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 最弱の証明っ!?

 エレファン・アサド・リノケロス。

 第1魔王にして、この世界で最強の魔王。


 約500年前、彼女の怒りを買った小国は、彼女の手により、文字通り粉々にされたそうだ。

 真大陸南方に、その残骸たる島々が残っており、その形が花に似ていたため、今では『悲劇の花』と呼ばれ、魔王への畏怖を強く人々の心に焼き付けているそうだ。


 因みにこれは、後でパイモンに聞いた話である。




 「僕はアムドゥスキアス。13番目の魔王として、先日生まれたばかりの、新参者だ」


 とりあえず僕も自己紹介を返した。

 タイルと握手を交わし、ちらりと美女を見る。


 170cmくらいある彼女の、膝の裏辺りまで伸びる銀髪が、風に靡いてサラサラと輝いていた。


 「んふふー。ウチのエレファンは美人でしょう?」


 どこか自慢げに、タイルが胸を張る。

 その気持ちもわかる。


 例えば、これだけ美人の恋人がいれば、男なら誰でも自慢せずにはいられないだろう。


 っていうか、やっぱりタイルは男なのだろうか?

 外見は、ふわふわのくせっ毛も相まって、なかなかに美少女なのに。勿体ない。


 「ところでアムドゥスキアス君、キミ、なんでここに居を構えたんだい?」


 タイルは、相変わらずニコニコとこちらに問いかける。


 「ここは、お世辞にも拠点に向いていないだろう?

 水や食料の面だけじゃない。流通は皆無、おまけに真大陸に近く、絶対に他の魔王の目にも止まる。


 生まれたばかりのキミには、少々過酷すぎる場所だと思うけど?」


 一瞬、悩む。


 正直に答えるべきか否か。まぁ、すぐに答えは出たけど。


 「とある人に頼まれてね。人間と魔王の争乱に終止符を打ってほしいって」


 「ほうっ!」


 僕の答えに、タイルは驚いたように目を見開いた。

 「成る程。だからここなのだね。ここなら両大陸を分断できる上、さっきのダンジョンに手を加えていけば、突破そのものもかなり難しくなる。

 成る程、成る程。



 だがそれは荊の道だよ?人間どころか、魔族も敵に回さなければならない。

 いくら魔王といったって、世界相手に喧嘩を売れるのはエレファンくらいのもの。おまけにキミは生まれたてで、見るからに貧弱そうじゃないか。

 悪い事は言わない。今すぐ拠点を移した方が無難だよ?」


 タイルの忠告は尤もだ。というか、僕も最初はそう考えて神様のお願いを断ろうとした。


 「うーん………、一度引き受けたことを反故にするような、そんな事はしたくないな」


 「ふぅん?まぁ、ボク達は人間達との争いに興味はないからいいけど、他の魔王は黙ってないだろうね」


 「やっぱりそうか………。そういえば、君達がどうやってあの長城迷宮を、短時間で突破してきたのか、聞いてもいいかい?」


 あの長城迷宮、並びに信頼の迷宮は、とても2人で、しかも数分でクリアできるようなものではないのだ。

 もし、魔王パワー的な何かが、ダンジョンに影響を与えるのならば、僕の命は、タイルの言う通り風前の灯だ。


 「ああ、うん。アレね。面倒だから空飛んできた」


 ですよねー。

 なんかここ来た時浮いてましたもんねー。


 「アンドレ、この後は飛行対策だな………」


 『はい。いくつか策を検討しておきます』


 僕の胸ポケットから響いた声に、タイルと、そしてエレファンも驚いたように目を見開いている。


 「今のはなんだい?通信の魔法か何かかな?でも全く発動を感じなかったし………」


 興味津々といった声音でタイルが聞いてくる。


 「それはまぁ、企業秘密ってことで」


 ここはさらりと受け流す。

 興味を持たれてアンドレを取っていかれたら大変なのだ。


 「まぁいいか。

 あはは、ゴメンねちょっと立ち寄っただけなのに、長々とお節介とか焼いちゃって」


 「いや、僕もまだ生まれて間もないんだ。

 友好的、かはともかく敵対しない魔王の知り合いができたのは喜ばしいよ」


 「そう言ってくれると嬉しいな。

 ボク個人としても、キミに興味がでてきたよ。だから簡単に死なないでね」


 「努力するよ」




 どうやら、この2人は本当にただ立ち寄っただけのようだ。何事もなく立ち去ってくれるなら、こちらとしてもありがたい。


 「じゃあね、アムドゥスキアス君」


 そう言って、手を振り立ち去ろうとするタイル。




 ―――だが




 「オマエ、なんで弱い?」


 突然、今までずっと沈黙を保っていたエレファンが口を開いた。


 これには、僕だけでなくタイルも驚いたようで、目を丸くしてこちらに振り返った。


 「オマエ、魔王。間違いない。けど弱い。なんで?」


 稚拙な言葉遣いに頭を捻りつつ、タイルを見る。通訳を求めたのだ。


 「えっと………、言いにくいんだけど、キミって魔王の割に弱そうっていうか………、その、力の片鱗?みたいのが全く見えないんだよね。

 どうやらエレファンはそこに興味を持ったみたいだね。

 エレファン、きっと彼は力をとっても上手く隠してるんだよ。そういう言い方は相手の気分を害して、いらぬ争いを生むよ。500年前みたいに」


 「違う。タイル、コイツ弱い。ボク、わかる」


 「………」

 「………」


 困ったような表情のタイルと、泣きそうな僕。


 いや、お世辞にも僕は、強そうには見えないだろうけれど、なにもそこまで言わなくても。

 って言うか、僕は実際神様から貰ったチート的な多彩な魔法技能があるわけで。

 ここまで言われて、カチンと来ないと言えば、嘘なわけで。


 「えーっと、エレファン、でいいのか?」


 「ん。ボク、エレファン」

 外見は絶世の美女のくせに、言葉遣いや仕草がやけに子供っぽいやつだ。


 「僕はこれでも、一応は魔王なんだ。身を守れるくらいには魔法も使えるよ?」


 「ウソ!それ、ウソ。オマエ、魔法、使えない。力も、弱い。オマエ、弱い」


 やっぱりカチンとくる。

 アレだ。ここは一発、ド派手な魔法でも使って、この子の度肝を抜いてやろう。


 「そこまで言うなら、ちょっと見ててごらん」



 僕はそう言うと、誰もいない広野へ向き直る。


 使う魔法は、最上級火魔法『フロガカタストロフィ』。超高威力の魔法で、一発撃てば、ナントカドームで換算しなければならない広範囲が、灼熱の嵐に巻き込まれる。

 よい子は人に向けて使ってはいけない魔法なのだ。


 「いくよ。『フロガカタストロフィ』!!」




 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………アレ?




 僕の目の前には、相変わらずの荒野と、困った顔のタイル、無表情のエレファン。




 ………もう泣いていいよね?





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