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 挑発とプライドっ!?

 「んじゃ、俺の用も済ますか」


 アルトリアさんにレッグホルダーを手渡していると、シュタールがそう言って前に出た。


 「なんだ、お前も何か入り用なのか?」


 てっきり、アルトリアさんとレイラだけが用なんだと思ってた。


 「いやな、このメル・パッター・ベモーなんだけどよ」


 そう言って携えていたメル・パッター・ベモーを、剣帯から鞘ごと抜く。

 相変わらず長い。元は僕のコレクションだけど、僕が腰に下げてたら絶対に抜けないな。


 「ちょっと刃が潰れてきちまってな。普通の砥石じゃ全然研げねぇし、その刀工って奴に研ぎ直してもらえねぇか?」


 「はぁ!?」


 手渡されたメル・パッター・ベモーを鞘から抜いてみる。確かに切っ先の辺りの刃が潰れかけている。


 「おいおい、天下のオリハルコンだぞ?どんな使い方したら、こんな短期間にここまで消耗させれるんだよ?」


 勘違いして欲しくないのだが、オリハルコンとはあくまでも一合金である。魔法の金属で、絶対の強度があるわけではない。当然、使い続ければ刃も潰れるし、金属疲労だって溜まる。ただ、それが他の金属より遥かに起きにくい、というだけなのだ。

 性質で言うなら粘りが少なく、強固な金属である。対比してミスリルを語るならば、加工しやすく、軽量で、硬度もある金属といったところだ。


 「いやぁ、毎回魔物に囲まれた時に突っ込んで蹴散らしてたら、いつの間にか………」


 「お前、そんなんで今まではどうしてたんだよ?この剣でこれなら、他の剣なら一回でダメにしちゃいかねないだろ?」


 「ああ、他の剣を使う時は剣の負担にならないよう、かなり手加減して使ってた」


 まぁ、こいつのステータスを鑑みれば、普通の剣が合わないのはわかる。おまけに魔法かなんかで底上げされれば、この剣でも耐久力が足りないのか。


 「わかった。研ぎ直しと耐久力を高めるよう言っておく」


 オリハルコンの強度に慢心して、ちょっと鋭く研ぎすぎたきらいがあるからな。普通の剣ならば、巻き藁を斬っても刃が欠けかねないくらいに。


 「悪いな。そんでさ、その間の代わりの剣も買いたいんだが」


 「買いたい、ね。確かにこれを見せられたら貸し出しは断固として拒否したいな。とはいえ、オリハルコンの剣が買えるほど金はないだろ?」


 「ああ。冒険者組合までいけば、残りの天帝金貨も引き出せるんだけどな」


 銀行機関としてこの世界で一番優秀なのは、冒険者組合と商業組合である。何が優秀なのかと聞かれれば、預けた場所と違う場所でもお金が下ろせる事だろう。

 まぁ、商人の財政状況を把握するために作られたのが商業組合らしいし、冒険者が派遣先でも困らないように、冒険者組合があるのだから当然とも言える。


 勿論、商業組合や冒険者組合に所属していない人の為に民間の銀行組織もあるのだが、そのシェアは狭く、隣町ですらお金が下ろせないのが普通だ。


 「だったら白金貨5枚くらいの、そのマン・ゴーシュ並の剣にしとくか?」


 「だなぁ。ちょっと決定力が下がるがしょうがねぇだろ」


 普通の鋼製の武器か。出来れば片手剣が良いよな。マン・ゴーシュもあるし………。


 「じゃあこれなんてどうだ?」


 僕が取り出した剣。

 柄が特徴的な剣。杯型の柄頭に15㎝程の太い針のような突起が飛び出し、鍔と繋がるハンドガード。120㎝程の直剣だが、片刃である。しかし、3分の1程は両刃であり、直剣の特徴である刺突も可能。こういった半両刃の剣というのは意外と多く、海賊でお馴染みのカットラスや、日本の小烏造りの刀剣もまた、半両刃と言える。


 因みに、外観が西洋剣っぽいが、原産地はインド。名をフィランギという。


 「どうだ?」


 「相変わらず、国宝レベルの名剣がポンポン出てくる奴だ。白金貨5枚って、剣として破格の値段なのに、これを見ちまうと逆の意味で破格だと思えるから不思議だよ」


 フフン。僕にかかればこのくらい造作もないさ。


 「だけど、なんか普通だな」


 ………………あ゛?


 「お前のコレクションにしては、見た目も中身も普通だよなコレ?柄頭の針が特徴と言えば特徴だけど、それ以外は至って普通だ。


 お前、奇剣コレクターなんだよな?」


 このクソ勇者………、言って良い事と悪い事の区別もつかねぇのか?


 確かに、奇剣の宝庫とも呼べるインドにおいて、この剣はかなり普遍的だ。だがそれは、あくまでも西洋の影響を受けて出来た剣だからであり、直剣でありながら片刃、ハンドガードという、彼らに無かった技術を取り入れようとした試行錯誤の結果なのだ。フィランギという名も、『外来品』という意味があり、インドの人達の剣に対する貪欲さが目に見える一品だろう。


 わからないなら、わからせてやろう。天竺の偉大さを。


 「………チョーパー。決まった形はないが、鎌に似た特徴を持つ。柄頭に動物の骨で出来た、刃に対して直角に鉤状の突起を持つ」


 チョーパーを取り出す。その異様な姿に、シュタール以外の面々は驚きの表情を浮かべる。剣と言えば直線か湾曲したものを思い浮かべる人にとって、この剣は想像の埒外にあるのだろう。

 大きく沿った刀身と、四角い切っ先。刀身全体がS字、というより稲妻型で、所々に鋭利な装飾が施されている。

 紀元前から18世紀まで、多くの人に愛用されたインドの伝統的な刀剣である。


 「………ビチャッワ、刀身を平行に2枚重ねた短剣。刃は弛いS字。ハンドガードもある。

 ………バンク。僕の持つショテルのように、引っ掻けて斬る鎌状の短剣。

 ………ピチャンガティ。包丁のような外観の短剣。切っ先は両刃。

 ………プルワー。馬上戦闘に優れた片手剣。湾曲した刀身と、切っ先は同じく両刃。両端が上向きの鍔と柄頭の突起が特徴的だ。

 ………パティッサ。切っ先が幅広く、鍔元へ向けて細くなる刀身が特徴的な片手剣。刺突には向かず、叩き斬る用途で使う剣だ。柄頭に特徴的な突起がある。

 ………ソースン・パタ。刀身が『く』の字を描く、刺突、斬撃両方に使える片手剣………」


 「―――キ、キアスさんっ!!シュタールの失言についてはアタシが謝るからっ、落ち着いてくれっ!!」


 「私からも謝りますわっ!!本当に申し訳ありませんっ!!」


 「私からも頼む!!コイツには後で言って聞かせるから!!」


 レイラ、アルトリアさん、アニーさんが慌てて僕のインドの奇剣コレクションの説明を遮る。

 こうして並べてみると壮観だな。


 流石インド。流石天竺。


 「短剣が多いな。説明も『S字』とか『くの字』とか、よくわかんなかったし」




 よろしい。戦争だ。





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