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 マニアにしかわからない二刀流っ!?

 「ぃよっしゃぁぁぁあああ!!!!」


 僕が最後のチップを吐き出すと、シュタールが雄叫びをあげた。静かにしろ。


 どうやら運命の女神はこのアホにベタ惚れらしい。あり得ない強運の前には、ちゃちな心理戦などあって無いようなもので、あっさりと強行突破されてしまった。

 これには、僕だけでなくアルトリアさんやミレもドン引きである。少しでもこのゲームを理解した彼女達なら、シュタールという存在がどれだけこのポーカーというゲームを台無しにしたかがわかるのだろう。


 ただ手役を競うだけなら、ポーカー程つまらないものはないのだ。何せ、全部運で決まってしまうのだから。


 同じ賭博性が強いゲームでも花札や麻雀などは、自分の思考を介在させられる分、お金をかけなくても楽しいのだ。まぁ、以前全勝した花札での勝負は流石にアンフェアだし、麻雀のルールをシュタールが1日で覚えられるとも思えないので、仕方がなかったか。次勝負する時は大富豪にしよう。各スートの絵札と2を独占するようなら革命起こしてやる。あ、いや、革命返しされるか。


 まぁ、今さらこんな事を言っても負け犬の遠吠えにしかならないので、ここは大人しく引くとしよう。


 「はぁ………。まぁ、仕方ないから僕のコレクションから売ってやるよ」


 「いやー、一時はどうなるかと思ったぜ。半端な剣じゃ、あの地下迷宮はキツいからなっ!!」


 まぁ、僕もちょっとムキになっちゃったし、この辺が落とし所だろう。次はないけどな。


 「片手剣がいいか?」


 「まぁな。最近このマン・ゴーシュの出番が全然ねぇからよ」


 メル・パッター・ベモーは両手剣だからな。仕方ないだろう。


 「やっぱ突きを重視した造りの方がいいのか?」


 「いや、それはメル・パッター・ベモーで間に合ってるからな。逆に斬ることを重視した剣がいい。買い取るんだから、研ぎ直しが終わってからも使える剣がいい」


 ふむ。ならばレイピアなんてメジャーな剣を出す必要はないな。あれはあれで『突き』という概念を突き詰めていった結果としての剣であり、それに関しては僕としても認めざるを得ないのだが、いかんせんメジャーすぎる。脆いしね。


 奇剣とは、マイノリティであればある程いいのだ。


 しかし、レイピアとマン・ゴーシュの組み合わせは王道であり、それを構えたシュタールもちょっと見てみたかったな。


 「他に希望はあるか?」


 「うーん………。やっぱ変な剣がいいな。お前が持ってるみたいな!!」


 お。


 何だよ何だよ?もしかしてアレか?お前もこっちの世界に足を踏み入れたのか?

 ああ、そうか。だから僕の見せたフィランギにも不満そうな顔を見せたのか。


 うんうん。そういう事なら仕方がない。確かにフィランギの見た目は、西洋剣の影響が色濃く、この世界でも割と普遍的な剣のようなシルエットだからな。あ、その性質は奇剣としての要素を多分に含んでいるのは、言うまでもない。僕のコレクションなのだから。


 しかし、そうなると考えものだな。


 斬撃に特化した奇剣らしい奇剣か………。


 「じゃあまずはこれかな」


 僕が取り出したのは、シルエットとしてはミレにあげたグルカナイフ、ククリに近い。あそこまでの強いカーブを描いてはいないものの、くの字に湾曲した内側に刃があるのは同じである。全長も60㎝程とククリより10㎝程大きいだけの鍔のない片手剣である。


 「名前はコピス。柄頭がグリップの下から反り返っていて、刃との接合部が下に伸びているから、ナックルをガードできてないナックルガードみたいになってるだろ?」


 因みに、同系統の剣としてファルカタ、マカエラ等があり、切っ先両刃になるとファルカタ、両手で扱える柄があるとマカエラだ。その中でも一番古いこのコピスは、他の3つの原型とも呼べる。紀元前10世紀から古代ギリシアで用いられており、ギリシア語の切る(コプト)という単語がその名の由来らしい。


