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 暴力的な食卓っ!?

 シュタールとしては、元々剣に文句があったわけではなく、ただ僕のコレクションに普通の剣が多くなったように感じていたらしい。


 メル・パッター・ベモーも、長さ以外は普通の直剣に見えるしな。これだってインド産だというのに。


 シュタールがパーティーメンバーに殴り飛ばされた辺りで僕も冷静になり、インドの奇剣コレクションを仕舞う。


 「キ、キアス………、俺の剣は………?」


 「あ?」


 地面に伸びたシュタールを見下すように睨み付けると、こちらに伸ばしていた腕が力なく地に落ちる。


 前に売ってやったジャマダハルでも使うんだな。あれは一対で使うのが基本だから、またもマン・ゴーシュの出番が減りそうだけど。

 短剣より片手剣を、と思っていた僕の親切心を無下にした報いだ。


 何より、刺突を目的とした実践用の刀剣って少ないんだぞ?西洋貴族が使っていた決闘用の片手剣では、こいつが使ったら簡単に折れてしまうことだろう。


 「フン」


 まぁ、シュタールの武装がマン・ゴーシュ以外はインド系ってのは僕の趣味が色濃く反映されてしまった結果だろう。あんまり押し付けるのも悪いし、次はちゃんとインド産以外も紹介してやるか。


 「すまないなキアス殿。

 それと私もチャクラムをいくつか補充したい。戦闘中、泣く泣く放置せざるを得なかったものがあって、10枚中3枚を紛失してしまった」


 ああ、投擲武器の一番のネックは、その武器の回収にあるからな。一度手元から離れてしまったものは、回収するのが酷く手間なのだ。他の武器とは比べようもなく消耗品である武器、それが投擲武器だ。勿論、例外はあるのだが、チャクラムはその例外には含まれない。マンガやアニメのように飛んでいった後戻ってきたりはしない。つーかそんな事になったら危なすぎる。

 あれから損耗が3、というのはむしろ少ない方だろう。大事に使ってくれているようで嬉しい限りだ。


 「チャクラムは安いので安心して補充してください。

 あ、別の投擲武器も見ます?投擲武器ならアフリカ系が良いですね。アフリカ系の投げナイフは形状も僕の好みのが多いんですよ。まずは―――」


 「―――い、いや、結構!!私のメインウェポンは武器ではなく魔法だからなっ!!」


 なんだ、残念だな。まぁ、確かにこれから紹介しようとした武器は、消耗品として見るにはややコストパフォーマンスが悪い。


 「そうですか、ではチャクラムは1枚銀貨10枚です」


 「うむ。銀貨10枚を安いと感じてしまうのは、少々金銭感覚が鈍っている証拠だな。とりあえず、20枚もらおうか」


 金貨を2枚、時空間魔法で取り出すアニーさん。何もない空間に手を突っ込んでお金を取り出す姿は、とってもカッコいい。いいなぁ、魔法。


 「キアス………、真面目な話、剣がないのは厳しい………。悪かったから売ってくれ………」


 アニーさんに箱入りのチャクラムを渡し、ついでにさっきのマジックアイテムの分の代金も支払う。

 惜しいな………、十八節鞭が売れたらこの時点で黒字だったのに。


 「キアス殿、私からも頼む。シュタールの武装がジャマダハル、ウルミー、マン・ゴーシュだけでは些か不安なのだ」


 計4振りだけど、ウルミーとマン・ゴーシュは戦闘向きじゃないからな。ジャマダハルが壊れたら、戦闘そのものが厳しいか。


 まぁ、アニーさんの頼みなら仕方がないか。彼女は僕の仲間でもあるしな。


 だが、こいつには僕のコレクションをバカにした罰もある。どうするか………。


 「そうですね。では今夜の食事会ではちょっとしたゲームをしましょうか。それでシュタールやあなた達が僕に勝てたらとっておきの一振りを破格でお売りしましょう。勝てなければ僕のコレクションではなく、売り物の剣を差し上げますよ。まぁ、メル・パッター・ベモーを研ぎ直す間くらいは持つでしょう」


