カーニバルナイト。開演っ!?
うんめぇ!!
なにこのぷるぷるな食べ物!?口の中で、膜が弾けてじゅわぁっと旨味が広がってくる!!動物性の油の味がするし、もしかして何かの肉なのかっ!?
ふぉう!!こっちの熱々とろっとろのヤツは、すっごい濃厚な味わいだ。
やべー、魔族ナメてた。食文化だけは人間にひけをとらないかも。
「第13魔王殿?どうか私の話に耳を傾けてはいただけないですかな?聞いて損はさせませんので」
あー、この雑音さえなければ最高の食事なのになぁ。
「うるさいのう。せっかくの酒が不味くなるわ」
あ、オールが雑音に耐えかねず反応しちゃったよ。面倒くさそうだなぁ。
「もうよいから、疾く告げて、疾く去ね」
「おぉ!!ありがたきお言葉です、第4魔王殿。
んん。では改めて。第10魔王、クルーン・モハッレジュ・パリャツォスでございます。
第13魔王殿、もしよろしければ我々の連合に加わりませんか?」
「連合?」
「はいっ!!
連合といっても、具体的な組織があるわけではありませんし、言わばただの同盟なのですが、我々は人間と違って国等というものを持ってはいないので、差別化の意味も込めて連合と―――」
「余計な口上はいいから、とっとと話してくんない?」
ピエロの眉がピクピク揺れるのを、僕は見逃さなかった。こいつ、一国の王どころか、商人にも向かないな。
「これはこれは、失礼いたしました。連合は、あまり身構える必要などない、ただの情報交換のためのものです。各地の情勢や、各魔王の情報をやり取りして、より円滑に支配地域の安寧を守るための、言わば互助組織なのです。
いかがですかな?」
っていうかコイツ、僕の事馬鹿にしてんの?
ここに招待しなかった事や、さっきの嫌味を聞かされて、『へぇー、いい組織ですね。じゃあ入ります』なんて言うとでも思ってんのか?
美辞麗句を並べられて、信用も出来ない奴からの勧誘にホイホイ乗ると思われてんなら、僕はこいつに完全にナメられてるという事になる。
「………本当に下らん話じゃの。話は終わりであろう?消えろ」
「ま、待ってくださいっ!!確かに第4魔王殿程のお力があれば、このような組織など必要ないかも知れません。しかし、まだ生まれて間もない―――」
「僕の事を言ってるなら、僕もオールに同意見だ。下らないからさっさとどっか行ってくれ」
あ、またピクピクしてる。っていうかコレ、メイクじゃなく地なんだ。
真っ赤な丸鼻も、左目の周りの星形の隈取りも、右目の下にある涙のマークも、真っ赤なたらこ唇も、全部自前なんだ。流石に帽子や衣装は用意した物だろうけど、正にピエロとなるべく生まれてきた魔王だな。
「………さ、参考までに、どの部分がお気に召さなかったのかをお聞きしても?」
「どの部分がって聞かれても、基本的に全部気に入らないからな」
「………っ!!ぐっ………、具体的には………?」
「そうだな。まず、まともな社会秩序も形成できないような奴等の、規律もない組織がまず全く信用できない事。
いくら耳障りのいい言葉を並べ立てられても、僕からしたら新興宗教の勧誘か、ねずみ講にでも誘われてる気分なんだよ。
んで、次にあんたら自体の信用問題。
僕は、これっぽっちもあんたらを信用していないし、そんな奴等から流された情報にも信憑性を感じない。情報の精査に時間を取られるくらいなら、ハナから自分で情報を集めた方が早い。
最後に、僕あんた嫌い」
ちょっと言葉を尽くしすぎただろうか?全く、酸素の無駄遣いだ。この星で温暖化が起こったらこのピエロのせいだ。
「………コションを殺した程度で調子に乗るなよ、この新参」
はやっ。
うわっ、もう化けの皮が剥がれたよ。
「あのような脳味噌の欠片もない戦闘狂など、貴様が殺さずともいずれ私が殺していた。
貴様もだ。フン。どうせなら私の指示の元、有効に使い潰してくれようと思っていたが、もうヤメだ!!貴様は連合の総力を持って叩き潰してくれる!!」
その連合っての?一体何人いるのさ?エレファン、タイル、オールが入ってなくて、さらに多分エキドナさんやアベイユさんも入ってない。
残った魔王って、このピエロ含めて4人?
連合って名前がいきなり薄っぺらくなったな。ベニヤ板並だ。
「お集まりの魔王の皆さん!!
ここにいる第13魔王は、魔大陸に災いをもたらす狂王となります!!
こんな者をのさばらせていいのでしょうか!?いいえ!!いい筈がありません!!
我ら魔王は、真大陸の人間を滅ぼし、魔族の理想の世界を作り上げねばならないのです!!にもかかわらず、魔大陸と真大陸との通行を遮断し、魔王の一角を同じ魔王でありながら葬ったこやつは、最早我々魔王の1人と呼ぶのもおこがましい!!
第1魔王殿、第2魔王殿、第4魔王殿、騙されてはなりませんぞ!!あなた達を取り込むことこそ、こやつの狙いなのです!!」
あ、今集めんのね。行き当たりばったりだなぁ。コションより、このピエロの脳味噌の方が心配になってくるな。
「っていうか名前知ってんのに、何でこいつはオール達の名前を呼ばないの?」
「要は臆しておるのじゃ。我らの癇に障れば、自らの命も危ないとな。その意味では、とっくに手遅れじゃが」
なんかいきなり演説を始めたピエロを無視して、隣で杯を傾けるオールに話しかける。
「貴様のような無神経な輩にはわからぬだろうがな、三大魔王は我ら魔王の頂点にも等しい存在だ!!
無礼な態度で接する貴様に、魔王たる資格はないっ!!」
またピエロが話しかけてきたよ………。もううるさくてもいいから、独演会やっててくれよ。
「オールはこいつの事をどう思ってんの?」
「どうも思わん。ただ小物じゃと、見る度に思っておるだけじゃ。話が一々薄っぺらいでな」
「ああ、確かに」
セールストークも下手となると、本当に商人は無理だな。
「えぇぇぇいっ!!私を無視するな!!
皆さん、見ましたかこの態度!!三大魔王に敬意も払わず、魔王の先達たる私にこの言い様。最早、この者が魔王に相応しくない事は明白でしょう!!
私は今ここに宣言します!!アムドゥスキアス!!その傍若無人な振舞い、目に余ります。よって私はあなたを魔族の敵として排じ―――うぼぁ!!」
あ。
ピエロが切り揉みしながら弧を描いて飛んでいく。あ、落ちた。ああいうのに限ってしぶといし、あれくらいじゃ死なないだろ。
僕はピエロに向けていた視線を、ピエロを殴った張本人へ向ける。
「パイモン………」
「も、申し訳ありません、何度も我慢しようとしたのですが、流石に耐えかねてしまって………。
どうしましょう、魔王様の1人を殴ってしまいました………」
何を言うか。コレはまさに―――
「「「グッジョブ!!」」」
僕と三大魔王は、揃ってサムズアップで答えた。