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 確度の高い確証の無い情報っ!?

 「馬鹿共がっ!!」


 僕は怒りに任せて、ガラステーブルに拳を落とす。この時ばかりは、僕の力の無さに感謝した。


 「アムハムラ王、もう少し詳しく聞かせてもらってもいいですか?」


 『ああ』


 重厚な低いアムハムラ王の声が、僕の腹にズシリと重い衝撃となって響く。


 『ガナッシュ公国とは、前身となるガナッシュ王国の公爵がクーデターにより建国した貴族による議会政治の国だ。

 真大陸ではやや南よりにあるが、取り立てて特産のない小国だ。農業は盛んだが、南は農業国が多いからな。

 海がなく、王国空運により物流が活発化した恩恵で、最近では他国に食料を輸出し潤っていたが、今回の事で商人が我先にと公国を離れ始めている。情報も、そういった商人からだ。

 奴隷解放による生産力の低迷を恐れて逃げ出してきた者がほとんどだ』


 「解放された奴隷達の雇用先は?」


 『特に情報はない。ガナッシュ側も取り立てて動きがない以上、なにも考えておらぬようだな。

 狂気の沙汰だ』


 その通りだ。現状、真大陸では奴隷を解放してもその生活を保障できない。いや、むしろ第一次産業従事者である奴隷を解放すれば、食料自給すらままならない。農家の口減らし先である奴隷商がいなくなれば、奴隷でない農家だって困窮は免れない。そんな簡単に解放出来るならば、僕だって半年近くも手をこまねいてはいない!!

 大量の浮浪者、餓死者を出し、奴隷がいなくなった事で低下する生産力でさらに民が飢える。農業国であれば尚更だ。

その悪循環を予想できないのかっ!?

 いや、そんなわけがない。貴族共の利益を見ても、国の利益を見ても、現時点での奴隷解放には何の利点もない。ではなぜ今奴隷解放を決めた?


 結論は1つ。


 「アヴィ教の差し金ですか?」


 『恐らくは、の』


 つまり、奴等は奴隷や農民の命と引き換えに、大義名分を手に入れるわけだ。


 『奴隷解放による混乱の原因は第13魔王であり、魔大陸に侵攻してこれを討つ』


 くそっ!!


 奴隷や農民の命を切り捨ててまでそんな事をして、どれだけの国が賛同するというんだ!?ガナッシュ公国の貴族達は自分で自分の首を絞めているのに気付いていないのか?最悪の場合は、国が大きく傾くぞ!?いや、アヴィ教に最大派閥が抱き込まれたのか?専制君主さえいればこんな事にはならなかっただろうなっ!!なんせ、国に害がありすぎるんだから。


 現状アヴィ教の信用は低い。このカラクリに気付く国だって多い筈だ。そうなればさらにアヴィ教の立場は悪くなるだろう。単なる暴走か?


 『気付いてはいると思うが、今回のガナッシュ公国の決議は一国の内政問題。他国は介入できん。


 発布されていない現状、まともに文句を言うこともできん。抗議文や勧告程度なら、情報の確度が上がれば各国から送られるだろうが、あまり効果は望めぬぞ?』


 「一国を潰して僕に敵対する口実を作るつもりですかっ!?ふざけんな!!」


 『同感だ。犠牲になるのは民の命だというのに………。

 恐らく、賛同する国は少ないだろう。

 もしかすれば、解放した奴隷の画期的な雇用政策も打ち出すのかもしれんが………』


 そんなわけがない。


 もしそうであれば、まずはそちらの政策を軌道に乗せてから奴隷を解放すればいい。だが、そんな画期的政策なら僕の耳に入ってこないわけがない。


 「アヴィ教はなんと………?」


 『不干渉と宣言しておる。内政問題だから、とな。それ以前に、未だ確証の無い情報だからなんとも言えんとまで言っておる。白々しい』


 くそっ!!どうせ裏で糸を引いてるのは、アヴィ教だろう。その発言力の高さを利用して、今まで散々他国を振り回してきたくせに。ホント、白々しい!!


 例え魔大陸侵攻が決まっても、以前のような影響力は戻らないんだぞ?それすらわからない程今のアヴィ教は暴走してんのかっ!?


 「マズイ事になりましたね………」


 『ああ………』


 今回の奴隷解放の遠因が、僕にあることは事実である。奴隷解放が失敗した、という前例を真大陸の国々に印象付けるのもマズイ。今回はともかく、僕のやろうとしている事への悪影響は否めない。


 それ以上に問題なのが僕の悪評がいよいよもって看過できないレベルまで達する事だ。僕としては、出来れば普通の魔王レベルまでなら許容範囲だったのだが、コションレベルで嫌われるのは色々とマズイ。僕の目標的にも、保身的にも。

 いや、もし挙兵という事態になればアムハムラとて他人事ではないはず。協力の要請を拒否しても、アムハムラ王国は魔大陸への橋頭堡。通過点である。敵対すれば戦争になる可能性も高い。


 「アムハムラ王、いくつかお願いがあります」


 『それを聞けば、今回の事態を収められるのか?』


 「わかりません。ですが、最悪の場合はアムハムラ王国も多大な損害を被ります」


 『それで頼み事をしているつもりか?普通ならば門前払いだぞ?』


 呆れたような、苦笑混じりの声がイヤリングからは聞こえてきた。


 「成功すれば、アムハムラ王国は名実共に大国の仲間入りをします。ですが、僕との繋がりに感付かれる可能性もあります」


 『リスクばかりに聞こえるが?』


 「それでも死者を出さずに解決できる可能性があります」


 『アムドゥスキアス、勘違いしてもらっては困るぞ?』


 いきなり鋭さを増したアムハムラ王の声に、僕は苦笑する。やっぱりこの人はどうしようもなく王さまである。


 『私はあくまでアムハムラ王国の王であり、ガナッシュ公国の民の命を助けるために我が臣民に苦境を強いるわけにはいかん』


 「わかっています」


 僕は一拍置いてから、もう一度口を開く。真摯に、お願いする。




 「アムハムラの領土を、僕にください!!」




 ………………。


 「『はぁ!?』」


 あ、立ち聞きしてたアニーさんの声が混じった。





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