オシオキの時間っ!?
「レライエ」
未だ膝を折って見上げるレライエに、オールが尊大に声をかけた。
「おおよその話はわかった。完全に騙されたが、それはむしろ誉めてやろう。
だがな、貴様は己の嗜好から独断で動き、キアスや仲間に心配をかけた。
そのけじめはつけねばなるまいよな?」
「はっ。その為に此度は罷り越した次第に御座います」
「うむ」
なんか母娘の阿吽の呼吸で、話が進んでる。
「仕置きはキアスに任せたいところじゃが、あやつでは甘い処置になりかねぬ。よって我が貴様に罰を下す。異存はあるか?」
「いえ、妾もそれを懸念いたしておりましたゆえ、母上であれば手心無き罰を下していただけるかと」
「お、おいおい、僕としては、レライエのお陰でいい立ち位置で小物連合を観察できるし、罰なんか与えるつもりはないんだぞ?」
だが、僕の台詞に2人は揃って首を振る。
「キアス、事情はどうあれレライエは貴様から請け負った仕事を投げ出し、貴様の得になるとはいえ、勝手な判断で貴様の指揮を離れた。ここで罰を与えぬようでは、貴様の元で職務に励む者総てに申し訳がたたぬであろう」
「キアス様、母上の仰る通りです。妾も罰される事を望みます。これからも、変わらずキアス様の真なる配下でいる為に、どうかこのレライエに罰をお与えください」
えー。だって、マジで結構いいスタンスなんだよ?
小物連合の調子が良ければ、その尻馬に乗っかって稼ぎ、衰退すれば切り捨てる。ホント、アレがどうなろうと僕に悪影響はないし、上手くすれば大儲けも出来る。
だから、レライエに罰なんて与える必要は無いんだって。
「見ての通りじゃ。レライエ、やはり罰は我が与える」
「はっ。どのような御裁断も甘んじて受けますれば、どうぞ存分な罰をお与えください」
ああもう!何でそんなに罰を受けたがるかなぁ!!僕は良いって言ってんじゃん!!
「キアス、我が暴れてもよい場所を紹介してくれ」
「それならば迷宮か魔王の間が良いでしょう。あそこならば破壊されませんし、きっと母上にもご満足いただけます」
「うむ。ならば案内せい」
完全蚊帳の外じゃん、僕………。
っていうかオールが暴れて無事でいられんのか、レライエは!?死なれたらもっと困るんだが!?
勝手に話を進めて、オールとレライエの母娘は魔王の間へと歩いていった。レライエ、意外と体育会系なのか?
「あ、そうだ」
僕は事態の推移について行けずに、ポカンとした表情で固まっているパイモンに声をかける。
「パイモン、鎧の胸当て、壊れてるだろ?後で新しいの造らなきゃな」
「え、あ、はい。流石にオリハルコンといえど、クルーン様の魔法には耐えられなかったようですね」
パイモンが学ランの前を開けると、ボロボロになったオリハルコンの胸当てが露になった。
あのピエロも、腐っても魔王という事か。
「ちょっと板金が薄すぎたんだな。やっぱり、もう少し防御力を重視すべきか」
動きを阻害しないためと、平素から着込めるようにかなり薄く造ったからな。パイモンは、なんだかんだで魔王にもすぐ手をあげるし、次はもう少し分厚く造ろう。
「そういえば、よくわかりましたね、私の鎧が壊れているって」
「え?ああ、あの後パイモンが僕の体を支えていた時におっぱ―――」
あ………。
なんだか、かつて無いほどパイモンの視線が冷たい気がする。
「アンドレ、よろしくお願いします。私、少しお風呂に入ってきますので」
『はい。この空気の読めない、唐変木で、変態で、スケベで、間抜けなど阿呆魔王への罰は私に任せて、ゆっくり体を休めてきなさい。今日はよく頑張りましたね』
「はい。失礼します」
お、お〜い、パイモンさん?そんなに怒ってるの?
『彼女にそんな質問をする気なら、私は罰のレベルを一段階上げねばなりませんよ?』
「ごめんなさい!!」
即土下座。プライド?ハッ!何それ、いくらで売ってんの?
『私に謝ってどうするのですか?仲間を失ったと思って、1人悲しんでいたパイモンにこそ、あなたは誠心誠意謝らなくてはなりません』
「そ、そうだな。よし!僕謝って来るよ!」
流れでポケットからスマホを取り出して置いていこうとしたら、ものすんげードスの効いた声がそれから発された。
『待ちなさい』
すんげー怖い。アベイユさんが好好爺に思えるくらい。
『まずは私があなたに罰を与えましょう。………誰が頭を上げていいと言いましたか?』
「はい………」
再び土下座。
今やもうどうでもいいけど、魔王の間から轟音が聞こえ始めた。
いや、マジでどうでもいいな。だって絶対、あっちの方がまだマシだもん。
『とはいえ、私には手足がありませんし、オールのような肉体的な折檻は出来ませんね』
いや、精神的には惨殺レベルの攻撃してくるだろうが、お前は。
『ですから、それは貴方にやってもらいます』
「は?」
『自分で自分を折檻してください。あ、勿論手抜きなんて許しませんよ?』
「い、いや………、その光景はあまりにシュールっていうか………。な、なんならオールの方に僕も混ぜて―――」
『あんなものでは生ぬるいです』
えぇぇ………、三大魔王の折檻ですよ………?
「ち、因みにどのくらいのレベルのお仕置きなの?」
『地獄絵図ってありますよね?』
「うん………」
『あれは天国の情景だと、心の底から思うようになります』
あ、僕今日死ぬんだ。