神様は多忙っ!?
声の主は、呆れたような声で語ってくれた。
『ここは、君が以前生きていた、地球がある世界とは違う、別の世界だよ。
この世界にある、重力も、大気の成分も、星の大きさも、地球と酷似した星、それがここ、イム・ナヴァールだ。
ここは地球と同じように、生命が生まれたんだ。地球とは、かなり違った系統樹だがね。
さっきも言った通り、君をこの世界に呼んだのは私だよ。ちょっと君にお願いがあってね。
ああ、そんなに気負う必要はないよ。この世界に生まれた以上、君はこの世界の住人だ。もし、私のお願いを聞きたくないのであれば、好きにしてくれて構わない。私はあくまで『見守る』だけなのでね。
勿論、お願いを聞いてくれればお礼はする。これはあくまでお願いであって、命令じゃないからね。
さて、まずは君の現状から説明しようか。
君は、この世界に君臨する13人の魔王の1人として生まれた。ああ、引かないでくれ。本当なんだ。
その13人の魔王と、世界のほぼ全ての者が、相争うのが、このイム・ナヴァールの現状だ。魔王と魔族以外の者は、魔王の命を狙い、絶えず戦争を繰り返しているし、魔王同士も決して友好的ではない。
おっと、今度は少し、怯えさせてしまったかな?しかし安心してくれ、私は君に『他種族を絶滅させてくれ』とか、『女子供を狙って村を襲え』なんてお願いはしない。
おや、さらに怯えさせてしまったようだね、すまない。
私のお願いは、―――っとその前に、ここがどこだか説明しておいた方がいいね。
ここは、人間や他の種族が住まう、『真大陸』と、魔族と魔王が住む、『魔大陸』の丁度中間地帯、歴史上最も多く血を吸った大地、『魔王の血涙』と呼ばれる荒野の地下だよ。君にはここに、巨大なダンジョンを造ってもらいたいと考えている。あれ、なんだかさらに怯えているね?
大丈夫だよ。確かに、ここに居を構えるということは、両方の勢力から狙われることを意味する。でも誰かが君の命を狙って来ても、絶対に負けないよう、私が力を授けるから。
で、だ。さっきも言ったお願いなのだが、君に魔王と他の者達の争いを止めてもらいたい。
おっと、かなり嫌そうな顔をしているね?
大丈夫、なにも君に各国の要人や魔王を説得してくれと言っているわけではないよ。
そんな困難を極める上に、恒常性のない、不毛なお願いなんてしないさ。さっきも言った通り、この地に巨大なダンジョンを造ってくれれば、それでいい。
ここ『魔王の血涙』は、真大陸と魔大陸との、丁度中間地点という話しはしただろう?ここに、難攻不落のダンジョンを築けば、両大陸との緩衝地帯を産み出せるんだ。
この付近は、極点に近い為、気温が極端に低い上、海流が激しく海路での渡航は難しい。
しかし、ここから離れると、今度は真大陸と魔大陸の距離が離れすぎていて、航行不能な海流を避けるには、マゼラン並の大航海をしなければいけなくなる。この世界の技術水準ではまだ無理だね。
なに?マゼランを知らない?勉強不足だなぁ。
あ、そうか、人名や人間に関する記憶はないんだっけ。こっちの人たちを見たときビックリしちゃうからね。
マゼランさんは、君の元いた世界を、初めて一周した人だよ。えっ!?卵を立てた人?………勉強不足だなぁ………。
さて、私のお願いは分かってくれたかな?
出来れば、各種族の特性や、なぜ争っているのかの歴史なんかも教えてあげたいんだけど、時間がかかりすぎるからね。今は時間が大事だから。
え?なぜこんなお願いをするのかって?
そうだなぁ………。一言で言えば、『大変だから』かなぁ………。
君の知識なら事態の異常さは分かると思うから話すけど、この世界、人が死にすぎるんだよ。
この世界の平均寿命、いくつだと思う?
32だよ!?有り得ないでしょう!?
戦争ばっかしてるせいで、第一産業を生業とする人達は飢えて貧しい。でも働き手を増やすために産めや増やせ。
余った子供は兵隊になり、若くして命を散らす。しかも、こんだけ戦争ばっかしてるくせに、医療技術は未熟。なにせ、魔法があるからね。
あ、言っちゃった………。
あとで使えるようにさせて、驚かせようと思ってたのに………。
ま、まあその回復魔法、怪我には万能なんだけど、病気には全く効かないんだ。だから子供が沢山死んじゃうのも、平均寿命が短い理由だね。
とまあ、こんな感じ。
亡くなった人達の魂を導かないといけない私からしてみれば、こんな傍迷惑なことはないんだよ。
出来れば君が造るダンジョンでお互いが分断され、頭を冷やしてくれないかなぁって。
そういうお願いなんだ。
ここまでで、何か質問はあるかい?』
僕の質問は決まっていた。だが、その質問の答えもまた決まっていた。
「貴方って神様?」
『うん』