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 得意分野と特異点っ!?

 「ベット。銀貨10枚」


 「コール」


 「アタシはフォールド。この手じゃどうしようもねぇ」


 僕がテーブルに置いた銀貨と同額をアニーさんが出すと、レイラは札を伏せて銀貨1枚をテーブルの中央に寄せる。


 そう、僕の提案したゲームとはポーカーである。

 参加者は1人金貨1枚分の銀貨を持ち、ゲームを始める。ベット、レイズの上限は銀貨10枚まで。レイズはカードの交換前と交換後に、1人2回まで。ゲーム開始直後のベットは、レイズに含まれない。テーブルに着いた者は、最初に銀貨1枚を参加費(アンティ)として出すので、フォールドしてもその分は持っていかれる。最後に勝った人は、賭け金と参加費を総取り。

 ルールはこんなところである。


 初めは僕に有利なゲームになるのではないかと気を揉んでいた勇者一行ではあるが、あまりにも運の要素が強いこのゲームに納得してテーブルに着いた。


 フフフ。


 「じゃ、俺もレイズ。銀貨10枚追加」


 「………コール………」


 「私もコールで」


 さらに賭け金を上げるシュタールに、ミレとアルトリアさんも続く。僕、アニーさんとコールし、シュタールもレイズしなかったので、カードを入れ換える。


 僕は1枚。アニーさんは3枚。シュタールは5枚。ミレは2枚。アルトリアさんは1枚交換した。


 この時点で警戒すべきはアルトリアさんとミレだけである。何故なら、アニーさんが3枚手札を交換した、という事は残った札は最高でもワンペア。運の要素が強いので一概には言えないのだが、ワンペアからは早々手は伸びない。シュタールは論外。


 ミレは2枚の交換。可能性としてはスリーカード、フォーカード、フルハウス、ストレート、フラッシュ、ストレートフラッシュ等がある。とはいえ、2枚を交換してストレートやフラッシュを作るのは厳しい。フォーカードのような強すぎる手が出来ていそうならば、即座に降りだな。

 危険だが、駆け引きとしてはまだ甘い。ここまで手を読まれてしまえば、あとは賭け金とその後の態度で手は読める。


 そういった意味で一番不気味なのはアルトリアさんだ。1枚の交換。普通に考えれば高い手を持っているのだが、そう思わせるブラフという線は捨てきれない。実際、僕はそうだ。


 僕の手はただのワンペア。


 さて、では僕の本領発揮といきますか。


 「いい手は来ましたか、アニーさん?」


 「う、うむ。中々の役が出来たぞ」


 意外なことに、アニーさんはこのゲームに信じられない程向いていない。最初に銀貨1枚を差し出す以上、なんとしてもそれを取り返そうとしているみたいだ。だが、その為にコールを繰り返し、さらには安手で粘るなど論外。最初に降りたレイラの方がまだ賢い選択だったと言える。


 「うーん………、コール!」


 シュタールがコール宣言。全換えでコールなら、危険度はかなり低いだろう。こいつの場合、良い手が来れば絶対レイズしてくるはずだ。問題は、僕が警戒すべき2人である。


 「………コール………」


 ミレは無難にコール。たぶん手は伸びていないのだろうが、信じられないくらいのポーカーフェイスだ。全然表情が読めん。


 「私はレイズですわ。銀貨5枚の上乗せで計25枚ですわね。あら、結構な大金になりそう………」


 アルトリアさんのこれは演技か?いや、しかし、ちょっとリアルっぽいな………。

 レイズが5枚だったのは、こちらを誘うためか、はたまた探りを入れられているのか。


 ならば。


 「じゃあもっと大金にしてしまいましょう。レイズ。銀貨10枚追加です」


 「あらぁ………」


 読めない表情でニコニコ笑っているアルトリアさん。ぅうむ、強敵だ。


 「ふ、フォールドだっ!!」


 先に根をあげたのはアニーさん。銀貨20枚と席代の1枚を中央へ寄せて札を伏せる。


 「うーん………、キアスの手が良いみてぇだし、俺も降りるか」


 シュタールも降りて、テーブルには合計43枚の銀貨が鎮座している。勝った者がこれを総取り!!

