はじめての襲撃っ!?
なんでもないかのように、その日は普通に始まった。
眠い………。
でも、集団生活を営んでいる以上、ダラダラ寝坊なんてしてられない。
1、2時間くらいしか寝ていない頭で、オーク達の報告なんかを聞く。
「キアス様からの要望通り、掃除と塩の運び出し作業は滞りなく終わりました。つきましては、この周辺に畑を作る許可を貰えたら、手の空いている者も仕事ができますし、野菜も食べれます。いかがでしょうか?」
「ぅん?んん………。いいんじゃない?」
「ではそのように」
オーク達との会議は、このように順調に進んだ。
眠すぎて、言われることに頷いていただけなんだけど。
その他、小さな雑事を済ませれば、残っているのは昨日の続きである。
鍛治場に入った僕は、とりあえず11振りの槍を作る。
オーク達の武器だ。
あいつ等、粗末な武装しかしてなかったからな。
今回作ったのは、単純な穂先の槍だけど、その内色々アレンジしていきたいな。
そして、平和な時間は唐突に終わりを告げた。
真っ先に気付いたのはアンドレだった。
『っ!マスター!!侵入者です!!』
突然の、アンドレの焦った声に、僕はスマホの画面を確認する。
そこに映っていた名前に、僕は―――
【魔王】2匹
―――。
言葉にならなかった。
初めてまともにダンジョンに侵入したのが、よりによって魔王だとっ!?
順番ってものがあるだろ!!最初は幹部に仕える雑魚とか、四天王最弱のヤツとかだろ?なんでよりもよって魔王!?それも2人!!
「アンドレ、相手は今どの辺りだ?」
『長城迷宮です。ただ、明らかに突破のスピードが異常です!!』
クソッ!あの迷宮は足止めが出来なければ、なんの意味もない。
「急ぎ、信頼の迷宮の次を造る。突破までどれくらいだっ!?」
パイモンとオーク達にも、事態を説明しないといけない。僕は急いで鍛治場を後にしながら、アンドレに尋ねる。
『長城迷宮突破まで、なっ―――』
しかし、アンドレが絶句すると同時に、地上を猛烈な砂煙が覆い、僕の足も止まってしまった。
「やあやあ、キミが新しい魔王かい?」
そいつ等は、空中にも関わらず、ピタリと制止しながらこちらを見下ろしていた。
見ただけでわかる。
コイツ等は異常だ。
紫の肌に、2本の金色の角。銀髪を靡かせ、漆黒の衣装に身を包む、美女。
男物のシャツとベスト、ハーフパンツ姿の少年とも少女ともつかないもう一人には、漆黒の翼が4枚、背中から飛び出していた。
だが、こいつ等の異常さは、その姿などではない。
ただ立っているだけで、圧倒されてしまうほどの威圧感をこちらに放っているのだ。
パイモンに『強そう』だと感じるのとは違う。
『強さ』そのもの。
人間が、象に素手で勝てないように、彼らには勝てない。自然とそう思わされた。
「うふふふ。そんなに警戒しなくていいよ。ボク達がここまで来たのは、キミを見ておきたかっただけだから」
黒い翼の方が、にこやかにボクに笑いかけながら、ゆっくりと降りてくる。
どうする?
相手は魔王が2人。神様から貰った恩恵は、確かに強力でも、こんな奴等に通用するのだろうか?
しかも2対1だ。
いや、しかし、相手は別に戦いに来たわけではないらしいし、できれば僕も戦闘は避けたい。
でも、信用できるのか?
なんたって魔王だぞ?僕もだけど。
なにより、どうしてここに来たのか、どうやってここまでたどり着いたのか、は絶対聞いておかなければならない。
前者は状況を理解するために。後者は2度とこんな突破を許さないために。
「ボクは第2魔王、タイル・ジャーレフ・アルパクティコ」
地に降り立った、黒い翼の方、タイルがにこやかにそう名乗る。
「それで、こっちがエレファン・アサド・リノケロス。美人さんだろ?
よろしくね、第13魔王君」
「僕はアムドゥスキアス。先日13番目の魔王として生まれた新参だ。
こちらこそ、……よろしくたのむ」
そう言って、タイルと握手を交わす。エレファンの方は、何の感情も浮かんでいない無表情で、じっと僕を見ている。
僕はこうして、世界最強の存在と出会った。