武器商人と天才っ!?
「キ、キアスさん!!」
「キ、キアス様っ!!」
勢い込んでレイラとアルトリアさんが、シュタールの後ろから身を乗り出した。
「アタシの(私の)武器を!!」
完全にシンクロして話し始めた2人に、僕は冷や汗を流しつつ一歩身を離す。
「落ち着いてください、2人とも。ご用件は1人ずつ、ちゃんと伺いますから………」
シュタールの仲間の中でもキャラブレの著しい2人に詰め寄られ、百戦錬磨を自負する交渉において、僕が遅れを取りそうになる。まぁ、アルトリアさんは一時期から一貫しているから、ある意味ブレてないんだけど………。
「失礼しましたわ、キアス様。キアス様の御前だというのにお恥ずかしい………」
いや、そうやって頬を赤らめて恥じ入る姿はどこぞのお姫様のように可憐だけど、騙されないよ?
「私の用件は少々込み入っていますので、まずはレイラからどうぞ」
「ん?アタシからで良いのか?」
「ええ。別に早い者勝ち、というわけでもありませんから」
「まぁそうだな。サンキュー、アルトリア!
で、キアスさん!金も貯まったし、キアスさんにも会えたしで、前々から欲しかった圏を買いてえんだ!!」
喋り方が元に戻ってるな。まぁ、あの「〜ッス」は違和感が半端なかったからその方が良いか。第12魔王と被るし。
「そういえば前買えなかったっけね。形の要望は?」
圏という武器は、その形のバリエーションが豊富なのだ。基本的にはただの鉄の輪だが、リングの外側に刃を付けた『乾坤圏』や、リングの周りに棘のある『金剛圏』、リングの内側に月牙状の刃を付けた『風火圏』などがある。以前レイラに見せたのがこの3種類。この内、マルコに渡したのが金剛圏で、いずれ専用の武器を作る為、使い勝手の塩梅を色々な圏を造って試している。
ストックにあるのは12種類くらいか。
「前見たあの棘の奴が良いぜ!!トンファーだと、決定打に欠けるときがままあるからよ、あの棘でぶっ刺せれば楽だろ?」
「うーん………、『打撃』と『刺突』では戦い方が大きく違うよ?その話し振りじゃジャマダハルはあんまり使っていないんだろう?」
「う………、ああ。拳を繰り出すつもりで使ってみたんだけど、やっぱりあれは『剣』っていうカテゴリーなんだと痛感した………。ギミックがある分手入れも面倒だし………」
「確かに。よく考えたらレイラに渡した武器って、対人兵器ばかりになっちゃってたね。あの時、魔物との戦闘を念頭に置いてって話だったのに」
「ああっ!!いやっ!!キアスさんのせいじゃねぇんだぜ!?
アタシもあん時は色々テンパってたし、魔物用に出された圏を候補から外しちまったのもアタシだ!!
何より、どれも性能が良いからダンジョンでも大助かりだって!!」
何やら焦って言い募るレイラから視線を外し、彼女に合う圏を考える。
「そうだな………、レイラって力強いよね?」
ドワーフだし、でなければ手甲で相手をぶん殴るなんて戦闘スタイルにはならないだろう。
「ああ!ただ、細かい技とかは苦手だぜ!」
「じゃあ、これなんてどうだい?」
「うぉ、デカイなっ!!」
僕が取り出したのは、僕が造った今までの圏より1.5倍くらいの大きさの圏。まず普通の圏より一回り小さな直径20㎝程の円環があり、それに重なるように今度は直径70㎝程の円環がある特殊な圏。
『乾坤鳥亀圏』である。
外観はアレだ、雪ダルマを想像してくれれば分かりやすい。大きな方の円環には棘があるけどね。
「カッケー………」
「だろ?ただ、大きさに併せて重量も重くなってる。いくらレイラが力自慢でも、体重が軽いから下手をすれば重量に振り回されるぞ?」
僕やマルコがそうだった。メッチャ格好良いし、大きな圏ってやっぱりロマンなのだ。ゲームみたいにやり過ぎたのは嫌いだが、これくらいの大きさならまだ許容範囲と言える。
