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 カーニバルナイト。後の祭りっ!?

 召喚陣でピエロを仲間にした後、アベイユさんに挨拶をして僕らは城壁都市まで戻ってきた。僕らの居住スペースにこのピエロを入れるつもりはないので、ゴモラの館にいるオールの娘達にピエロを預ける。


 「こいつがなんか不愉快な言動をしたら僕に言ってね。すぐにお仕置きすっから」


 「クソッ。なぜこの私が」


 ぼやかないぼやかない。命があるだけ儲け物だろ。

 「まぁ、そう悲観する事もないさ。デロベに関するゴタゴタが片付いたら出てっていいし、それも別に遠い未来ってわけでもない」


 「………どういう意味だ?」


 さぁてね。これ以上は信頼できる奴にしか教えられないよ。


 館の一室にある転移陣から、僕らは神殿まで転移する。因みに、この転移陣を使うには鍵が必要で、それを持っているのは決められた人物だけだ。

 ソドム側は、僕、ウェパル、コーロンさんだけだし、ゴモラ側は僕、パイモン、レライエだけだ。


 フルフルやマルコとミュルには渡してない。落とされたり無くされたりしたら一大事だからね。




 さて、僕が転移の指輪まで使って、急いでここまで戻ってきたのには理由がある。僕の読みだと、戻ってきている筈なのだ。


 リビングの扉を押し開くと、そこには平伏するレライエがいた。


 「レライエ!!」


 声を荒げて警戒するパイモンと、目を丸くするオール。さらには、我関せずのエレファンとタイル。またひと悶着起こりそうな空気だが、唯一の救いは、お子様メンバーのウェパル、マルコ、ミュルが既に寝室に入っているであろう事か。フルフルはこの時間はたぶん風呂だろう。


 「どういうつもりですか、レライエっ!?なぜあなたがここにいるのですっ!?」


 パイモンの問いに答えず、レライエはただただ頭を下げている。


 「落ち着きなってパイモン。レライエ、僕は別に怒ってないよ?君があの場で言った事の意図は、ある程度わかってるから」


 「キアス様、完全な独断専行、申し訳ございませんでした」


 レライエの台詞に、僕は安堵の息を吐く。ほんの一握りくらいは、あのまま離反される可能性も考慮してたから、ようやく人心地つけたよ。


 「まぁ、僕にその発想はなかったから思わずよろめいちゃったよ。危なく『レライエ、恐ろしい子………!!』とか言うところだった」


 もうあの時は愕然としたね。レライエはホント、恐いまでにしたたかだよ。


 「キ、キアス様………?」


 「わけがわからんぞキアス、説明を要求するぞ!!」


 困惑を浮かべるパイモンとオール。まぁ、あれは僕にしか伝わらない暗号だったからね。


 「話が長くなりそうだから、ボク達先にお風呂入ってるよ?」


 「ん。しゃんぷー、りんす」


 マイペースだなぁお前らは!!


 勝手知ったるなんとやらで、エレファンとタイルは興味もなさそうに大浴場に直行した。昨日は入れなかったしな。


 「えーと、まぁ、結論から言えば、レライエの離反はフェイクだったんだよ。僕も知らなかったし、あの場で勝手にレライエがやった事だったんだけどさ」


 「キアス様であれば伝わるとは思っておりましたが、万一伝わっていなければと、恐怖に打ち震えておりました」


 別に以心伝心って程レライエと深くわかり合った仲じゃないからね。ただ、その独断の成果は多い。


 「わからんの。示し合わせもせず、なぜそこまでの意思疏通ができたのじゃ?実の母である我も、あの時は本気でレライエが寝返ったものと思っておったぞ?」


 あの場での小物連合の結成は、完全にデロベの思い付きだったからな。


 「僕とレライエだけに伝わる符丁があったのさ。『短槍と太刀』、だよな、レライエ?」


 「キアス様の狼狽する演技に、多分に救われた拙い謀でございました」


 「いやいや、あの後言葉に窮したのは本当さ。何を言ってもボロが出そうでね」


 あの時レライエは『例え母上でも、キアス様であろうとも、この短槍と太刀でお相手いたしましょう』と言った。だが、レライエの持つ武器は長巻きだし、得意な得物もポールウェポンなのに、魔王を相手に得意でもない短槍と太刀で相手をするのはおかしい。さらにレライエは、出発前にこうも言っていたのだ。