 そう言って、横たわるシュタールに目を向ける。


 「お前もそれでいいか?」


 「おう!!負けねーぞ!!」


 以前コテンパンにされたのをもう忘れたのか、このアホは。







 「………この人を怒らせるなんて………。………君は、何てバカな事を………」


 ウェパル、ミレと合流し、僕、パイモン、シュタール、アニーさん、レイラ、アルトリアさんは、とあるレストランにいた。


 この街の特徴として、ダンジョン側の壁には窓があるのだが、商業区ではその窓は店舗とは反対側の壁にあるのが常だ。

 しかし、住宅街はその逆で、住居がダンジョン側にある。室内から日の光が拝めるように、という配慮である。

 そして、このレストランは商業区と居住区の丁度中間にあり、なんと店舗がダンジョン側にある稀有な店なのだ。まぁ、僕が最初からそうなるように造ったのだが。所謂デートで行きたいレストランである。壁一面の窓からは、夜のダンジョンと月明かりを取り込んで輝く天空迷宮を一望できる。


 「全くだぜ!!最初に見せてもらったあの剣だって、すんげーいい剣だったんだぞ!?」


 「いや、それは俺もそう思ったし、ちゃんと誉めただろ!?」


 「一番いけなかったのは『普通』という言葉ですわね。キアス様は『奇剣』のコレクターを自負なさっておいでなのに、普通と言われたら、それはムキになられるのも当然でしょう」


 「まぁ、元々キアス殿のコレクションを、無理を言って購入している我々としては、不用意に過ぎる発言だったな」


 「………………」


 「………………」


 ぴーちくぱーちく騒いでいる勇者パーティーを目の前に、僕とウェパルは絶句していた。


 奴等の目の前には、1人あたり3人前くらいの食事が並んでいるのである。ミレやレイラなど、小柄な方のメンバーにもだ。


 それが5人分。ちょっとしたパーティーが開ける量の食事がテーブルに所狭しと並んでいるのは、食事を半ばにした僕にとって、軽い拷問である。


 「………ご主人様、ウェパルはまだ食事の量が足りなかったみたいです………。中々太れないのもそのせいなのかな………」


 「いや、こいつ等を基準にするな。ウェパルはちゃんと、理想の体型に近づいている」


 そうだ。初めて会った時と比べれば、ちゃんと必要量のお肉は付いてきている。あの時は、こっちが泣きたくなるくらいガリガリだったけど、今はかなり細いってくらいには太ってきている。それは毎日お風呂で確認しているので間違いない。


 「キアス様、私もあれくらいは食べれますよ!」


 いや、パイモンは何を張り合ってんだよ?


 「ん、何だよキアス、今日も少食だな。そんなんじゃ大きくなれねぇぞ?」


 「お前らが食い過ぎなんだよ。それでよく女性陣の体型が維持できるもんだ」


 シュタールの言葉に買い言葉を返すと、一気に女性陣から冷たい視線を向けられる。


 「キアス様、貴方様ともあろう方が、それは少々デリカシーに欠けるお言葉かと」


 「………失礼………」


 「キアスさんは何でもかんでもカッコいいけど、ジョークのセンスはイマイチみてぇだな」


 「体型が細身であると誉めているのだとしても、『大食らい』とは女性に向けて言うべき言葉ではなかろう」


 おぉっと、一気に四面楚歌だ。この人達にこんなに敵意を向けられたのは初めてかもしれない。


 「ちょっとしたゲーム、だったか。楽しみにしておこう」


 「うふふふ。キアス様が涙目になる姿、というのも一度は見ておきたいですわねぇ」


 「………負けない………」


 「まぁ、アタシは別に思う事はねぇんだけどよ、でもまぁ、やるってなったら何事も本気でやるのがアタシの流儀だしな」


 期せずして、女性陣のモチベーションを上げてしまったようだ。


 「キアス、女と一緒に食事するって事は、ダンジョンの中よりトラップだらけなんだぜ?」


 「これからは心しとくよ………」




 地雷原に飛び込んでしまった僕は、とりあえず自分の食事を片付ける事に腐心する事にした。

 視線が痛い………。





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