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 多節鞭の使い方っ!?

 笑顔のまま固まっているアルトリアさんから、僕は十八節鞭を受けとる。


 やっぱり絶対扱いづらいよな、この武器。自由自在に使える武術家の人は凄いよ。


 「お、お待ちくださいっ!!」


 踵を返そうとする僕を、追い縋るようにアルトリアさんが止める。


 「私は何かお気に障るような事でもしたでしょうかっ!?そうであるならば仰ってくださいましっ!!」


 「ああ、いえ、別に意地悪で渡さないって言ってるわけじゃないんですよ?ただ、あなたにはまだこの武具は扱えないというだけです。むしろ、この武器で援護とか、前衛の人が危険ですのでお渡しできません」


 アルトリアさんはこの十八節鞭を、ただ鞭として扱っている。勿論、これまでそれで仲間に被害を出さなかったというのは、それだけ鞭の扱いに熟達していたという事に他ならない。それは素直に凄いと思う。


 だが―――


 僕は手に携えた十八節鞭をもう一度見る。ミスリルの棒が19本。丁寧に間接部分を造り、より滑らかに、より扱い易くと造った僕の十八節鞭。




 ―――だがこれは、鞭ではないのだ。




 鞭と多節鞭には大きな違いがある。鞭はしなりを利用して痛みを与える物。厳密には『武器』ではなく、『拷問具』である。

 そして、多節鞭とは『鞭』の字を使ってはいても、あくまで打撃武器。多節棍なのだ。つまり、しなりではなく遠心力を使った攻撃を主とする武具であり、アルトリアさんの使い方ではこの武具を十全に扱えているとは言い難い。


 よくもまぁ、あれで今まで九節鞭を使えたもんだ。

 まさか、この多節鞭を本当に鞭のように扱って、地下迷宮で魔物と戦っていたわけではあるまい。だとしたらそっちの方が驚異だ。大リーグボール養成ギプスを着けたまま、大リーグに殴り込むような縛りプレイだろう。鞭のように扱うなら、鞭を使ったほうがいい。


 地下迷宮は正真正銘上級者向けのダンジョン。鞭のように動かない鞭を使っていれば、いつか痛い目を見た事だろう。


 生兵法は大怪我の元である。


 「キアス様………」


 まるで捨てられた子犬のような情けない声にそちらを見れば、相変わらず縋るようにこちらを見るアルトリアさんがいた。


 全く………、これならさっきのだらしない表情の方がましだっての。

 こういう時のアルトリアさんって、ちょっと反則だと思う。普段はアレのくせに、普通に可愛いじゃないか!!


 くそっ!僕が好きなのはお姉さんタイプだ。こんな手間のかかるお姉さんは、僕の好みじゃない。


 「ちょっと待っててください」


 そう言って僕は店の奥に引っ込む。はぁ………。何で僕は勇者パーティーに弱いんだ。


 あ、魔王だからか?







 「えっと………、キアス様?」


 突然ここまで連れて来られたパイモンは、状況が読めずに困った表情で辺りをキョロキョロ見回している。

 まぁ、勇者パーティーとはアドルヴェルドに乗り込んで以来だし、あの時はずっと兵士に変装させていたからね。因みに今は人間(女)モードだ。


 「またエラく美人を連れてきたなぁ、キアス!!」


 「うっせ。彼女は行商中、僕の護衛を勤める1人、パイモンだ」


 茶化してくるシュタールをあしらってパイモンを紹介する。アニーさんは知っているが、他は前に紹介しなかったので。


 「「あ、あの………、キアス様………?」」


 アルトリアさんとパイモンの当惑する声が、見事にハモる。


 「パイモン、この十八節鞭、ちょっと振ってみてくれ」


 そう言ってさっきアルトリアさんから受け取った十八節鞭を、今度はパイモンに手渡す。


 「じゅ、十八節ですか………?節棍は三節までしか扱った事がありませんが………」


 まぁ、普通はビビるよなぁ。まず、その扱いづらさに。


 「軽くで良い。出来なきゃ出来ないでも良いよ。それはパイモンにも出来ないっていう、難易度の証明にもなる」


 「はぁ………」


 納得しかねるように首を捻りつつも、先程のアルトリアさんと同じように街路まで出るパイモン。


 通行人を確認し、安全を確認してからパイモンが十八節鞭を構える。


 持ち手となる端の1つと、節鞭の中間を持って前面に突き出すような構えだ。

 そのまま、節鞭の先を一回し。ヒュンと風を切る音が鳴ったかと思うと、たちまち節鞭の姿すら見えないような速度で、パイモンの周りをヒュンヒュンという音だけが乱舞し始める。


 鞭の部分を掴んで小さな回転、端を持って大きな回転、横、縦、斜め。節の多さは動きの自由度であり、九節鞭程になれば殆ど自由自在な動きを可能にすると言って良い。だが、熟達すればする程その動きは変幻無双。打撃武器でありながら1人で多人数に迫られても問題ない鉄壁をも築ける武具なのだ。因みに、僕の知識では、最大36節の物まであるらしい。


 つまり多節鞭、または多節棍は、円運動による高速かつ広範囲な面攻撃を可能とする武具なのである。


 シャン!


 と最後にもう一度小さく一回りさせて、パイモンの演武は終わる。


 その頃には、少なくない通行人がパイモンの演武の見学のため辺りを取り囲んでいたので、終了と同時に拍手喝采が鳴り響いた。


 「カッケー………」


 「うむ、見事だ」


 レイラが呟き、アニーさんも感心するように頷いている。シュタールは観客に混じってただ楽しそうに拍手していた。


 「どうだい、アルトリアさん?」


 「………お恥ずかしい限りです………」


 まぁ、使い方の説明をしなかったのも悪かったし、その前のレイラを見て、この人達は何でも出来ると勘違いしてこんな物を持ち出したのも悪い。

 つまりは全部僕が悪いんだけど。


 アルトリアさんは魅入られるようにパイモンを見ている。

 おや、これはパイモンに惚れちゃったかな?女同士だけど、パイモンってヅカっぽいからなぁ。女子高だったらマジ告白が相次ぐレベルで。


 「やはり、節が多すぎて扱いづらいですね。私もまだまだ修行が必要です」


 「いや、見事だったよ。ありがとう」


 戻ってきたパイモンが、十八節鞭を僕に返す。僕がお礼を言うと、一瞬嬉しそうにはにかむものの、すぐに表情を引き締めて首を振った。


 「いえ、全然速度が足りません。あの程度なら三節棍の速度。重さと長さが無い以上、もっと速く操れねば使い物になりません」


 自分に厳しいねぇ。まぁ、棍術はパイモンの得意分野であり、ド素人の僕に言える事なんて無いんだけど。


 さて、これでアルトリアさんも諦めてくれたかな?


 アルトリアさんの熱い視線は、今度は僕に向いていた。いや、正確に言えば僕の手元、そこにある十八節鞭へと注がれていた。


 「アルトリアさん?」


 「………キアス様………、いつになるかはわかりません。もしかしたら生涯辿り着けぬやも知れません。

 ですが、私はその十八節鞭に相応しき使い手となってみせます。今は無理でもいつか必ず、必ずや………っ!!


 ですから―――」


 はぁ………。


 バカな子ほど可愛いって言葉は、箴言だと思う今日この頃です。


 ホント、勇者パーティーってのはやりづらい………。




 「ご予約、承りました」





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