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 ガールズトーク

 母上からの折檻を終えてリビングに戻ると、キアス様が立ったりしゃがんだりを繰り返していました。


 「ろ、627………、628………っ。ア、アンドレ、も、もう限界………」


 『この世界の標準的成人男性(冒険者限定)ならば、その倍は平気のへいざでこなしますよ。少しは努力なさい』


 状況が一向に読めませんが、どうやらこれはキアス様なりの鍛練のようです。ならば妾が口出しすべき事はありません。


 「レライエ、キアスは何をやっておるのじゃ?」


 「妾ごときでは察する事も出来ぬお考えがあるのでございましょう。さ、母上、湯殿で汚れを落としましょう」


 「むぅ、キアスと一緒がいいのじゃが、まぁ、あまり我が儘を言うても嫌われかねんしの」


 「ご立派です」


 既に手遅れではありましょうが。


 はぁ………。


 それにしても、今回は大失敗でした。

 確かに、妾はあの第6魔王のような輩は蛇蝎よりも嫌いです。父上を暗殺したあの魔族を想起させるからか、見ているだけで虫酸が走ります。


 しかし、まさかキアス様から与えられた職務をなげうって、さらには同じような策謀に走ろうとは………。いくら猛省しようとも、自らを許せそうにありません。


 幸い、と言ってはなんですが、第10魔王のクルーン様が妾の抜けた穴を補ってくれるらしいのです。しかし、キアス様の領地管理は、他の支配地域よりもかなり厳格で、その分仕事が多いのです。正直を申せば、些か以上に心配です。


 クルーン様ごときが、あの重責に耐えられるものでしょうか?


 はぁ………。つくづく今回の短慮は妾の生涯最大の過ちのように感じます。


 クルーン様がミスをすれば、その穴埋めはキアス様がなされるのでしょう。あの方は時に無理をしすぎるきらいがありますから、それで御心労を重ねる事にならねば良いのですが………。


 心配です。あの方はご自分で自覚されている以上に苦労を抱え込む方ですから。一応、パイモンやアンドレ殿に言い含めて………。いえ、アンドレ殿はややキアス様に厳しすぎる方ですから、やはりここはパイモンに。しかし、パイモンもキアス様には強く出られぬ気質。あぁ………。体が2つあれば良いのに………。


 「レライエ、あのような心臓に悪い真似は、もうやめてくださいね」


 「ご心配をおかけして申し訳ございません、パイモン。本当に、ごめんなさいね。だから泣かないでくださいまし」


 「な、泣いていませんよ!!」


 「いえ、泣きそうなお顔でしたので。涙目でしたし」


 「………やっぱり許しません」


 大浴場では、パイモン、フルフル、エレファン様、タイル様と合流しました。母上の話では、エレファン様とタイル様は妾の離反騒ぎにも泰然自若というよりは、我関せずの姿勢を貫いたそうです。


 キアス様のお話を聞く限り、友好的な関係を築けてはいるようですが、彼女達が興味があるのはあくまでキアス様ご本人のようでございます。


 魔王と魔王のご関係であれば、それでも良好な関係と言えるのでしょうが、我々キアス様の腹心としてはあまり全幅の信頼を置くわけにはいきません。


 「パイモン、妾はしばらくキアス様の元を離れねばなりません。本心では貴女に頼みたくないのですが、キアス様の事、よろしくお願い致しますね?」


 「言われるまでもありません。キアス様にいただいたこの名に賭けて、必ずや!!」


 「キアス様は目を離すとすぐにご無理をなさいます。常にお体を気遣ってあげてくださいね?」


 「はいっ!!」


 目下最大のライバルであるパイモンにこんな事を頼むのは、妾としても苦渋を舐めるような思いです。しかし、他に頼れる者もいないので仕方がありません。


 「のうレライエ?」


 幼子のような姿の母上が、妾を見上げて問いました。


 「貴様は、よもや本気でキアスを好いておるのか?」


 「はい。故に、妾は最早母上とキアス様の仲を取り持つつもりはありませんので悪しからず」


 「むぅ、まぁそれは良いがの。貴様がキアスを好きになったのならばその役目も酷というもの。助力などなくとも、我はキアスを落としてみせよう。しかしのぉ、貴様は我以上に恋愛ベタそうであるからの」


 「なっ!?」


 心外です!いくら母上とはいえ、いいえ、母上にだけは言われたくありません。あのような野生の獣のような求愛しか出来ぬ母上よりは、妾の方が幾分ましと心得ます!!


