無茶なお願いと妥協点っ!?
『何を言っておるか!!無理に決まっておろう!!』
「ああ、いえ、言葉足らずでした。アムハムラ王国の領土を、僕のダンジョンに組み込ませてください、という意味です」
『同じ事であろうがっ!?』
「いえ、実行支配するのはアムハムラ王です。地名も変わりませんし、現状を維持して組み込みますので、地形も変わりません。変わるのは気温くらいですね」
過ごしやすい気候になり、凍死者はいなくなるだろう。ただ―――
『ダンジョンに組み込む、という事はそなたに国民の生殺与奪の権利を渡す事に他ならんだろう。断じて看過できん!!』
そう、僕がアムハムラ王国に自由自在に干渉できてしまうのだ。勝手にトラップを作ったり、勝手に人間を排除したり。やりたい放題にできる。
さらには、歴とした真大陸の領土に魔族の拠点ができるわけで、人間側としては許容できるわけがない提案である。
「では、一部!ほんの一部を割譲してはいただけませんか?」
『………初めからそのつもりであったな………?』
バレた。まぁ、もし国土全てを取り込めれば、気温やなんかで利点も多いのだが、やっぱり望み薄であるのは最初からわかっていた。故に、一部をもらい受けるという妥協点を作ったのである。
「住民のいない地で、広さはそこそこ必要ですが、立地条件は問いません。居住に適さない地でも構いません」
『はぁ………。
まぁ、貴様に直接分与するのでは問題があるが、トリシャに爵位を与えて領地を任せるのであれば問題なかろう?』
「え?でも………」
随分あっさり了承してくれたのは意外だったけど、それよりもトリシャは女性で、女性に爵位を与える国は真大陸でもネージュ女王国くらいのものだったはずだ。問題にならないのだろうか?
『トリシャは騎士団長の辞職を表明しておる。まぁ、大抵の者はトリシャの婚姻関係での辞職だと思っているだろう。トリシャも王族としては嫁き遅れと呼ばれる歳だからな。
実際、各国の王族からは婚姻の申し込みも入ってはいる。庶子という事で今まで見向きもしなかったくせになっ!!王国空運でアムハムラが儲かった途端、食い付いてくるような輩にトリシャはやらん!!』
さすが親バカ。国益を考えたら、トリシャはどっかの王家に嫁いだ方がいいだろうに。
まぁ、僕もトリシャを他の誰かに嫁がせるなんて嫌だから、アムハムラ王に全面的に賛成だけどね。
『故に、無理にでも爵位を与え、公爵家として建前上の領地を拝領させる。さすれば、トリシャは立派な貴族であり家長である!!嫁に出す必要など無い!!』
婿を貰う必要はあるけどね。
「その土地は僕の自由にして良いと?」
『トリシャが許可すればの』
了解了解。後で連絡を取っておきましょう。
「それともう1つ」
『まだあるのか!?』
「ええ。各町、各村にゴミ処理施設を建てたいのです。僕の資金で土地を買いますが、そこもダンジョンと繋げたいので許可がほしいのです」
『ゴミ処理施設?』
真大陸では、ゴミは一ヶ所に纏めて捨て置かれているのが普通だ。
生ゴミや燃えるゴミ、燃えないゴミなんて区分はなく、時折政府主導で纏めて焼き払うくらいで大変不衛生である。なんせ、廃棄物の中には生ゴミだけでなく排泄物まで混ざっているのだから。正直、ペストが流行していないのが不思議である。ああ、アムハムラはネズミが越冬できない寒さだからかな。でもあれって寒冷期に流行ったんだよね。
とにかく、病気は予防から。
最低限の衛生管理を僕が行えば、病の数も少しは減るだろう。いずれは世界各国のゴミ処理産業を担うつもりな僕である。まぁ、それ以外にも打算はあるんだけどね。
『王宮の庭に貴様の侵入経路があるから、防衛を論じても今さらだが………。くくく………。真大陸の防衛を担ってきた我が国が、貴様に攻め込まれたら蟻塚よりも穴だらけな防衛網になってしまうな。当然、見返りはあるのだろう?』
「王国空運の馬車の新調、及び損失分の補填。輸送可能人数の増大、でどうですか?」
『うむ。ならば良いか。やはり馬車はいくつか盗まれて、内いくつかが残骸として発見されておる。まぁ、落としたのはこちらであるがな。便が減ってしまい、その地に王国空運が訪れる機会が減ったせいで暴動紛いの騒ぎまで起こったそうだが、自業自得であろう。
しかし、我が国は既に王宮に転移陣があるからやむなく了承したが、他国はこうはいかんぞ?』
僕が義理を通さなきゃならないのなんて、アムハムラだけだ。他は勝手にやる。
「では、そのように」
『一体何をするつもりだ?』
いぶかしむようなアムハムラ王の声に、僕は不敵に笑んで返すのだ。
「教えてやるんですよ。
外道は魔王の専売特許だってね」
アムハムラ王との連絡を終え、僕はすぐさま動き出すことを決めた。
「アニーさん、僕からの情報として今の話をシュタールに伝えてください。そのせいで多くの人達に被害が出る事も」
「わかった。とても見過ごせる事態ではないからな」
「はい。ただ、僕もシュタールも、今や自由には動けません。慎重に行動するよう、アニーさんが注意してください」
「心得た!」
そう言って転移していくアニーさんを見送り、僕は仲間達に向き直る。とはいえ、ここにいるのはマルコとミュルだけだ。他は今の時間は寝てるか風呂だろう。
「2人にもやってもらいたい事がある」
「ラジャー!」
「らじゃ!」
ピシッ、と敬礼する2人に僕は微笑んで伝える。
「先ずは作りすぎた料理を片付けてくれ」
途中退場してしまったアニーさんの分も含め、テーブルには山のような食材が並んでいた。