 そして、残ったのは僕、ミレ、アルトリアさんの3人。


 「ミレさん、どうします?」


 「………っ………!………コ、コールっ………!!」


 うん。この様子ではミレも手は高くないな。これなら心配はなさそうだ。問題はやはりアルトリアさんか………。


 ここからが勝負。恐らくミレはレイズしてこない。そういった駆け引きをわかっているなら、これまでコールしてこなかったのは不自然だ。


 アルトリアさんのレイズ出来る回数は残り1。たぶん彼女が1番の強敵だ。揺さぶりをかけて、なんとしても引きずり下ろしてやる。


 そう、ポーカーとは決して運のゲームなどではない。


 カードを引いて強い役を揃えるゲームではないのだ。偶然により出来た自分の手札と相手の手札を予想し、予想させ、相手の動向を探り、勝負をするか、降りるか、降りさせるかを競う、駆け引きの勝負なのである。


 そして、事駆け引きにおいてこのメンバーに僕が負ける筈がないのだ。


 悪いな。僕はお前らから、1人金貨1枚を徴収しつつ、完勝してやるつもりだ。それだけ、あのシュタールの暴言は高くついたと思ってもらおう。まぁ、その後で頼み込んでくるなら、気分が良いフリでもして剣を売ってやろう。


 「キアス様、ハッタリで私を負かせるなどとは思わないでくださいましね?」


 アルトリアさんは、いつになく鋭い視線で僕に微笑みかける。


 「へぇ………。随分飲み込みが良いんですねぇ。もうこのゲームの本質を掴みましたか?」


 「ええ。このゲーム、要は他者を見る観察眼を競うゲームですわね。そして、私ほどキアス様を観察する事に長けた者は、他にいないと自負しております!!」


 椅子から立ち上がり、その豊満な胸に手を当てて高らかに宣言するアルトリアさん。


 「私の見立てでは、キアス様の手はそれ程強くはありません。ハッタリで全員をフォールドさせるおつもりですね?」


 うん、正解。ただ、まだまだ青いな小娘。このゲームの本質はそれだけではないのだ。

 ポーカーフェイスの意味を教えてやろう。


 「そう思うならとっととレイズしてください。最後のレイズを使ってからでは、引っ込みもつかないでしょう?」


 「うふふ。負けん気の強いキアス様も素敵ですわ。ただ、この勝負は私がいただきます!!」


 アルトリアさんが銀貨を10枚揃える姿を確認し、僕はその背後を盗み見る。


 広大な魔大陸の大パノラマと、天空迷宮。その窓に反射する僕の姿。そして、僕のその動作に気付くアルトリアさん。が、ぼんやりと写っていた。


 「はっ、ま、まさかっ!!」


 そ知らぬ顔でそっぽを向く僕と、窓を交互に見るアルトリアさん。


 「キ、キアス様っ!?それはいくらなんでもズルではないのですかっ!?」


 「なんの事かわからないな。君は一体何を言っているんだい?」


 直前に立ち上がり、堂々と勝利宣言などするのが悪い。実際は、ぼやけて全然見えてなどいなかったのだが、これで相当疑心暗鬼に囚われる筈だ。


 「く………っ。コ、コール………」


 アルトリアさんは、結局レイズはせず賭け金は35枚のまま。

 だがここで、僕は最後のレイズを使う。


 「レイズ!銀貨10枚!」


 「………っ………!」


 「くっ………!!」


 どぉだ、読めないだろう?アルトリアさんの手を知ってなおレイズした、と思っているのならば、僕の手は読めない筈だ。


 ミレが銀貨の用意を始める。まさかコールか?てっきりそろそろフォールドしてくると思ったのだが………。


 「………レイズ………。………10枚………」


 な、ん………だとっ!?ミレがレイズ!?この状況でかっ!?いいや、ハッタリだ。ここで僕が動揺するようならば僕の手はハッタリだと一気呵成に攻めるつもりだろう。しかし、既に結構な額だからな。レイズも使えない状況で、ここから降ろすのは少々厳しい。僕がコールしても、ダメ元でも勝負という考えはアリだ。ただ、そうなれば困るのは僕だ。僕の手札はただのワンペア。とても勝負にはならん。なんとしても彼女を口八丁だけで降りさせねば。


 僕は心中穏やかじゃない素振りなど微塵も見せず、ニヤリと笑む。


 「これまで静かだったのは、この為ですか。さぞ、強い手を秘めているのでしょうね?楽しみです」


 僕はそう言って10枚の銀貨を準備する。コールするぞ、という脅しである。


 「っ………、フォールドですわ………」


 アルトリアさんが降り、これで場は一対一。僕がコールすれば、ミレはフォールはしないだろう。何せ、失う金は減らないのだ。くそっ、ベットに制限を加えるんじゃなかった。ベットを無制限にしていたら、ここでレイズを使って揺さぶりを掛けることもできたのに。駆け引きを重視しすぎたか。


 「………どうしたの………?」


 全く読めない無表情でミレが聞いてくる。参ったな………。揺さぶる為の武器が少ない。


 「いえ、このお金の使い道を少々悩んでいただけですよ?なんなら、新しい短剣でも仕入れましょうか。ミレさんのお陰で額が跳ね上がりましたからね」


 「………ん………。………ならそれを僕が買う………。………この勝負で勝ったお金を元にして………」


 読めない………。ミレの手の予想で一番可能性が高いのはスリーカード。だが、フォーカードという可能性も捨てきれない。


 降りるべきか?いや―――!!