しかし、見た目を重視したあまり、軽量級選手には少々厳しい武器となってしまったのが残念な逸品である。僕より背が低く、体重も軽いであろうレイラには向かないのだが、とりあえずは物は試しと出してみた。
というか、コレクターの性として、コレクションを自慢したかったのだ。
―――だが、
「おおっ!!確かに重たいけど、振り回すには良い感じだぜ!!体が振り回されんのは、慣れれば何とかなっし!!」
乾坤鳥亀圏を手に取り何度か上げ下げをした後、レイラは突然跳び上がり、空中でくるんと回転してから遠心力を使って圏を降り下ろす。直線で拳代わりに圏を振るのではなく、重量を利用してむしろ振り回して使うのか。縦だけでなく横にも振る。最初は重量に振られた印象もあったが、2回目からはその重量すらも利用した動きで、クルクル回るように圏を振るレイラ。
その発想はなかったな。重いと言っても何十㎏もあるわけじゃない。振り回しても、完全にバランスを崩す前に敢えて自分から重量に振り回される事で、遠心力を利用して動くのか。慣れてくれば、思うように素早く動きつつ、重い圏を扱えるかもしれない。
っていうか、トンファーの時も思ったけど、初めて扱う武器に慣れるのが早すぎるだろ。
シュタールが、レイラの順応ぶりに驚愕する僕に耳打ちする。
「レイラは自分じゃ不器用だと思ってるけどな、事戦闘に関しちゃ天才なんだよ」
「天才?」
「ああ。型とか流派とか全く知らねぇのに、真大陸じゃ魔法無しの無手なら最強だと思うぜ。勿論、勇者含めてな。自分の体の動かし方をあらかじめ熟知してるつーか、とにかく臨機応変っていうか、変幻自在っつーか」
成る程。そりゃあ確かに天才だ。
自分の体を理想通りに動かす、というのは実はとても難しい。それが簡単にできるのならば、スポーツの練習なんて筋トレだけしてれば良いのだ。
スポーツでも格闘技でも反復練習を行うのは、つまりは理想の動きに近付くためであり、何万、何十万と繰り返したからとて完璧というものはあり得ないのだ。
それが最初から出来る彼女は、確かに天才の呼び名に相応しいだろう。
「これにするぜキアスさん!!
さっすが、アタシの惚れ込んだキアスさんだぜ!!」
「ああ、うん………」
どうしよう………、本当は売るつもりは無かったんだけど………。でも、今さら返してとは言えないし、なによりあんな台詞まで言われてしまってはそんな情けない姿は見せられない。
「よし!!本当は他の圏よりちょっと高いんだけど、金貨30枚!!同額で売ってあげよう!!」
他の圏より高い分の値段は、僕の嗜好的な美術価値だしね。何より、僕の場合乾坤鳥亀圏を新たに造れば良いのだ!!もっとカッコいい奴を!!
そうだ!そうなのだ!だから失敗じゃない。失敗じゃないぞ!?
「くぅ〜!!その剛毅さもカッケーぜ!!
あ、そうだ。ミレも言ってたんだけど、アタシ等みたいに両手で武器を使うのには、この何でも入るレッグホルダーは一個じゃ足りねぇんだ。できれば両足に着けたいんだけど、商品に余裕があったら譲って欲しいぜ?」
レイラはそう言って、グリーブの太もも辺りに巻き付けたレッグホルダーを僕に見せる。
確かに、1つしかないと両手で装備するのが大変そうである。両足にあれば便利だろう。
「でもレッグホルダーは高いよ?何せマジックアイテムだからね」
「そっかぁ〜。ま、痛いけどしゃあねぇ!!2つくれぃ!!」
値段も聞かないとは、レイラの方こそ剛毅な買い物をする。
「じゃあレッグホルダー2つで白金貨4枚、乾坤鳥亀圏が金貨30枚だ」
「やっぱたっけーなぁ!!だけど値段だけの価値があるからな!!」
そう言って、懐から財布を取り出して代金を支払うレイラ。
っていうか、いつもそんな大金持ち歩いてんの?
「いやー、いつキアスさんに会ってもいいように、全財産持ち歩いてて良かったぜ!!」
危なっ!!ちゃんと貯金しようよ?あ、この町って銀行機関が無かったな。商業組合か冒険者組合、早く進出してきてくれないかなぁ………。




