カーニバルナイト。傀儡
くそっくそっくそっ!!
こんな筈ではなかった!こんな筈ではなかったのだっ!!
第6、第9、第12魔王を取り込んでいた私は、この会議をもって第13魔王を弑す議決を取り、それから魔大陸、真大陸双方を御す大魔王となる筈だったのだ。
あと1人、魔王を抱き込めれば過半数をとれたものを………っ!!
全てはこの、アムドゥスキアスがここに現れた時から狂い始めたのだ。
姑息にも三大魔王に媚を売り、味方につけるとはっ!!魔王としての矜持も持たぬくせに、私の計画を阻みおって!!
許さん。許さんぞ!!
もう他の魔王など知った事か!!今ここで、この忌々しいクソガキをぐちゃぐちゃにしてやる!!
「だいたい、某はアムドゥスキアスさんに難民流入の補填として、いくらか利益供与を受けたかっただけっすよ。殺してどーすんすか?」
「我輩は、アムドゥスキアス殿が三大魔王並みの化け物だと聞いていたから、連合とやらに参入したのだ。
だが、実際に見てみれば、アムドゥスキアス殿にそれ程の覇気は感じん。無論抑えているのだろうが、三大魔王程の隠しきれんオーラはない。これでは三大魔王の方を敵に回しかねんぞ!?」
煩い!!小物共がっ!!
今はお前達に構っている暇など無いのだ!!
「アムドゥスキアス!!貴様だけは絶対に許さん!!」
床を蹴り、一気にアムドゥスキアスに接近する。バカめ!!全く目で追えていないではないか!!
いくら魔王といえど、生まれたてでは大した力など無い。多くの命を奪い、多くの戦いを経ねば、魔王とてただの魔族よ!!
「キアス様っ!!」
くっ。アムドゥスキアスの護衛、先程無礼にも私を殴ったオーガの雌が私を阻む。
「どけぇ!!これは魔王と魔王の決闘!!貴様ごときが手を出していい戦いではないのだ!!」
完全に体を押し戻され、さらには弾き飛ばされた。このオーガ、中々の力だ。
会場は下級魔族共が逃げ惑い、阿鼻叫喚の様相を呈してきた。
オーガが1歩前に進むと、胸を張って言い放つ。
「私はキアス様の護衛です。例え魔王様といえど、キアス様に危害は加えさせませんっ!!」
そのオーガの背後では、第4魔王の娘がアムドゥスキアスを庇うように立っていた。
姑息な。第4魔王の護衛と称して、護衛を2人も連れてきたのか。
「キアス様、ご指示を」
「後々本当に攻められて、大量の死者を出すのは本意じゃない。殺せるなら殺しちゃっていいよ」
「了解しました」
オーガが左右の腰に提げた獲物を抜く。剣かと思っていたが、どうやら鈍器のようだ。
「ちょっと待つっす!!それ、オリハルコンじゃないっすか!?」
なっ!?オリハルコンだとっ!?そんな物をたかが1本角のオーガに持たせているのかっ!?
出所は第4魔王だな。しかし加工できなかったのではないか?
「キアス様のご命令です。速やかに撲殺します」
「ケッ、1本角のオーガが。オリハルコンを持っているからって調子に乗るな!!魔王に逆らった罰だ、八つ裂きにして食らってやる!!」
「『地走り』!!」
中々のスピードでオーガが突進してくるが、こんなもの私には通じん!!
余裕をもってオーガから距離をとると、反撃に転じる。
「『アネモス・ディミオス』!!」
オーガの背後から、すかさず魔法を発動させた。
強風が矛となってオーガを襲う。7本あった風の槍の内、4本まではかわされたが、3本は命中した。
だが、どうやら胸と腕には、鎧があったようで肉を抉るような手応えはなかった。
しかし、風に吹き飛ばされ、壁に激突したオーガ。あの勢いであれば、普通の魔族など一たまりも無いであろう!!