 「フン。いっつも小難しく物事を考えておる貴様には、情欲が感じられんのじゃ。突き上げるような感情に動かされ、勝手に体が動く。そんな経験はないであろう?」


 「その結果があの醜態ではありませぬか!?結果、距離を置かれている以上、従順で淑やかにキアス様に寄り添う妾の方が、キアス様は好いてくれているはずです!!」


 「カカカッ!!笑わせおるわ小娘!!この、身を焼くような情熱こそが恋ぞ!!貪欲なまでに相手を欲す想いこそが愛ぞ!!」


 「いいえ!!相手を尊敬し、敬慕することこそ恋。その身を支え、例え僅かでもその方のお力になりたいと望む心こそ愛だと妾は思います」


 「ハッ!そんな卑小な想いが伝わるものかっ!!いや、伝え方を誤れば目も当てられんぞ!?


 貴様、よもやまだキアスに己の想いを打ち明けていないのではないか?」


 「は、母上には関係ありません!」


 「甘い。甘いのぉ。キアスのあの堅さでは、想いを伝えただけではスタート地点に立つようなものぞ。しかし貴様はそこにも立っておらぬ!!


 キアスは今はまだ生まれたてじゃ。この時期ではまだ、思考が色恋に向かぬのは仕方の無い事じゃ。何せ、我ら魔王には家族がいない。他者との関係を築くに当たって、その根元となるのは、貴様等の場合は家族であろう?しかし魔王には家族が、ひいては親がおらんでな、関係性を築くにも一々手探りなのじゃ。我にも覚えがある。

 じゃが、じゃからこそ今の内にある程度の関係を持っておれば、将来大きなアドバンテージになろう。レライエ、貴様はそれが要らぬのじゃな?」


 「い、要らぬというわけでは………」


 「それがいかんのじゃ!!恋敵とはいえど娘、我が一言だけアドバイスを与えてやろう。


 恋とはの、頭でするものではないのじゃ」


 むっ………。深いですね。これまで数百年、男女問わず浮き名を流してきた母上が言うのですから尚更。


 しかし、であるならば妾にも目新しい経験がございます。今回の離反騒動、あれは妾が衝動に突き動かされての事。あの時は嫌悪からでしたが、好意からああなるとすれば、妾にもわからぬ話でもありません。


 しかし、何かにつけて物事を頭で考えてしまう妾では、些か難しい話でございます。妾は、己がそのような事態に陥る事など想像ができません。


 「ま、追い追いわかる。今は好きに生き、好きに振る舞えばよい。

 キアスは渡さぬがの」


 「それは妾の台詞でございます」


 「少々お待ちください、オール様。キアス様はあなたには渡しません。私もキアス様が大好きですから!!」


 パイモンが妾達の会話に割り込んでくると、フルフルやタイル様までも会話に加わってきました。


 「フルフルもキアスの事好きなの!!あげないの!!」


 「あははは。モテモテだなぁキアス君は。でも、ボクだって結構、彼の事は気に入っているんだ。誰かのものになるくらいなら、お姉さんが貰っちゃおうかな」


 「何を仰いますか、タイル様!?妾たち、キアス様の腹心が優先でございます!!」


 「レライエの言う通りです!!その中でもキアス様の1の配下、このパイモンの優先度はかなり高いのです!!」


 「じゃあフルフルは2番目なの!」


 「何をぅ!?我ら魔王が貴様等の後塵を拝せと言うか!?」


 「そうだそうだ!横暴だよ!」


 妾たちはそんなとりとめの無い話を続け、夜はふける。





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