


 「あれ?何で俺の持ってる酒の名前を知ってんだ?」


 まさかの答えに、私とアルトリアがいち早く反応する。こいつもあの酒はお気に入りだったからな。


 「仕方ないな、まさか本当に『華蜜酒』を用意されてしまっては断るのも無粋か。相伴に預かろう」


 「あらあらアニー?まさか独り占めなんてしませんわよね?」


 「ぅお、なんだこの展開!?そんなにいいもんだったのか、この酒?高い金出して買った甲斐があったぜ!!俺にもようやく春がっ!!」


 残念ながら私は、あくまで彼の持っている情報と酒にしか興味はない。アルトリアとて、そうだろう。そう思うと少々この男が気の毒だが、仕方ない。

 並べて、酒に付き合うだけで有頂天になる男が悪いのである。


 「では、私は行く。お前たちもちゃんと情報収集をしておけよ?」


 「ったって、アタシとミレは酒場での情報収集には向かねーっての!」


 「………僕………、………お酒飲めない………」


 まぁ、どちらも外見が子供だからな。レイラは酒は飲めるが、『華蜜酒』のような甘い酒より辛口の物を好む傾向にあるのでついてこないらしい。まぁ、こいつまで加われば、私の飲む分まで減ってしまうので好都合である。


 ん?そういえばシュタールは?


 「あんだとコラァ!?よし、わかった!この店一番の火酒を樽で持ってきやがれ!飲み比べだ!」


 女性ばかりの冒険者パーティーと飲み比べを始めている………。本当にアイツは………。




 「ハッ!あたしに勝てたら、今晩お相手してあげるよ!?モヤシ君?」


 「俺に勝てたら、今晩は天国に連れてってやんぜ?」


 「ハッ!冗談」




 なんか、なし崩し的に今晩一緒にいる約束を取り付けてるし………。


 よし、シュタールの分の宿は要らないな。





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