 「そうですね。ではミレさんのためにも、ここはコールで資金を調達しま―――」


 「―――レイズ………。………10枚………」



 間髪いれずにさらに賭け金を吊り上げるミレ。くそっ!!2連続レイズだとっ!?完全に敵を見誤った!!真の敵は普段から完璧なポーカーフェイスを貫く少女、ミレだったかっ!?


 わざとコールを繰り返し、ゲームに馴染んでいないフリをしたのも、動揺したフリをして手を安く見せたのも、すべてがブラフだったというのかっ!?


 ポーカーフェイスとは、決して無表情を指すのではない。心情を表情に出すことすらも理性でやってのける奴の事を言うのだ。まさか、こんな身近に僕以上のポーカーフェイスの使い手がいたとは………。油断したっ!!


 これは完全に無理だな。ミレがこれまで静かにしていたのは、警戒されないため。そして、最後に畳み掛けるためだろう。


 今降りれば参加費も含め銀貨56枚の損失。だが、44枚は残る。再起を図るにも充分だ。これが34枚になれば、最悪賭け金が高くなれば常に全賭け(オールイン)を宣言しなければならない。

 くっ………。痛い出費だが、後で取り返そう。


 フォールを宣言しようとした僕は、その時あるものを目にした。


 暇だったのか、席を立ったレイラがミレの後ろからその手を覗き込んだのである。


 完全にマナー違反な行為だが、ミレは気付いていない。アレ?ミレはそういう気配とかには敏感な筈だ。前に見たダンジョンでの動きでも、最前列でトラップの探知や魔物の気配を探っていた。そういえばミレって、僕にこんなに流暢に話しかけてきたっけ?


 いや、むしろいつも誰かの後ろに隠れていた筈だ。それがわざわざ、短剣を買う話までして僕に揺さぶりをかけるか?


 これは………………。


 「―――コール!!」


 「―――っ………!!」


 僕の宣言に、ミレの肩が僅かに震える。


 「僕の手札はワンペアです」


 僕はそう言って手札を開く。


 悔しそうに表情を歪めるアルトリアさんと、驚くシュタール。アニーさんとレイラは、先のアルトリアさんの話通りなのでそこまで動揺はない。

 そして―――


 「………ブタ………」


 ミレの手札は、てんでバラバラの役無しであった。

 まぁ、あの時ミレの手札を覗いていたレイラが、かなり動揺してたからな。


 そもそも、強い手を持っているのにわざわざ僕がレイズ出来なくなってから2連続レイズをする必要なんてない。あれは最後に畳み掛けて動揺させ、フォールドを誘う作戦だったのだ。ミレ、恐るべし。


 こうして僕の元に、計145枚の銀貨が入ってきた。元々持っていた100枚にも損害はないので、合計245枚である。

 思わぬ心理戦で動揺したが、結果オーライ。っていうか、ミレはこれからも要注意だな。まさかここまで駆け引き上手だとは………。


 「………自信あったのに………」


 ガックリと肩を落とすミレに、ウェパルが寄り添って慰める。


 「んだよー!キアスもミレも、そんな手で勝負してたのかよっ!!」


 シュタールが呆れたように言って、僕らを見る。


 「降りたのはお前だ。つまりお前は、駆け引きに負けたのさ。例えどんな手でも………、は………?」


 シュタールが何の気なしに開いた手札は、エースのフォーカード。


 「何でお前は、その手札でフォールしてんだよっ!?」


 「いや、お前の手札が強そうだったから」


 「ストレートフラッシュだったってかっ!?早々出るわけねぇだろ、そんな役っ!!」


 「ファイブカードとか?」


 「ワイルドポーカーじゃねぇんだよ!!」


 ジョーカー入りのポーカーってややこしすぎて嫌いなのだ。


 「まぁいいや、次行こうぜ次!俺もようやくこのゲームの雰囲気が掴めてきたしなっ!!」


 「なんかすごく不安になってきた………」







 その後、僕のポーカーに対する認識は大きく揺らいだ。


 フルハウス5回。フォーカード4回。出ないと言ったストレートフラッシュが5回も出る、まれに見る乱戦。内ロイヤルストレートフラッシュが2回………。まぁ、それを1人が出しているのだから乱戦ではないか。




 こんなん運だけのゲームじゃないかっ!!





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