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 (笑)

 「駄目だな………。やはり魔法は使えない」


 「………ん………」


 俺たちは魔封じの紋の部屋で、とりあえず休憩をとっていた。ただの通路を扉で区切っただけのようなただの広い空間で、思い思いに疲れを癒している最中である。俺の近くには、アニーとミレがいて、それぞれこの部屋の考察を述べている。

 この部屋の中は、あの牢と同じで魔法やここのマジックアイテムが使えない。その代わりと言ってはなんだが、トラップらしいトラップがないのは救いか。


 「魔力と体力の回復だけならば問題ない。魔法による傷の治療ができないというデメリットはあるが、我らに深手を負ったものはいない。比較的安全な部屋だと思っていいだろう」


 「………出口の扉にも、紋以外は罠はない………。………出てからはわからないけど………」


 アニーとミレがこの部屋の危険性を説く。確かに、魔物に追われて入った部屋で傷の治療が出来なかったら困るだろう。幸い、今のところ皆無傷なので問題はないが、これが仲間の誰かが大きな傷を負っていた場合、素通りせざるを得ない。そしてまた、あの魔物との戦闘を繰り返すハメになる。俺たちの場合は、この部屋を出た直後でも指輪や腕輪で脱出は可能だが、これが侵略者だったらそうはいかないだろう。


 仲間の傷も癒せず、さりとて外に出るわけにもいかず、休憩の間も仲間の苦しむ姿を見なければならない。それがどれだけのストレスか、考えるだけでも嫌気が差す。

 信頼の迷宮や困惑の迷宮で、散々こちらのチームワークを試し、その絆を強固にしてからの、この罠………。やっぱり性格が悪い。


 「………でも………、………これからは注意が必要………」


 「注意?」


 ミレがいつもの無表情で告げた言葉に、俺は首を捻る。


 「ミレが言っているのは、この魔封じの部屋とトラップを併用される危険だろう」


 「………ん………」


 ミレに代わってアニーが説明してくれる。


 「シュタール、これまでのダンジョンを見て、トラップに2つの傾向があるのには気づいているか?」


 「2つ?安全な罠と、危険な罠って事か?」


 俺の返答に、アニーは首を振る。


 「それはあくまでダンジョンの深度によるものだろう。信頼の迷宮のような安全なトラップが、ここ地下迷宮にあると夢想するほど楽観するのは間抜けだけだ。

 そうではなく、トラップに魔法が使われている物と、そうでないものだ。魔法が使われているのは、さっきお前達の話題に出ていた転移罠等がそうだ。これは回避が難しい分、あまり危険な物は少ない傾向にある。

 単純な4属性の魔法は防御も容易いからな。

 だが、魔法が使われていないトラップの方は危険極まりない。針山、釣天井、落とし穴、不用意に嵌まれば命すら危うい。

 さらに、この迷宮の入り口にあったようなその構造がわからないトラップも無数にあるだろう。こちらはギミックがあるので解除と回避が容易いのが唯一の救いだが、もしこの部屋にそれがあれば………」


 成る程。ミレとアニーが何を言いたいのかわかった。ここはひとまず安全だが、だからって他の部屋が安全だという保証はないと。しかも、それらを回避、解除するには魔法が使えない。

 確かにヤバイな………。

 ミレのおかげで俺たちはトラップを回避できてはいるが、これから部屋に逃げ込む時は細心の注意と、リスクと自分達の状況を天秤にかけないといけないわけか。余力がある状態なら、できるだけこんな部屋にはいたくないからな。


 しかし、そうなると安全な保証もない次の部屋を魔物と戦いながら探さなくてはならない。さらに、今回みたいに切羽詰まっている場合は入らないわけにはいかない。この地下迷宮では常に戦闘を繰り返さないと進めないのだ。魔力と体力、武器や体の状態いかんでは、入りたくもない部屋に入らなくてはならないだろう。


 ここで忘れてはならないのは、魔物が入ってこない部屋が必ずしも安全ではない、という教訓である。


 これからは入った先が、魔法も使えずトラップのある部屋である可能性があるのだ。


 「………はぁ………。疲れんな………」


 「どうする?一応、ここを出てからなら帰還の腕輪も使えるだろうが、帰るか?」


 「一応目的は達したし、あんまり根を詰め過ぎてもアレだしな。やっぱりここを出たら一旦帰ろうぜ」


 「そうだな。扉を見る度に疑心暗鬼に陥るには、我々の消耗度合いは看過できない域だからな」


 結局はここで一休みしたら、一時帰還することになった。これからの探索は、ホント気を使いそうだからな。


 扉を出た所にあった落とし穴に嵌まりかけ、扉を出てもその付近では魔法が使えないとわかった時は、本気で魔王に殺意を覚えた。

 性格悪すぎなんだよっ!!







 「アニー、ちょっと魔王の野郎を討伐しに行こうぜ?」


 「やめろ。なにを爽やかに笑いながら宣言しているんだ、お前は。無闇に第13魔王は刺激すべきではない」


 ようやく広場まで戻ってきた俺は、人心地つく思いで魔王へ呪いの言葉を吐く。

 とはいえ、ただの感情論でここの魔王を倒す気などはとうに失せているので、軽口の類いだ。生きていてもらった方が、俺も他の冒険者も潤うってもんだ。


 「お、ポゥ達が困惑の迷宮に入ったみたいだぜ?」


 「む、本当だな。信頼の迷宮と困惑の迷宮は難易度が段違いだから、無理をしていなければ良いが………」


 冒険者ってのは、何だかんだで功名心の塊だからな。『迷宮レコード』の2位になったからって調子に乗って無理をすればあっさりと死んじまう可能性だってある。特に、ここみたいに曲がりなりにも命の保証があれば尚更。後で注意しとくか。


 「しかし………」


 俺は呟いて、石碑に刻まれた俺達のパーティーの名を見る。


 「(笑)ってどういう意味なんだ?」





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