「さぁ、次はお前の番だアムドゥスキアス!!」
私が堂々とアムドゥスキアスを名指しするも、当のクソガキは呆けた表情で返してきた。
「はぁ?何言ってんのお前?」
その時である。
オーガが激突して砕けた壁の向こうから、声がした。
「『トレホ』!!『地走り』!!」
粉塵の中から、先程より遥かに速度を増したオーガが飛び出してきたのだ。
「僕のパイモンがお前みたいなピエロに負けるわけがないだろ?」
「なっ!?」
完全に油断していた。
オーガの繰り出す金色の棍棒をなんとか右腕で防いだものの、先程のオーガとは逆方向に弾き飛ばされた。
「あ………っ。がっ………」
壁に激突し、崩落する瓦礫のつぶてを体に受け、ようやく感覚が痛みを訴えてきた。
ぐっ………。あっ………、私の腕がっ………!!
あらぬ方向に曲がった腕を押さえ、震える足で立ち上がる。
「何故だ………っ!?たかがオーガ風情にこの私が………っ!?」
「はっ!たかがオーガなんてなめてるからそうなるんだよ。パイモンのステータスは、攻撃力と防御力でお前のステータスを圧倒的に凌駕している。
でなければ僕がパイモンを危険に晒すわけがないだろうが。お前のステータスじゃ、コションを殺せたかどうかすら怪しいっての!!」
くそっ………!!
アムドゥスキアスめぇっ!!
こうなれば、もう容赦などせん!!最大威力の広範囲術式をお見舞いしてくれる!!
ここが第5魔王の支配地域であるのもむしろ好都合。奴も私の完璧な計画を阻んだ1人なのだから。
最上級風魔法のイメージを刻み、魔力を放出する。
死ねっ!!愚か者共!!
「『アネモ―――」
「―――はぁい、そこまで」
がぁ………ぁ………。
な、何が………。
胸から突き出したその腕に視線を落とし、それから背後を見やる。
「やぁ、中々面白い余興だったよクルーン。だけど、俺まで巻き込まれちゃ堪んないしね」
「ぁ………、だ、第6、まお、う………」
「はぁい、第6魔王のデロベ君でぇーす」
ば、かな………。
こいつは、私の計画に誰よりも協力的だったはずだ。なぜ、ここで私を討つ!?
「きっ………さま、はっ………」
「そぉだよぉ」
私の耳元に口を寄せ、他の魔王に聞こえぬようにデロベが囁く。
「俺はねぇ、お前を利用する為に騙したんだ。いや、違うかな。面白おかしく踊り狂って死んでいくお前が見たくて、お前に協力するフリをしたんだ」
「ぐっ………!!ああああ゛ぁぁぁ!!」
「動いちゃダメじゃないか。余計痛くなっちゃうよ?こんな風に」
「がぁぁぁあ゛あ゛あ゛!!」
デロベが腕を動かす度、例えようもない激痛が全身を苛む。
「俺の手の平の上で踊るお前の道化師振りは、そりゃあそりゃあ見事なもんだったぜぇ。
まぁ、もうちょっと遊んでみようかとも思ったんだけどよ、やっぱこういうのって終わらせ時ってのを見誤ると途端にダレるからよぉ」
「こ、この………っ!ああ゛ぁぁぁ!!」
ぐっ、私をなぶるつもりか!?
「最期までよぉ、世界の終わりまで語り継がれるような道化師ぶりを俺に見せてくれよクルーン。ほらっ、ほらっ、ほぉら」
「あ゛っ!!がぁっ!!やめっ!!ぐぁ!!やめろ!!」
「ぐふふふ。いいぜぇ。超いい。お前今最高の道化師だぜクルーン」
「だすげ―――あ゛っ―――ごろせっ―――ごろしてぐれ―――ああ゛っ―――ごろじでくだ―――あっ―――」
転げ落ちる視界の中で、黄金の剣を構えた人間の子供のような男が笑っているのを見た。
気がした。