カーニバルナイト。邂逅っ!?
「うわぁ。色んな人がいるなぁ」
会場は、様々な食べ物や人が、雑然と犇めき合っていた。
「バイキングみたいな感じなのか?」
中央にある巨大な円卓。それに積み上げられた飯、飯、飯。さらにそれを取り囲むのは、扇情的な衣装を身に纏った女性………と男性。うわっ………。食欲減衰。
「周りに離れて座ってんのが、魔王?」
「そうじゃ。何人か紹介してやろう!!」
オール張り切ってんなぁ。ずっと腕組みっぱなしだし。
つーかこれ、ただのパーティーじゃん。こんなん会議って言い張ってたら、僕の代官達が激怒するぞ?
「よう、エキドナ。久しいの」
「ああ………、オール。久しぶり。相変わらず節操がないのね………」
まず、やたら美人のお姉さんの前に連れていかれた。
背から巨大な蝙蝠のような羽を生やし、ゆったりとした前合わせの服にその豊満な体を無理矢理詰め込み、パレオのようなスカートとその服の間から長い長い蛇の尾がとぐろを巻いている。自分の尾に腰かける美女は、ウェーブのかかった暗緑色の髪に、同じ色の長い睫毛、やや伏し目がちな瞳は、蛇のような細長い瞳孔の金色。肌の色は文字通りの蒼白で、やや青みがかっている。
やたらとダウナーなオーラを、周囲に撒き散らしているが、顔だけは目の醒めるような美人だ。
「貴様の旦那、死んだらしいの。惜しい男じゃった。我もあやつの子が欲しくて何度も迫ったのだが、ついぞ首を縦には振らなんだ。貴様に操をたてていたのじゃな」
「単に、あなたのような尻軽が好きじゃなかっただけよ………。あの人、絵に描いたような堅物だったから………。
それで、その子は………?」
「おお、紹介するぞ!この者は第13魔王、キアスじゃ!!我の伴侶ぞ!!」
「勝手に外堀から埋めようとすんなっ!!伴侶じゃないし、略称での紹介とかナメんな!
えっと、エキドナさん、でよかった?僕はアムドゥスキアス。しがない新参の魔王です。これからよろしくね」
「そう………。そういう事情………。あなたも大変ね………。ソレ、かなりしつこいらしいわよ………」
何やら察してくれたらしいエキドナさんが、僕に同情の視線を向ける。誤解されなかったのは本当に助かる………。
「ソレとはなんじゃ!?我とキアスは相思相愛じゃ!!」
「へぇ。そいつは初耳だ。もしよかったらそのキアスさんってのを紹介してくれ」
「相変わらずつれないの。じゃがそれもまた貴様の魅力じゃ!!」
はぁ………。あ、エキドナさんとため息が被った。
「アムドゥスキアス君、私はエキドナ・ジャナフ・フィズィ。第8魔王よ………。
ウチの旦那も、ソレには随分苦労させられたらしいから、頑張ってね………。
それと、さっきはいい演奏だったわ………」
それだけ言うと、再び物憂げに会場を見回すエキドナさん。
「キアス、次の者を紹介してやろう!!」
「お前の紹介とか、もう全然アテになんねーな。自己紹介は僕がやるから、お前は何も言うなよ!?」
そんなやり取りを繰り広げながら、僕たちはエキドナさんの元から立ち去ろうとした。
「そうそう、第6魔王には気を付けてね………」
振り返っても、エキドナさんは物憂げに頬杖をついていた。
「これが第5魔王じゃ!!元気にしてたか、アベイユ!?」
第5魔王はなんというか、『ぼくのかんがえた最強の昆虫』って感じだった。体は基本的に人間より一回りデカイ蜂。黒と黄色の警戒色が毒々しい。