 『剣を腰に差し、短槍をもって周囲を欺き、いざ事が起これば繋げて長柄とする』


 つまり、『短槍と太刀』に込められた意味は、『欺く』というメッセージ。しかも、僕とレライエ以外には決して伝わらない符丁だったのだ。


 そもそも、召喚を使って仲間にしている以上、レライエにとって離反はリスクしかない選択なのだ。あそこまであっさり仲間になる事を了承しておきながら、あからさまに僕と仲の悪いデロベに与するのはあまりに危険が大きい。レライエがもしそこまで短慮であれば、切り捨てれるくらいには僕は冷酷を自負しているし、関係だってそこまで深くはない。


 まぁ、寂しいは寂しいだろうけどさ………。


 「とはいえ、やっぱり独断専行だったのは否めないね。確かに小物連合に間諜を放つ事はあらゆる場合において有効だけど、レライエ本人の危険は否めないし、デロベや他の魔王にも裏切りは疑われてるだろう?」


 「はい。早速連合の事務仕事や、人員の取りまとめという大任には就きましたが、各魔王様からは距離を置かれた形となりますね」



 「あーあ、言わんこっちゃない。まぁ、僕にとって有用な情報は小物連合の栄枯盛衰だけであって、魔王の近況なんてどうでもいいから、そのポジションでベストなんだけどね」


 近場にいるらしい、あの3つ目の女の子はちょっと気になるけど。ああ、ご近所付き合い的な意味でね。恋愛感情とかじゃないよ。可愛かったけどさ。


 「何であんな事をしたの?」


 別に、無理にスパイを送り込む必要もなかったし、考え付いたとしても僕は実行しなかっただろう。送り込むリスクが高すぎるから。だからレライエが独断専行してまであの組織に潜り込む意味、それがさっぱりわからないのだ。


 「はい。それは―――」


 レライエが面を上げる。表情の読めない涼やかな笑み。そこには、仄かに薄暗い感情が見え隠れしているのは気のせいか?



 「―――脆い氷柱を見れば、それを折りたくなるのが人情だとは思いませんか?」




 いや、絶対にそんな柔和な笑みで言う事じゃないから。


 「あのような屋台骨の弛い組織、瓦解させるのは容易い、児戯にも等しき事。おまけに創設者は快楽主義者を気取った退廃主義者の第6魔王様。

 妾は、ああいう他人を騙す輩を見ると、逆に騙して手玉に取ってみたくなってしまうのですよ。因果応報という言葉を、その意味と共に末期の脳裏に刻み付けて差し上げたくなるのです。


 ですから、あの時妾が述べた言葉には、一抹の虚偽もございません。


 妾は心の底から、第6魔王様の末路を見たかったのです。それまでに増長するならば尚良し。その破滅を助長させる事が出来れば最早言う事などございません。


 あ、勿論、キアス様の御為という目的もございます。キアス様が真大陸ほど魔大陸で自由に動く事が出来ぬのは、魔族や他の魔王が社会秩序を導入できていない故で御座います。

 連合の設立に伴い、ある程度の社会秩序と金銭感覚、経済観念などを広く普及させ、キアス様の利益と出来るよう、このレライエは尽力するつもりで御座います!!」


 恐いよ。本当に恐ろしい子だよレライエ………。


 「キ、キアス………。我の娘は、貴様の所で何を学んだのだ………?」


 戦慄するオールが、冷や汗を浮かべながら僕に聞いてくる。


 知らないよ!レライエって名前を付けたのはオールなんだから、それはそっちの責任だ!!




 レライエ。

 ソロモンの72柱の悪魔の序列14番。レラージェ、ロレイ、オライとも呼ばれる、弓を手に持つ狩人の姿で現れる悪魔。戦いと論争を巻き起こし、与えた矢傷を腐らせる、凄惨な逸話を持つ悪魔である。




 レライエがこの名を冠したことは、運命だとは思いたくないなぁ………。





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