 「ほぉー、確かに斬る事に特化していそうな形状だ。形も好きだぜ」


 そうだろうそうだろう。ビギナーのお前は、まずこの辺りが好きになる筈だ。


 もう一振り、ビギナー向けかつ、コピスと並べたい奇剣があるのだ。


 僕はおもむろにそれを鎖袋から抜く。


 S字、というよりは鍔元で折れ曲がるような稲妻型の刀身。上部は大きく反り返り、コピスとは逆に湾曲した刀身の外側に刃がある。全長はコピスと同じ60㎝。シルエットとしては、僕の持つショテルに結構近い。


 「お、カッケー」


 「コピシュという剣だ」


 因みに中近東で紀元前20世紀からあるという、かなり古い刀剣である。


 「は?え?こっちは?」

 シュタールが古代ギリシアの湾刀を指差す。


 「コピス」


 「じゃあこっちは?」


 今度は中近東の湾刀を指す。


 「コピシュ」


 「メンドくせっ!!」


 そう言うなって。ここまで名前が似ているのに正反対な刀剣ってのは他に類を見ないんだぞ?しかもその性質としては『斬る』という概念特化である。原産地も近いし、兄弟刀って言ったら語弊があるけど、マニアとしては並べておきたい剣なんだよ。


 コピスとコピシュの二刀流とか、最高に憧れる。ああ、いや、別に浮気じゃないよ?ショテルもハルペーも最高だよ。世界一カッコいい二刀流だと思うね。僕は技術的に不可能だけど。


 「で?これから選べばいいのか?正直かなり悩むんだけどな」


 「いや、破格で売ってやるって言ったろ?二振り白金貨5枚で売ってやる。実質、一振りタダみたいなもんだ」


 「マジでっ!?」


 「ああ。まぁ、本音を言えば、コピスとコピシュを離ればなれにさせるなんて、マニアとしては忸怩たる思いなんだよ。ただ、この二振りを揃えて買っていく奴もそうは居ない。ストックがあると、かなり売りづらい商品なんだよ。あくまで心情的にはな」


 そもそも、あまり刀剣で商売はしてないけど。精々、ダンジョンで落ちている程度の武具をまとめて売り捌くくらいだ。


 シュタールが同好の志となる前祝い、といったところか。


何よりどちらも外見がビギナー好みだからな。


 「マジかよ………。あぁ、確かに2つ揃えるとこの正反対さが良いな。バラバラで売りたくねぇって気持ちもわかる」


 「コピスとコピシュの鞘はどうする?レッグホルダーにするか?」


 「いや、普通の鞘をくれ。俺的にはどっちも佩きたい」


 「ったってお前、もうマン・ゴーシュ腰にあんだろうが」


 正確には、剣帯とは別にウルミーも巻いている。腰に四振りって、彼の海賊狩りも真っ青な所業だろう。


 「マン・ゴーシュは短剣だし、場所をとんねぇだろ?両腰に各々別に佩く分には邪魔になんねぇ。メル・パッター・ベモーが返ってきても、長さ的には短剣みたいなもんだし、問題無しだ!!」


 五振り帯びるつもりかよ………。腰が剣だらけになるだろうが………。


 「動きの邪魔になるだろ………」


 「なったらレッグホルダーを使う!!」


 まぁ、外に出しときたいって気持ちはわかるなぁ………。自慢したいのだ、奇剣のカッコ良さを。


 「まぁ、二振り買うより金は浮いたし、レッグホルダーも一応買っておくか!」


 合計白金貨7枚。今日支払ったマジックアイテムの代金は結構回収できたな。

 しかも、あれは他の商人に転売するわけだし、黒字は既に確定している。


 やっぱりシュタール達との取引は金になるなぁ。





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