真大陸と魔大陸の違いっ!?
「キ、キアス殿!!こちらの幸運突撃鳥の肉は凄いぞ!!ぷるっぷるでぷよっぷよだ!!こんな肉があったとは………っ。
むぅ!!
何だこの口どけはっ!?え、なに?成る程。キアス殿、このピアニシモとか言う魚は魔大陸でしかとれないらしい。しかも肉食で、捕まえようとしたら逆に食われてしまう事もあり、手練れの魔族でないと収穫できないので貴重だそうだぞっ!?
味か?味は心配ない。魚肉でありながらこの濃厚な味わい。それどころかこの肉、まるでクリームシチューのような、とろけるような口どけだぞっ!?一体どうなっているんだ、魔大陸とは!?けしからん!実にけしからん!!
ただ焼いただけだと言うのにこの味、実にけしからん!!
本当に食わんのか?」
いらねぇよ。
つーかアニーさん、あんたさっき大量に夕飯食ったでしょうが。何で今マルコやミュルと夕飯食ってんの?
「けしからん、けしからん」
「からん、からん」
マルコとミュルも真似すんな。
「キアス様、追加の料理も作っておきますね?」
「悪いね、もう上がりだったのに」
「いいんですよぉ、帰っても1人だもんで」
オークのポマックおばさんは、カラカラと笑ってキッチンへと歩いてく。
オークの連中は、レッドキャップ襲撃時にほとんどが家族を失っている。まぁ、今さら僕にはどうしようもないことではあるが、やっぱり重たい気分になる。
「こ、これはっ!!
確かな歯応えでありながら、その内側はトロトロの液体!!不思議な果実だ!!それになんという芳醇な甘さ!!甘美とはこの果実のためにある言葉だな!!
魔大陸、恐るべし!!」
ちょっとは空気を読んでください、アニーさん。あなたは出来る子でしょう?
まぁ、それも仕方ないか。僕も最近知ったのだが、魔大陸と真大陸の一番の違いは動植物、つまりは食物が全然違うのだ。
真大陸は割と僕の知っている食材に溢れていて、ほとんどが地球産の物と遜色がないのだが、魔大陸はそれらの埒外なのだ。
幸運突撃鳥は、魔大陸ではありふれた食材だが、真大陸側から見ればこれ程不思議な肉は王公貴族に献上しても問題がない代物である。
因みにこの幸運突撃鳥は、魔大陸を歩いていると上空から突撃してくるのだが、目が悪いのか大抵は外れて地面に激突する。なんの労力もなく手に入るお得な鳥だ。まぁ、たまに激突されて重症を負う人もいるらしいけど。
その肉は、火を通すまでは普通の肉に見えるのだが、煮るなり焼くなり火を通すと、表面が膜のように固まり、内部はゼラチン状のとろとろぷよぷよの肉になるという、不思議極まりない肉である。僕も好きだ。
「くっ………、魔大陸との親交が無かった事をこれ程悔やんだ事はない………っ!!
生まれてかれこれ400年、まだ私の知らない食材があったとは………っ」
いや、なんで本気で悔しがってんの?君ってそんなに食いしん坊キャラだったの?さっきの食事会で懲りたから、言わないけどさ。でも、拳を握って力一杯力説しなくても………。
「ふぃはふぃ、ほれは―――」
「口に物を入れて喋るんじゃありません!ったく、アニーさんともあろう人が………」
「んん………っ。失礼した。
しかし、これは凄いな。魔族の技術力が低いのは、こういった調理しなくても極上の美味になる食材に溢れているせいなのではないか?」
「へぇ、面白い見解ですね。
確かに『錬金術は台所で生まれた』なんて言葉も聞いたことがありますし、あり得ない話ではないかもしれませんね」
錬金術は現代科学の祖とも言うべき技術だ。まぁ、ただ単におバカさんばかりだからって説も有力だと思うけど。
「まぁ、そんな下らないことはどうでもいい。今はこの美味に舌鼓を打つ方が遥かに重要な案件だ」
はぁ………。どんだけ食うんですか………?
『キアス殿、今時間はあるか?』
おっと、アムハムラ王からの通信だ。
「ええ、ちょっと胸焼けしそうだったので、丁度良かったです」
『?まぁ、よくわからんが、時間があるならば良かった。少々面倒な事態になってきたぞ、貴殿にとってはな』
イヤリングから聞こえるアムハムラ王の声は、深刻そうな声音だった。
「どうしたんです?」
『ガナッシュ公国という国を知っておるか?』
「いえ………、寡聞にして………」
『そのガナッシュ公国にて―――』
アムハムラ王の言葉に僕は思わず立ち上がり、椅子を倒してしまった。
「なっ………!!そんな馬鹿なっ!!何かの間違いではっ!?」
『ただの噂、というにはやや確度の高い情報だ。商業組合、トルトカ、ネージュ、ガオシャンの見解とも一致しておる』
「そんな………っ!!」
僕の様子に、食事中だったアニーさんやマルコやミュルがその手を止めてこちらを見ている。
そこに畳み掛けるようにアムハムラ王の声は響いた。
『間違いない。ガナッシュ公国にて、『奴隷解放』の決議がとられようとしている』