だが6本ある足の内、1番上は蟷螂のような鎌になっていて、かなり鋭利な刃物のようだ。ちなみに色は黒。2番目の足は、足というより腕だ。人間の腕ではなく機械のアームって感じ。マニピュレーターのような、複雑な動きもできそうな腕だ。因みに黄色。3番目は完全に足。アスリートみたいな太い足を、外骨格で覆っている。色は黒。
頭からは、クワガタの顎のような2本の角が生えていて、こちらも鋭利な上に棘まである。色、黄色。
ぶっちゃけ超こえー。
「オール殿も壮健そうだな。無沙汰をしている。
それが第13魔王か?第10の………なんといったか。あれの言うような、下らぬ野心にとり憑かれる輩にも見えんな。だが、よい塩梅に狂っている。
魔王たる者、狂気1つ御せねば末は惨めな小悪党だ。あんな風にな」
ムシキ○グ、もとい第5魔王はマニピュレーターのような手を器用に動かし、会場をウロウロしているピエロを指差す。
「あれが第10魔王だ」
「えっ!?余興のための道化師とかじゃないの!?」
「まぁ、その認識でもおおよそ間違いはない。
あれが、今回の『逢魔が宴』の主催者だ。どうやら貴殿を貶める為に開いたようだな。俺にも一度陰口を叩きに来たぞ」
ああ………。つまりは僕をハブった人ね。
うん。メモっとこ。あ、手元にデスノートしかないや。ま、いっか。
「俺はアベイユ。アベイユ・ファラス・アルナビ・エラフォカンタロス。第5魔王だ。
貴殿の名を聞こうか、第13魔王殿」
「アムドゥスキアス。なんかアベイユさんっていい人そうだねー」
「フン。
一応忠告しておこう。もし俺の支配地域に攻め込んで来ようものなら、3日3晩苦しんで死ぬ事を覚悟しろよ?」
「ああ、ないない。何でわざわざ仕事増やしてまで、他人の土地なんかとらにゃならんのさ。コション倒したせいで手に入れちゃった土地に、僕がどんだけ手を焼かされたか」
お陰でグリフォンの里に行ったり、変態な龍に貞操を奪われかけたり大変だったんだから。
「フフン。わかっておるではないか。
無闇矢鱈と戦を起こせば、そのしっぺ返しは必ず自分に帰ってくるのだ。
かく言う俺も、昔戦に明け暮れたせいで今は忙殺される身だ。別に貴殿が何をしようと構わぬが、俺を煩わせるのだけは遠慮してもらうぞ」
「善処しましょう」
うん。なんだ、魔王って思ったより話の通じない人達じゃないんだな。
その時はまだ、僕はそんな戯言を夢想していた。
「これはこれは!黄金の魔王と名高き第4魔王、オール・ザハブ・フリソス殿ではありませんか!!
相変わらずの眩しいまでの王者のオーラ。この第10魔王、クルーン・モハッレジュ・パリャツォス、太陽が落ちてきたのかと錯覚いたしましたよ!!
おや?そちらにいるのはもしや、噂に名高き虐殺王、第13魔王殿ではありませんか?
貴殿の武勇は、今や魔大陸中を駆け回っていますよ。魔王コション殿とその軍勢数千を虐殺せしめ、その領土を併呑し、コション殿の元部下は無慈悲にも放逐。久々に胸踊るような、魔王らしい逸話を聞かせていただきました。
おっと、自己紹介がまだでしたね。私は第10魔王、クルーン・モハッレジュ・パリャツォス。以後お見知りおきを」
「オール、僕お腹空いちゃったよ」
「そうじゃな。あとは紹介するまでもないような者ばかりじゃ。飯にしようぞ!!」
うーん。迷うな。見たことのない料理ばかりだ。
やっぱり最初は、あのぷるぷるしてるヤツからか?いやいや、待て待て。あのとろっとろのヤツも捨てがたいぞ。
じゅるり。おっとヨダレヨダレ。
あぁ………。楽しみだなぁ。




